第19話 アマチュア大会当日
大会当日となった。
地元の千葉県にある、割と大きい体育館が開催場所だ。
ハイエースという大きくて黒塗りの車で会場まで移動することになった。
運転するのは源治さんだ。
大会に出場しない堀山さんと私も、手伝いと応援を兼ねて同行した。
米田さんはマシンガンのように次々と話題を繰り出し、飽きるということがなかった。
アスカちゃんは押し黙っていたが、これはいつものことだ。
ただジュリちゃんもむすっとした表情で、そっぽを向き、会話に加わらなかった。
米田さんが話を振っても、軽い相槌を打つ程度だ。
仲が悪いのだろうか。
「そういえばヒナちゃんは、試合に出たいの?」
米田さんに聞かれ、頷く。
「はい、出てみたいです」
「今のところグラップラーというより、ストライカーかなあ」
「たしかパンチやキックで倒すのがストライカーで、関節技で倒すのがグラップラーですよね」
「うん。大体そんな感じかな。ミットを持った感覚だと右のストレートパンチが強いから」
「本当ですか? 嬉しい」
「あとは寝技で下になったときだね。すぐ立てるか一本でも極められるようになったらいいね」
米田さんの指摘に私は同意した。
たしかに私は練習でも下になったら、一方的に攻められ、サブミッションを極められてしまう。
たしか次は九月。
それまでに必殺のストレートに磨きをかけ、寝技になってもすぐ対処できるように鍛えるのだ。
「もっともヒナちゃんが出場するジュニア部門は、顔面へのパンチが禁止されてるんだけどね」
「え、そうなんですか? 練習では顔面ありもやっていたから」
アスカちゃんが即座に解説してくれた。
「顔面攻撃への対処には慣れていた方がいいから、大人と同じようにうちの道場は顔面ありを練習してる。今回の大会は、中学生までは顔面への回し蹴りだけが認められていて、それ以外の顔への足技、手技は禁止されてる。高校生からは一般の部として顔面が解禁される」
「知らなかった~」
いままでそっぽを向いていたジュリちゃんが口を挟んだ。
「そのぐらいは知っときなさいよ。アンタも次は出場するんでしょ?」
「そうだね。ごめん。もっと勉強するよ」
そんなこんなで会場に着いた。
大きな垂れ幕に『アマチュア昇竜関東大会』と書かれていた。
「しょうりゅう、って言うんだね」
隣にいるアスカちゃんが昇竜について教えてくれた。
「元プロレスラーの加山シゲルが創設した日本における総合格闘技の元祖ともいえる団体。アマチュアの総合格闘技をいち早く競技化したことで知られている」
教えてくれてありがとうと言うと、アスカちゃんは呆れていた。
「ヒナ、格闘技知らなすぎ」
ジュリちゃんだけでなく、アスカちゃんにまで言われてしまった。
会場に入る。
今回はリングでなく、金網だ。
会場には、金網に囲まれたゲージが二つあり、その中で試合をするのだろう。
堀山さんと私は会場の設営を手伝っていて、パイプ椅子を運び出した。
結構な数があるけど、大会の開始時刻までには余裕で間に合った。
それに全然疲れなかった。へっちゃらだ。
「ヒナちゃん、力仕事大丈夫かい?」
「はい。体力ついてきたのかも」
「きっとそうだよ。週に五回も通ってるらしいね。俺なんか二回だよ」
「堀山さんは仕事しながらですから、行ける日が限られているのは仕方ないですよ」
私と堀山さんが会場設営していると、源治さんがこちらに来た。
アマチュアの大会は、開催場所に近いところのジムが持ち回りで運営するきまりになっている。
チームスパークは小さいジムだからか、今回の主催は別のジムだけど、それでも責任は大きいのだろう。
いつも以上にピリピリとしている。
「もうすぐ選手の当日計量だ。頼む」
アナログな体重計が四台並べられている。そこに出場選手たちが並んでいた。
たしか今回の大会は一〇〇人以上エントリーしていると聞く。
一列では足りず、一台の量りに対し、二列に並んでいた。
アスカちゃんの番だ。
私がニコッと笑ったら、彼女は押忍と頷いた。
「規定体重ぴったり。バッチリだね」
私の言葉に、親指を立てて応えた。
するとすぐさま、カメラを持った集団がわらわらとアスカちゃんに近づいた。
アスカちゃんのファンだろうか。
「すみません。わたくし、YY放送のものですが、インタビューよろしいですか?」
どうやらテレビ局のようだ。しかも一つの局だけじゃない。
アスカちゃんの顔はこわばっていた。
助けに行きたかったけど、次の選手の計量があったので、行けなかった。
代わりに状況に気づいた源治さんがカメラマンたちを追い払った。
「まだ試合前だ。終わってからにしてくれ」
アマチュアなのにこれだけ注目されているとは。
アスカちゃん、おそるべし。
全員の計量が終わった。
一二〇名のエントリー選手に対し、出場できるのは一〇〇名となった。
都合で来られなくなったり、体重を守れなかったりした人が弾かれた。
ちなみにうちのジムの選手は全員クリア。
青田さんだけ一回目でオーバーし、再度の量り直しでクリアした。
「体重を作るのって大変なんですね」
私の言葉に堀山さんが頷きながら言う。
「そうだねえ。減らしすぎてもパワーが落ちるし、体重オーバーだと試合に出場できないし。俺はこれから審判をするけど、ヒナちゃんは観客席で応援してきなよ。他の選手の試合を観るのも勉強になるからさ」
堀山さんに礼を言うと、私は観客席の方に向かった。




