第59話 応援
試合当日、私は愛ちゃんといっしょにアスカちゃんの応援に向かった。
開始時間より早めに着くように向かったけど、それでも電車は満員だった。
私たちと同じく、会場の最寄り駅で下車する人が多かった。
おそらく今回の大会が目的だと思う。
前日の計量ではアスカちゃん、麗艶さん、ともにクリアした。
麗艶さんは一回目の計量で四〇〇グラムオーバーしたけれど、一時間後の再計量でリミットギリギリでクリアした。
もし計量失敗で麗艶さんが王座剥奪、アスカちゃんが勝った場合のみ王座獲得となったら、せっかくのタイトルマッチに水を差すことになってしまうから、両者ともクリアできてよかった。
チケットは二人で奮発して三番目にいい席を購入した。
最前列ではないけれど、比較的、リングから近い席で、一枚あたり三万円だった。
でも、アスカちゃんの夢の舞台を間近で観るためなら、この程度の出費、なんてことない。
まだ開始前だというのに、会場前は人でごった返し、会場の外にも長蛇の列ができていた。
列に並んでいると、私と愛ちゃんの前に見覚えのある男性二人の後ろ姿を発見した。
思い切って声をかけると、二人組みは振り返った。
やはりチームスパークの練習仲間だった青田さんと堀山さんだった。
のっぽで痩せ気味だった青田さんの顔は少しふくよかになっていた。
堀山さんは逆にボディビルダーかというくらい筋肉ムキムキになっていた。
私は二人にぺこりと頭を下げた。
アスカちゃんの引っ越しのときに面識のある愛ちゃんも元気よく挨拶をした。
青田さんたちは嬉しそうに笑った。
「お久しぶりです。ヒナさん、すごい活躍してますね。前の試合も勝ってますし」
青田さんの褒め言葉に、思わず顔がほころんだ。
「ありがとうございます。青田さん、大学生活はどうですか?」
「今のところ単位を落としてなくて、さらなる留年は免れています。学業に専念しようと思って格闘技を辞めていたんですけど、次第に恋しくなってしまって。結局、また始めちゃってます。趣味としてですけど。でも、またアマチュアの試合にも出たいですね」
恥ずかしそうに青田さんは言った。
堀山さんと同じジム、つまりジュリちゃんと米田さんのいるデルタジムで、週に二回ほど練習しているらしい。
「今日は早瀬さんの応援ですか?」
愛ちゃんの問いに堀山さんが答える。
「そうだよ。ジュリちゃんは、ここで連敗したらタイトル戦線から大きく遠のくからね。何が何でも勝ってほしいよ。でもジュリちゃんなら心配ないね。米田くんを中心としたメンバーとみっちり特訓してきたからね。俺も微力ながら協力したよ」
「米田さんはジュリちゃんのセコンドですか?」
堀山さんが頷いた。
「ここだけの話、あの二人できていてさ。今じゃ米田は格闘家兼専属コーチ兼恋人だよ」
青田さんが堀山さんを小突いた。
「堀山さん、口が軽すぎでしょ」
「悪い。つい話したくなってしまって」
私はただただ驚いた。
「えっ? あの男嫌いのジュリちゃんがですか?」
嬉しい知らせだ。私も嬉しい。でも愛ちゃんはもっと嬉しそうだ。
「二人とも美男美女だったよね。お似合いですな!」
愛ちゃんの言葉に堀山さんもうんうんと頷く。
「俺もびっくりだったよ。人って変わるもんだなあと驚いてる」
堀山さんたちの前の人が動き出した。
「あ、行列が動き出した。歩きながら話そうか」
その後はスムーズに皆が会場に吸いこまれていった。
席が違うので、堀山さんと青田さんとは別れ、私と愛ちゃんは指定された席に座った。
最前列からかなり近く、試合の様子をかなりはっきりと見ることができるはずだ。
「あ、あの人、タレントの祐介さん。うわ、あっちは女優の里美さんだ!」
愛ちゃんは最前列にいる著名人たちを見てはしゃいでいた。
「華やかな舞台だよね」
「んだんだ。ヒナも契約を勝ち取ったんだよね」
「うん! 絶対にこのリングに上がって試合をするよ」
二人で話をしていると、あっという間に時間が過ぎ、開会式になった。
代表の原田さんが挨拶して、全選手が試合順に入場していく。
セミファイナルのアスカちゃんも入場してきた。
途端に「神童! 神童!」と観客からたくさんの声援がとどろく。
アスカちゃんは、その中をゆっくりとだが、力強く歩を進めていく。
真っ白いフード付きのガウンを羽織っているので、顔は見えない。
ガウンの背中側には、赤い鳥の翼が大きく描かれていた。
まさに飛鳥だ。
「あの服かっこいいね。火の鳥って感じでフェニックスジムにもアスカちゃんにもピッタリ」
私の賞賛の声に、愛ちゃんがにゃははと笑う。
「そんなに褒められたら照れちゃうにゃ~」
「え? ひょっとして愛ちゃんがデザインしたの?」
愛ちゃんは親指を立てた。そういうことだろう。
「親友の晴れ舞台だからね。気合い入れて作ったよ」
私も親指を立て、応じた。
「やっぱり愛ちゃん、服を作るのがすごい上手だね。絶対ファッションデザイナーになれるよ」
「私は欲が深いからね~。なると言ったら絶対になっちゃうよーん」
「ちなみに、私のときもデザインよろしくね」
愛ちゃんは歯を見せ、ニカッと笑った。
「任せとき。二人にピッタリな衣装をこしらえたげる」
二人という言葉にハッとした。
「そうだったね。絶対に、きっと、アスカちゃんとタイトルマッチができるよう頑張るよ」
「贔屓なしに二人にぴったりのを作ったるけえな。衣装に負けないファイトを見せてな」
「うん、頑張る!」
アスカちゃんが、花道からリングへと向かう途中、距離が近くなったので、声をかけた。
「応援に来たよー! 絶対に勝ってね!」
これだけの観衆の中、私の声が届くはずもなく、そのまま突き進んでいった。
私はアスカちゃんの後ろ姿に力強いものを感じた。
開会式が終わり、早速第一試合の開始となった。
最初から打撃によるノックアウト決着で会場の熱気が高まった。
この調子で進めばいいけれど、常に闘いが噛みあうとは限らないし、判定決着のときだってある。
第二試合、第三試合は動きも少なく、あまり盛り上がらない判定決着だった。
会場からはブーイングが漏れた。
でも私は判定決着が、面白みのない試合をすることが、決して悪いことだとは思わない。
いくら良い試合をしても、負けが続いたら次の契約にありつけないかもしれないし、勝ちに徹することも、上を目指すのであれば必要になってくる。
たまに観客を楽しませるために、リングの中央で足を止めてノーガードの殴り合いをする選手もいるし、闘いのあり方としてそれもありだと思うけれど、ダメージや引退後の人生のことを考えたら、強制できるものじゃない。
そんなことを思っていると、リングアナウンサーが高らかに次の対戦カードを叫んだ。
「つづきましては、第四試合! 起死回生なるか? 柔術プリンセス、早瀬ジュリ! 対するは、同じく連敗からの復活を図る、スペインの巨人、ドゥーネ!」
友達、いやもう一人のライバルの登場だ。
私は試合に集中しようと目を見開いた。




