第17話 スパーリング
スパーリングとは試合形式の対人練習で、怪我させないようにパンチやキックの力を加減して行う。
でもここの人たちはわりと強めに顔面をパンチする。
さすがに女の子相手には加減しているけど。
あ、例外があった。
アスカちゃんにはみんな強めに殴ろうとする。
アスカちゃんが強いからというのも当然あるけれど、原因はそれだけじゃない。
私が入会するより前に、スパーリングのとき、米田さんがアスカちゃんにかなり手加減したらしい。
すると米田さんは源治さんに殴られたのだそうだ。
それを聞いた瞬間、殴っちゃ駄目でしょと私は思った。
でも源治さんは、ひとり娘のアスカちゃんをも平気で殴るときがあったという。
そんな鬼についていくアスカちゃんはすごい。
二人一組でやる練習の場合、相手は同じ背丈、同じ体重の方がいい。
私はアスカちゃんとよくペアになる。
そしていつも圧倒されるのだ。
早速、アスカちゃんとグローブとグローブを軽くぶつけ合って、スパーリング開始。
おでこに軽い衝撃が走る。
ジャブだ。
前の手で打つ素早いパンチが一発で終わらず、二発三発と繰り出される。
反応できなかった。
私は、頭を左右に振って的を絞らせないようにしたが、今度は左に頭を振ったところに蹴りが飛んできた。
ハイキック。
当たれば一発で倒される大技だ。
寸止めしてくれたけど。
負けじと前に出る。
基本はジャブ。
そしてジャブの当たる距離で大砲のストレートパンチを打つ。
つもりだったが、一歩踏み込んでのジャブに対し、太ももへの蹴り、ローキックを合わせられた。
顔でないからかあまり加減してくれず、めっちゃ痛い。
明日は足を引きずりながら登校しなければならないだろう。
「前の足が内に向きすぎている。それじゃあ蹴られやすいし、蹴られたら体勢が崩れてしまう」
言われた通りに構えを修正する。
これでひとつ学べた。
ではそれで問題解決できるかというと、答えはノーだ。
スパーリング中は常にめまぐるしく体勢が変わる。
どうしても全ての動きを意識することはできない。
逆に意識しすぎて動きが悪くなってしまうこともある。
無意識でも正しいフォームで動けるようにするには、何度も反復練習するしかない。
自分の体は自分のものだけど、思うままにコントロールできるわけじゃない。
体を動かすって楽しいけど、難しい。
突如、アスカちゃんが視界から消え、重たいものが体にぶつかり、私は寝転がされた。
両足タックルだった。
「足幅が狭い。だから両手で両脚をまとめられて、ダブルレッグでテイクダウンされる」
ここからいつも何もできない。
寝技はわからないことだらけで、いつも闇雲に動いている。
いまアスカちゃんと私の間には足による隔たりがある。
ガードポジションだ。
アスカちゃんは私の足をどかして距離を潰し、密着したい。
要はパスガードしたいのだ。
私はこれ以上侵入させないよう、足で邪魔し続け、下からサブミッション、もしくはアスカちゃんの腰を蹴って立ちたい。
関節技は難しいけど、立つのはもっと難しい。
私は片足を上に振り上げ、そうして食虫植物のようにパクリとアスカちゃんの首と腕を両脚で四の字に挟んだ。
サブミッションを選んだのだ。
三角絞めという技で、ガッチリはまれば頸動脈が絞まり、相手の意識を断ち切ることができる。
タイミング、足の絞まり具合、全てうまくいった。
と思っていたら、アスカちゃんは正座の格好で胸を張った。
すると絞めつけが弱まり、即座にバタンと足をさばかれ、サイドポジションに持っていかれた。
結果として、一本も極められず、逆に何度もタップさせられたのだった。




