第1話 自己紹介
幼稚園に入園した日、私は一人の女の子にときめきをおぼえた。
その日、教室には園児たちが集められ、自己紹介をさせられていた。
私の番だ。
「私は山本ヒナといいます。特技はよく食べることです。よろしくお願いします!」
大きく礼をした。
われながらなんて面白みのない自己紹介だろうと思ったものだが、先生が促すと、園児たちから拍手の雨が降り注いだ。
そうして最後の番となった女の子が前に立った。
意志の強そうな、けれど敵意のこもっていないまっすぐな眼差しが印象的だった。
髪は黒くてあごにかかる髪を内側へ少しカールしている。
のちにボブカットという髪型だと知った。
ツヤツヤしていて触り心地がよさそうだった。
おまけに顎の輪郭もすっきりとしていて、頭も小さい。
対する私はというと、まんじゅうのようにほっぺたがふっくらとしていて、頭が大きい。
だから目の前の少女がすごく羨ましい。
彼女の番になってしばらく経つ。口は一文字に閉じられたままだ。
「アスカちゃん、早く自己紹介しましょうね」
アスカちゃんと呼ばれた子は、先生にせかされ、ようやくぽつりと口にした。
「新藤アスカ」
しんどうあすかちゃん。心の中で彼女の名前を三回唱えた。
緊張しているように映った。すぐにでもこの場から立ち去りたいみたいだった。
でも何か言いたげでもあった。しばしの沈黙ののち、彼女は大きな声ではっきりと叫んだ。
「将来の夢は総合格闘技の世界チャンピオンになることです!」
みんなはポカンとしていた。
そーごーかくとうぎ。聞きなれない言葉だった。
まばらに拍手が聞こえる。私もつられて拍手した。
そんなこんなで私とアスカちゃんの物語が始まろうとしていた。




