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加護憑き少年、一目惚れした聖騎士の少女と旅をする  作者: 長久保いずみ


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3/5

3.遭遇

 生き返ってから、もう何度夜を越えただろうか。

 雪が残る道を粛々と歩く。

 クサヴェルは雲が多い青空の下、崩れた城壁を見つけた。

 その向こう側から、人の気配が風に乗って流れてくる。

「……食べ物、あるといいな」


 形だけの城壁をくぐると、そこでは何人かが作業をしていた。大人ばかりで子どもはいない。なにかを掘り出しているらしい。

「あのー、すみません」

 できるだけ警戒させないよう、穏やかに声をかける。

 全員が一斉にクワを持ってこちらを見た。慌てて両手を上げる。

「た、旅の者です。しょ、食料、分けてもらえませんか」

 そう言いながら、背負っていたリュックを下ろして中を開ける。

「これ、旅の途中で狩った魔物の毛皮です。あったかいですよ」

「いらん」

 遮るように男が言った。

「去れ。お前にやるものなど一つもない」

「…………」

 クサヴェルは男を見上げたまま固まった。それからおもむろにリュックの中に手を入れる。

「……干し肉も、ちょっとあるから」

「くどい。去れ」

 にべもなかった。

「…………」

 クサヴェルは再度固まり、取り出そうとした干し肉と毛皮をしまう。

 村人たちに睨まれる中でリュックを背負い直した。

 その後ろで、場違いなほど澄んだ鐘の音が響いた。

 音色に村人たちの空気が重くなる。

 誰かがため息まじりにこぼした。

「教会だ」

 クサヴェルが振り返ると、小さな鐘を高く掲げる白い一団が見えた。

 彼らは大きな馬車を引いてやってきた。村人たちは農具を下ろし、膝をついてこうべを垂れる。

「福音旅団です」

 真っ白な外套に身を包んだ、ひときわ大柄な人が言った。

「神へ捧げる供物をいただきに来ました」

「……はい」

 先ほどクサヴェルとの交渉を断った男が、絞り出すように応える。

 村人たちがゆっくりと立ち上がり、後ろから食べ物を持ってくる。そこは大量の雪があった。クワで中から様々な食べ物を掘り起こしている。天然の貯蔵庫だ。

「そこのあなたも」

 クサヴェルは声をかけられて我に返った。

「え?」

「ここで出会えたのもなにかの縁です。神への供物をいただきます」

 そう言って、流れるような手つきでリュックを取り上げられた。

「あっ、えっ? ま、待って!」

「毛皮があったぞ」

「魔物のものだ。穢らわしい」

「いや、聖水と祈祷で禊をすれば立派な供物となる」

「これで神も凍えずに済むでしょう」

 口々に言いながら、雑に毛皮や干し肉を取り出していく。

「いや、待って! あげるって一言も言ってない!」

 クサヴェルが一人の肩を掴んだ。

 その首筋に、剣が突きつけられる。切っ先から全身へ、肌がびりびりと痺れる感覚がした。

「……貴様、異端者か?」

 声が低くなる。クサヴェルは無意識のうちに両手を上げていた。

「い、たん……しゃ?」

「神にあだなす愚か者かと聞いているのだ。悪魔憑きならなおのこと、我が聖武具の錆にしてくれるぞ」

「よせ、ゼルニケ」

 甲高く澄んだ声が響いた。

 声を発したのは、旅団の中でもひときわ小さな人物だった。フードの奥から二本の赤髪が覗く。その胸元には斧のブローチが光っていた。

「神の教えに出会えなかった哀れな子羊だ。大目に見てやれ」

「……はっ」

 剣が下ろされる。それでもクサヴェルはまだ手を下ろせなかった。

 赤髪の旅団員をじっと見つめていると、視線に気づいたのかこちらを見た。

 切れ長の茶色の目に強い意志――そして迷いを宿した少女だった。

 しかし少女はすぐに視線をそらし、大柄な団員と共に食べ物を馬車へ積む指示を出していく。

 やがて村の食べ物やクサヴェルの毛皮、干し肉を積み終えると、福音旅団は胸の前で印を結んだ。

「提供、感謝いたします。今日を生きる方々へ、祝福の祈りを」

 その言葉に感情がこもっているとは到底思えなかった。

 来た時と同じように、断続的に鐘を鳴らしながら福音旅団は村を去る。

 後に残されたのは、食料を失った村と、クサヴェルだけだった。

「……食いもん、持ってかれちまったなあ」

 誰かがぽつりとこぼす。

「しょうがないさ。教会の御使いだからね」

 別の誰かがそう答える。

「あそこで抵抗すれば、俺たち全員異端者として殺される。……助かったんだよ」

 他の誰かがそう言ったきり、皆座り込んで動かなくなった。

 クサヴェルは静かに空のリュックを持って、村を出た。

 向かうのは、福音旅団が去った方向。

 あの赤髪が、どうしても頭から離れない。

 同時に、思う。

 教会ってそんなに偉いのか。

 祝福ってなんなんだ。

 祈りってなんなんだ。

 ――幸せって、なんなんだ。

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