第105話 来訪者①
ヒナが眠りについてから一週間が過ぎた。
まだ彼女はベッドの上で眠りについている。
私が関節蹴りを放った左膝には包帯が巻かれていた。
ヒナのファンは多く、すでにファンから千羽鶴や贈り物がいっぱい置かれている。
見舞いに来る人も多い。
私もその一人。
そして今日は私だけではなかった。
麗艶とセイラも来ていた。
ジュリも。
さらにトギシも。
ジュリが麗艶に向かって言う。
「まあ、今日は一時休戦ってことにしといてやるわ」
そこへセイラがツッコミを入れる。
「そもそも、いままでもあなたが一方的に喧嘩吹っかてきただけでーす」
トギシがセイラをなだめる。
「まあ、喧嘩はほどほどにね。みんなで仲良くよ」
「あなたが言っても説得力ありませーん」
トギシは二の腕で力こぶを作る。
「言ってくれるわね。次の試合でその綺麗な顔を台無しにしてあげるから覚悟しときなさい」
「そっちこそ。力任せのファイト、私の華麗なるテクニークでいなしてさしあげます」
セイラはRFCのデビュー戦でトギシと闘う。
トギシは、テストステロンが高いという理由とか、他の医学的な問題から、継続参戦が危ぶまれていたけれど、引き続き女性としてリングに上がる。
黙っていた麗艶が私に語りかけた。
「いまね、総合格闘技のジムに入会する女性が増えているらしいわ。ヒナとあなたの試合に刺激を受けたからでしょうね」
私とヒナのメインイベントが行われた大会は大成功をおさめ、女子格闘技に対する評価も高まった。
「でも、それが良いこととは言い切れない。だってヒナが……」
ヒナがこんな状態になってるから。
私たちに憧れた人たちが格闘技を始めたとして、ヒナと同じような状況に絶対にならないとは言い切れないから。
私の言葉にそれまで喧嘩していた三人もおとなしくなった。
ジュリが私の肩に手をおいた。
「ひょっとしたらアンタが同じ目に遭っていたかもしれない。だからさ、お互い様って言っちゃあなんだけど、そんなに自分を責めなくていいと思う」
セイラはゆっくりと語りだした。
「私、最初、ヒナさんの闘い方を見て、父に似たファイトスタイル、嫌っていました。でも同時に嫉妬もしていました。打たれる覚悟を持って打ちに行く。あんな闘い方、私にはできません。リスペクトしています」
麗艶は眠っているヒナを見つめ、言った。
「この子は太陽のようね。一緒にいる人、闘った対戦相手、試合を観た観客、みんなにプラスの力を与えてくれる」
皆が頷いた。
セイラが寂しそうに言う。
「その太陽がいまは沈んでいます」
トギシがセイラを励ました。
「私はね、一度格闘技から足を洗おうとしていたのよ。レスリングを追放されて、うつ病とアルコール依存症に苦しんでね。でも私の並々ならぬ努力と根性でこうしてカムバックできた。ヒナも同じよ。この子は私より強い。絶対にまだ復活するわ」
麗艶も励ますように言った。
「そうよ。日が昇るみたいに、また目を覚ますわよ、きっと」
ヒナは目を閉じたままだ。
呼吸器はつけていない。
呼吸は自力でできているみたいで、静かな病室にかすかな寝息が聞こえていた。




