↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
加護憑き少年、一目惚れした聖騎士の少女と旅をする  作者: 長久保いずみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/31

2.帰還

 ぱち、と音を立ててクサヴェルは目を開けた。


 冷たい地面。生暖かい空気。鼻から息を吸ったら、喉の奥で引っかかって咳き込んだ。


 体が痛い。死ぬ前にあちこち折れる音と痛みがあったから、かなり痛いはず。……なのに、今痛むのは背中と胸だけ。


「……あれ?」


 咳の隙間で声が出る。目の前まで手を持ってきて、握ったり開いたりする。


「……生き返った」


 そう呟くと、じわじわとお腹の底から熱いものがこみ上げてきた。


 ああ、本当に生き返ったんだ。


 夜だから周りは真っ暗だし、崩れた壁はこっちを覗き込んでいるようで怖いし、空には星が一つも浮かんじゃいない。


 けれど。


(生きなきゃ)


 生きて、幸せになる。それしか、あの場所では言えなかった。


 体はもうどこも痛くなかった。腕と足を動かして、クサヴェルはよろよろと立ち上がる。


「幸せになるんだ……」


 祈りのように、あるいは呪いのように呟いて。


 誰にも気付かれないまま、少年は歩き出した。


◆   ◆    ◆


 足が、前に出なくなってきた。


 水が欲しい。食べ物が欲しい。


 喉が張り付いて嫌な気持ちだ。


 靴の先がなにかを踏む。柔らかくて平べったい感触のそれをおそるおそる拾ってみる。


 皮の袋だった。少し夜目に慣れてきて覗き込む。


 なにも入っていなかった。


(……そう簡単な話じゃないか)


 それでも革袋を捨てられなくて、ぎゅっと握りしめる。


 すぐ後ろでがたんっ、と音がした。


 飛び上がりつつ後ろを見たが、暗闇が広がるだけ。


(……誰か、いる)


 心臓の音がドッドッドッと大きくなる。


 人がいる。自分以外の誰か。


 それは――怖い。


 血が冷たくなっていく。


 クサヴェルは音と逆方向へ走り出した。


 疲れたとか関係ない。とにかく、遠くへ逃げなければ。


「あっ」


 角を曲がろうとして、壁に肩をぶつける。


 脆くなっていた壁が音を立てて崩れ落ちた。


「……う」


 土埃が舞う中、クサヴェルは咳き込む。


「……痛く、ない」


 おかしい。壁は石でできていて、たしかに重かったし衝撃もあった。


 なのに、どうして無傷でいられるのだろう。


 呆然とするクサヴェルの耳に、足音が近づいてきていた。


 ――一人分ではなかった。


「あ? ガキか」


 声が降ってきた。腕を乱暴に掴まれる。


「わっ」


「さっき、そこでドカンとやったの、お前だろ?」


「あーあー、よくも俺たちの家を壊してくれたなあ?」


「ベンショーしてもらわないとな」


 二人の男がニタニタと笑う。


「とりあえず、これはボッシューな」


 有無を言わさず、革袋を取り上げられた。すぐに相方に投げられ、袋の中を見られる。


 男の顔が歪んだ。


「……おい、なんもねえぞ」


「はあ?」


 もう一人の顔も歪んだ。


「てめえ、金持ちなふりしてんじゃねーぞっ!!」


 ゴッ、と衝撃が顔の左側に広がった。目がチカチカする。殴られたと気付いたのは、瓦礫の上に叩きつけられた後だった。


「カネ持ってねえなら生きてんじゃねえよ、ゴミがっ!!」


 二人がかりで蹴られる。体重の乗った蹴りで息が詰まる。せめて頭とお腹は守らないとと、両手で頭を抱えて丸くなった。


 何度も何度も蹴られて、頭を踏みつけられる。


「これに懲りたら、二度と変な真似すんじゃねー……ぞっ!」


 頭を守っている手に、強烈な衝撃が走った。


 ――鈍い音がした。


 男が舌打ちする。


「……ちっ、なんだ今の」


「どうした?」


「なんでもねえ。行くぞ」


 男たちはなにか話しながら去っていく。


 その話し声が聞こえなくなってさらにしばらく経ってから、クサヴェルは体を起こした。


「…………」


 さっきまで確かにあった痛みが、いつの間にか消えていた。


 生き返ってから変なことが、自分の体に起こっている。


 でも、それよりも。


「生きなきゃ」


 生きなきゃ、幸せになれない。


 まずは、生き延びなきゃ。


 どんな手を使ってでも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
生き返った喜びも束の間、理不尽な暴力に晒されるクサヴェルの姿が痛々しく、胸が締め付けられます。 殴られても蹴られても、不気味なほどすぐに消えてしまう痛み。 悪魔の「加護」の片鱗が見え隠れする中で、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。