第38話 新たなる決意
ジュリちゃんは腕を組み、言った。
「まあ、厳しい人だったけど、教え方は巧かったわ。実力もあったし」
米田さんは涙を流していた。泣き上戸なのだろう。
「何度も衝突したし、殴られたこともあった。アスカちゃんの拳の怪我で喧嘩したときは、辞めてやろうとすら思ったけど。こうしてジムがなくなると、やっぱり寂しいよ」
青田さんも頷いた。
「武骨で不器用だけど、根は娘さん思いの良いお父さんなんですよ、きっと」
堀山さんはしばしうつむいていたが、やがて大きく呼吸をし、顔を上げた。
「さあてと、これからどうしようかねえ。新しいジム探さないと」
「私は米田さんと県内にあるチームデルタに移ろうと思ってる」
ジュリちゃんの言葉の後で、米田さんが問いかけた。
「堀山さんも青田さんもヒナちゃんもどうです? 一緒に来ませんか?」
「ぜひぜひ、よろしく」
乗り気な堀山さんに対し、青田さんは気まずそうに言った。
「すみません。僕、実は留年しちゃって。元々プロを目指すつもりはなかったから、そろそろ
格闘技はやめようと思っていまして」
米田さんは頷いた。
「寂しいけど、それもアリだと思います。大学での勉強、頑張ってください」
「あまり親御さんに迷惑かけんなよ」
堀山さんの口撃に、青田さんはハハハと笑ってごまかした。
「ヒナちゃんはどうする?」
米田さんの問いに、私はしばし間をおいたのち、決意を口にした。
「私は、アスカちゃんといつか、闘いたい。それは同じ階級で試合をするということだから」
ストロー級にはジュリちゃんもいる。
いつかは彼女とも闘うことになるかもしれないのだ。
ジュリちゃんは屈託なく笑った。
「まあ、そのときにはアスカは負けてるかもね。この私に」
「そのときはジュリちゃんに、勝つよ。うん、たぶん」
自信なさげな私の言い方に、ジュリちゃんは「なにそれ」と笑った。
「おお! これまた、大きく出たなあ」
「いいねえ。青春だねえー」
堀山さんは感心し、愛ちゃんはきゃっきゃっとはしゃいでいた。
それからジュリちゃんとも、互いの拳を軽くぶつけあったあとで、笑い合った。
そうしてしばらく他愛もない話をみんなでしたあと、解散となった。
いま、愛ちゃんと二人で帰り道を歩いている。
かつてアスカちゃんに導かれるまま訪れたチームスパークはもうない。
「なんだか実感が湧かないや。いままであったものがなくなるってのは」
愛ちゃんは相づちを打ちつつ、アスカちゃんのことを話した。
「冬休みが終わってからさ、アスカに相談されたのよ。『大切な親友を傷つけてしまった。こんなときどうすればいい?』って。アスカも、かなり悩んでいたんだと思うよ」
「うん。わかるよ。愛ちゃんはそのときなんて答えたの?」
彼女は首をかしげた。
「うーん。ただそばに寄り添って共感してあげてただけかな」
「カウンセラーみたい」
私の言葉にアハハと笑うと、愛ちゃんは「思い出した」と口にした。
「ヒナのことだから、平気な顔して、今頃マシュマロ食べているよって言ったっけ」
「なにそれ、ひどーい」
実際、大晦日のあと、三日くらいは食欲も落ちたけど、すぐに回復してバクバク食べられるようになったのだ。
しかも運動してなかったから、前よりも太ってしまった。
突然、愛ちゃんが私のお腹をポンポンと叩いてきた。
「すっかり太っちゃったよ」
私の言葉に彼女はニシシと笑った。
「ここから再スタートだね」
「うん。もう立ち止まらない。突き進むよ」
いま言った言葉を嘘にしない。してたまるものか。
まだ何も終わっていない。
私とアスカちゃんの友情も、そして私の格闘技人生も。
第一章 アマチュア編 完
これで『第一章 アマチュア編』は終了です。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。
次からはインターバルを挟んで『第二章 プロ編』に突入します。
試合はより過激なルールに変わっていきます。
また、視点人物がヒナだけでなく、ほかの人物に変わる場面も出てきます。
誰の視点か分かりづらくならないよう、工夫していますのでご安心ください。
それでは引き続きよろしくお願いいたします。




