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第27話 ガチスパー

 通常のスパーはマススパーといって力を加減して行なう。

 そうしないとダメージが蓄積して、怪我や故障の原因になるからだ。

 対するガチスパーはその名の通り、試合と同じくらいの強度で殴り合う、らしい。

 やったことないからわからないけど。

 怖いし、親友のアスカちゃんと本気で殴り合うのは抵抗がある。

 でも、ここで退いたら二度と教えてもらえなくなるかもしれない。

 腹をくくった私は、アスカちゃんに頷き返す。


 時間は私の出るトーナメントの形式に合わせてくれた。

 四分一ラウンド。ただし、顔面あり。

「ルールはRFCとジュニア昇竜の間をとって、立った状態での顔面パンチあり、グラウンドでのパンチはなしとさせてもらう。いいか?」

「はい! 大丈夫です!」

「アスカのセコンドには私が、お前のセコンドにはジュリがつく」

 ジュリちゃんも、あらかじめ話を聞いていたようで、源治さんの目を見て頷いた。


 スパーリング開始前に、ジュリちゃんがアドバイスをくれた。

「アスカは寝ても立っても強い。正直実力では勝てない。器用にやろうと思わない方がいい。打撃で勝てる確率も低いけど、アンタの得意なパンチ主体で、正攻法で行こう。おそらく源治さんはアンタの覚悟を試そうとしているんだと思う。だから決して情けない姿を見せないで、心を折らずに最後まで粘るのよ」

 そう言って、背中をバシッと叩かれた。

「試合開始!」

 源治さんの合図とともに、ガチスパーは開始された。


 アスカちゃんは様子を見ている。

 私はまっすぐ前に出て、パンチの距離に近づこうとしたが、突如太ももに鋭い痛みが走った。

 ローキック。

 いままでどれだけ加減してくれていたのかがわかる。

 骨ごと持っていかれそうな衝撃だ。

 でも、痛みで倒れちゃダメだ。

 歯を食いしばり、顔のガードを固めて前進する。

 鼻に衝撃が走った。

 プールで鼻に水が入ってツンとしたとき以上の異物感が、鼻を中心とした頭部に襲いかかる。

 腕と腕の隙間を狙っての精密な打撃だった。

 口に血の味がした。

 鼻血が出た。

 涙で視界がにじんだ。

 泣くなバカ。この程度なんてことない。

 痛い。でも痛いだけだ。


 私は思い切り踏み込んで、右のストレートを打とうとした。

 カウンターをもろにもらった。

 またもや頭が後方に吹き飛び、今度は視界が一瞬暗くなった。

 

 気づくとアスカちゃんが上になっていた。

 こちらを見下ろすアスカちゃんは、笑っていた。

 私は戦慄をおぼえた。

「止まるな! 続行だ!」

「ヒナ、負けんな! 意地を見せろ!」

 源治さんとジュリちゃんの怒声を浴び、私はカッと目を見開く。

 アスカちゃんの腰を蹴り、立ち上がろうとするも、足を担がれ、うまくいかない。

 かろうじて両足でアスカちゃんの胴体を挟み、さらに不利な体勢にならないようにはできた。

 私はアスカちゃんの右腕を両手で掴み、腕十字を仕掛ける。

 仕掛けられた腕を抜いたアスカちゃんは、私の足をさばいてサイドポジションの体勢になる。

 腕を掴まれた。

「アームロックを仕掛けられてる! 下から暴れろ!」

 ジュリちゃんの声に励まされ、私は下からブリッジしたり、足をバタバタさせ、強引に腕を解除することに成功した。

 次いでハーフガードの体勢にできた。

 足一本分、アスカちゃんを邪魔している。

 下になっているのは変わらず、ピンチであることにも変わりない。

 でも、まだまだここから挽回できる。

 アスカちゃんが動いた。足を抜いて、もっと有利な体勢に行こうとしたのだろう。

 でも、そのときにアスカちゃんの重心が少し浮くのを感じとった。

 その刹那、私はアスカちゃんをひっくり返した。

 スイープ。

 私がハーフガードの上のポジションになった。

 それでもアスカちゃんは表情を崩さない。


「落ち着いて! まずは安定したベースを作って! そこから足をさばいて攻めるのよ!」

「アスカ、気を抜くな! すぐにガードに戻せ!」

 下からでもアスカちゃんの足は効いていた。

 すぐに下から両足で邪魔できる体勢、ガードポジションに戻された。

 パスガードしようとするも、腰を蹴って立たれた。

 仕切り直し。スタンドからやり直しだ。

 

 甘かった。

 体勢を立て直そうとする途中、アスカちゃんが飛び込んでのストレートを打ち込んできたのだ。

 間一髪で腕でブロックするも、衝撃が脳にまで伝わった。

 じんじん響く。

 直後、太ももに稲妻が走った。

 ローキックで足に意識を向け、次に顔面を狙ってくるはず。

 私は亀のようにがっちりと顔のガードを固める。

 刹那、うっと腹部に衝撃が走り、マウスピースを吐き出しそうになった。

 狙いはボディだった。 

 急所を的確に射抜くパンチ。

 さらにボディを警戒して腕が下がったところに、横殴りのフックがこめかみを襲うが、間一髪でかわす。

 

 やばい。

 このままでは負ける。

 ここは何が何でも意地を見せたい。

 私は、渾身の力を込めて右ストレートを放った。

 アスカちゃんは上体を後ろにそらした。

 でもかわしきれなかったようで、右の大砲が顎をかすめた。

 当たった?

 そのときだった。

 アスカちゃんの足元がぐらぐらと揺れた。

 当たったのだ!

 ジュリちゃんがまくしたてるように叫ぶ。

「今よ! 今しかない! 追い討ちをかけるのよ!」

 そうだ。これが最初で最後のチャンス!

 私はもう一発右のストレートを大きく踏み込んで放った。

 しかしこれは頭を左に反らすことでかわされた。

 そのときトラックに激突したのではというほどの衝撃が顎を襲った。


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