第41話 リベンジに燃える
放課後、スポーツバックを肩に掛け、ジムに行こうとするところを、クラスの男子、佐川くんに呼び止められた。
教室にはいま私と佐川くん以外、誰もいない。
「山本さん、今日も格闘技? 熱心だね」
「うん。格闘技がとっても楽しくて」
「しかも現役のプロだもんな。すごいなあ」
褒められて嬉しくないはずがない。私はデレデレと笑った。
「ところでさ、どこか空いてる時間ないかな。もしよかったら今度、俺と食事でもしない?」
「ごめん。私、格闘技に集中したいんだ」
すると佐川くんはがっくりとうなだれた。
申し訳ないけれど、私は先を急いだ。
格闘技を始めて、痩せたからか、あるいはプロになったからか、男子からよく声をかけられたり、告白されたりするようになった。
でもすべて断っている。優しそうな人もいたし、ハンサムな人もいた。
でもようやくプロになり、いまのところ四連勝。
生活のすべてを格闘技に費やしたい。
だから恋愛をしている暇はないのだ。
それに……。
不意に肩を掴まれたので、私は両手で不届きものの手を掴み、振り返った。
「おわっ。危うく技をかけられるところだった。やっぱ格闘家さんに無闇に触っちゃダメだね」
愛ちゃんだった。
クラスはちがうけれど、同じ高校に進学したのだ。
「ごめん。愛ちゃんとは思わなくて」
「まだまだですな。気配で誰か分かるぐらいにならないと」
「それは無茶だよ。エスパーじゃないんだから」
私はこのままジムに行く。
愛ちゃんは一旦家に帰り、服を着替えてファッションモデルの仕事へと向かう。
途中の道までいっしょに帰るのが日課になっていた。
今日は模試の話題が中心だった。
愛ちゃんはぼやいた。
「私、浪人しちゃうかも」
愛ちゃんの左右に結っていた髪は顕在だが、私はというと、長かった赤い髪をバッサリ切って、右のこめかみのところで一本に結んでいる以外は、全体的に短めの髪にしている。
練習や試合で邪魔にならないようにするためだ。
「今回は特に数学が難しかったね」
「まあ、模試も終わったことだし、しばらくはゆっくりしてもいいっしょ」
嬉しそうに笑って話す愛ちゃんは、相変わらず可愛かった。
幼いころは、背伸びしようとしてたからか、濃い化粧をしていたけれど、今は自然体というか、素顔の美しさを活かしたメイクに変わっている。
肌も綺麗だし、化粧をしなくてもいいんじゃないかとすら思える。
カラーコンタクトもやめている。
「この間のファッション誌、買って読んだよ。愛ちゃん、すごく可愛かった」
愛ちゃんは黒くて丸い瞳を輝かせる。
「ありがとー。ヒナももう少しで試合だね。あと二ヵ月だよね」
今度は私が、目を大きく見開いた。
「うん。次の対戦相手が、以前負けた相手だから気合いが入るよ」
「なんて人だったっけ?」
「九条セイラっていう選手だよ。彼女は私より先にプロになっていて、今のところプロ戦績が五勝0敗なんだ」
「負けなしかぁ。手ごわい相手だね」
私は頷いたあとに付け加えた。
「でもアスカちゃんはセイラ選手にアマチュア時代に勝ってる。ここを乗り越えなければ、アスカちゃんへの道は遠のいちゃう。だから負けられないんだ」
「あ、思い出した。私もそのとき会場にいたわ。それにしても」
ニシシと愛ちゃんが笑った。
「本当、ヒナってアスカを意識しまくってるよね。愛だね!」
そう言われたらそうなのかもしれない。
男子からの告白をすべて断っているのは、格闘技に専念したいというのもあるけれど、他の男子よりもアスカちゃんの方がカッコいいと思うからというのが大きい。
「うん。まあ」
恥ずかしくなって生返事をしてしまった。
ごまかすためにアスカちゃんのプロでの活躍を解説した。
「アスカちゃんもプロでは無敗で、メジャー団体のRFCに参戦してるんだ。しかも麗艶選手とのタイトルマッチも控えてる。もうじき夢が叶うんだ」
麗艶という名前に愛ちゃんが強く反応した。
「昔、大会で出会った綺麗な人かあ。いい噂は聞かないけど、大会で出会ったときの印象は悪くなかったよね。私たちを喧嘩自慢の二人組みから助けてくれたし」
「少なくともファイターとしては尊敬してる。寝技が得意だけど、パンチも蹴りも巧い。全てのレベルが高いんだよ。それでもアスカちゃんが勝つって、私は信じてる」




