表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
115/116

第108話 アスカの決意


「お父さん、話したいことがある」

 あらたまって言われた父は、こちらに視線を向けた。

「何の話だ?」

 

「アルティメットフォース」

 その言葉を聞いた父の顔に笑みが差した。

「おお! ついに決心したか。アルティメットフォースへの参戦を」

ヒナとの試合はドローだったけど、内容を評価されたようで、アルティメットフォース行きが白紙になることはなかった。

 でもヒナの容態が心配で、行くのを先送りにしていた。


「うん。でも私一人でアメリカに行く」

 父が一瞬固まった。

 しばらくして。

「お前は何を言っているのかわかっているのか。異国の地で暮らすんだぞ。言葉も文化も違う。日本で練習しながら、試合のときだけ渡米するという方法もある。そっちのほうがいい」

 私は首を横に振る。

「お父さんは日本でチームスパークでの指導を頑張ってほしい。私はアメリカのUSAトップチームに行く」

 最大手の総合格闘技ジムで、限られた者しか入門の許可が下りない。

 そこには外国から来た選手を迎え入れる寮があり、食事も提供される。


「なぜだ? 俺の指導に不満があるのか?」

「お父さんには感謝しています。ここまで私を育ててくれて、強くしてくれて。おかげでRFCのチャンピオンにまでなれた」

 父は納得していないようだ。

「だったらなぜ?」

 私は殴られる覚悟で言った。


「私はこれまでお父さんの言われた通りに生きてきました。自分の意志で何かを決めた経験がほとんどない。私は強くなりたいんです。肉体だけでなく、心も。格闘家としてだけでなく、人としても。そのためにはいつまでもお父さんの言いなりじゃ、だめだと思うんです」

 父は苦笑した。

「お前のその気の迷いは、思春期特有の一時的なものだ。あまり気にしないほうがいい」

 私は理解してもらおうと努めた。

「私には尊敬するファイターが二人います。一人目は新藤源治、あなたです。そしてもう一人はブレイブカウ、山本ヒナ」

 続けて言う。

「ヒナは自らの意志でプロを目指し、格闘技をする人生を選び、そして私とのタイトルマッチまでたどり着いた。私もヒナのように自分の意志で自分の人生を選んでみたい。たとえそれが茨の道であったとしても」

 父は何度か頷くと、「風呂に早く入れ」と言い、踵を返した。

 そして背中を向けたまま父は言う。

「わかった。お前がそこまで言うのなら。ただしここからは俺のサポートは期待するな。自分の力でやってみせろ」

「押忍!」

 こうして私はひとりアメリカへ旅立つ決意をした。

 私は震えていた。

 正直、不安はある。

 けど不安だけの震えではなかった。

 これは武者震いでもあった。

 父なしで私がどこまでいけるか試してみたい。

 と、同時に気がかりなことがあった。

 ヒナだ。

 アメリカに行けば彼女とはしばらく会えない。

 それでも……。

 父のいなくなったキッチンの前で私は一人つぶやいた。

「ごめんなさい、ヒナ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ