23.作戦
ナタリーはクサヴェルを見た。だが彼は首を横に振る。
すぐに二人で辺りを見回した。地面に抉られたような跡はない。
では、どこか?
「…………。上だっ!」
頭上に落ちる影を見て、ナタリーは声を上げた。
見上げれば、斜めに切り落とされた木がこちらへ落ちてくるところだった。
「うわっ!?」
二人で飛ぶように逃げる。数秒前まで彼らがいたところに、木が音を立てて落ちた。
「えっ、ちょっ、どこに!?」
「上かも地上かもわからん! 気を付けろ!」
「それ、おれのセリフ!」
クサヴェルが言い返すのと同時に、どこかの木が轟音と共に震える。二度、三度と木が震えて、ゆっくりと倒れた。
「木の上にいるなら、片っ端から倒せばいい。そうじゃなくても、木を伐っていけば奴もこの攻撃が使えなくなる」
「うわあ、乱暴……」
「いいから、貴様は音を頼りに奴を探せ! あと私を守るんだろ?」
「そうだけど!」
ドン引きのクサヴェルを置いて、男もナタリーも木を伐っていく。どちらも特徴的な音で伐っていくので、どちらかははっきりとわかる。
木に食い込んだ斧を引き抜くナタリーの後ろで、木がゆっくりと倒れる。
「危ない!」
クサヴェルがナタリーを抱えて右に飛んだ。遅れて木が倒れ、ナタリーが伐っていた木も巻き込まれて折れる。
折れた拍子に、斧が宙を舞った。それにむけてナタリーが手をかざせば、奇妙な放物線を描いて斧が彼女の手におさまる。
「それ、便利だね」
「天授者の特権だ。聖武具に所有者と認められれば、私の意思一つで手元に戻ってくる」
「いいなあ。おれの持っていた短剣も直って戻ってきてくれないかなあ」
「そう簡単に……」
カラン
乾いた金属音がして、二人してそちらを見た。
「え?」
「は……?」
そこには、男に根元から折られたはずの短剣が二本、重なって置かれていた。
まるで「使ってください」と言わんばかりに、新品同様の輝きを放っている。
「すごい、やった! これで戦える!」
クサヴェルは笑顔で短剣を鞘に納めた。その後ろで、ナタリーは信じられないものを見たような顔をしている。
「……貴様」
だがその続きは言えなかった。地面に這うようにナタリーが伏せると、その真上を見えない刃が通過した。その先に生えていた木に直撃し、向こう側へと倒れていく。
「まったく、のんびりしていられないな」
こうしている間にも、男は位置を変えて二人を虎視眈々と狙っている。保護色でもないのに見つけにくいのは、雑木林で日が遮られているせいか。
斜面の上を陣取られていたら、たとえ二対一でも劣勢だった。
ナタリーはまだ生えている木の裏に回り、クサヴェルに言う。
「おい、私は隠れているから、貴様が探し回れ」
「その間に君を殺されたくない。そもそもどこにいるかわからないじゃん」
ギィン!
ナタリーの背中を冷たいものが落ちる。重みを感じて身を翻せば、音を立てて木が倒れた。
見えない刃が来たと思しき方向から守るように、クサヴェルがナタリーの隣に立つ。
「……あっちだと思うか?」
「いや、もう移動したかも」
クサヴェルは切株の断面を見た。上から振り下ろされたように斜めになっている。さらにその前に倒された木を見る。こちらも根元近くから伐られていた。
「……意外と近くにいる?」
「なに?」
「ちょっと耳貸して」
ナタリーに耳打ちする。
「……どう? いける?」
「……そうだな」
ナタリーは斧を構え直した。
「悪くない提案、だっ!」
勢い良く投げられた斧は、雑木林の奥に立つ一本に刺さった。深く入ったのか、落ちる気配がない。
「いた!」
近くの木から動く影があった。駆け出したクサヴェルに気付いた男が、翻って走り出す。
振り向いた男が手を払うような仕草をした。
左右の木が伐られ、地面が抉られ、いくつかクサヴェルにも当たる。
胸や肩が痛い。
……痛いだけだ!
「――っの、待てえ!」
土が混ざった雪が踏みしめて、駆け上がる。
「ああもう、しつこいなっ」
男が舌打ちした。
右手側からも聖騎士が駆け上がってくる。男はそちらにも手を伸ばした。
木が次々に伐り倒される。ナタリーはそれらを盾にして防ぎ切った。
「馬鹿力が」
もう一度舌打ちが漏れる。
クサヴェルは目前まで迫ってきていた。
壊したはずの短剣が両手に握られている。それに目を見開きながら、男は両手を突き出した。
クサヴェルは短剣を逆手に持ち、自身の腕でそれを守る。
だが急所は守れなかった。
「がっ……あがっ!」
喉を当てられて息が詰まる。間を置かずに額に直撃を食らって仰け反った。
川べりと違って、斜面は踏ん張りがきかない。しかも雪が残っているから滑る。
「わっ、あっ……あああ~!」
バランスを崩したクサヴェルが転げ落ちた。
両手の短剣を地面に突き立て、それにしがみつく。
どうにかもう一度足を踏ん張らせたクサヴェルが顔を上げると、男が木の裏に隠れるところだった。
それはちょうど、クサヴェルの正面に立っている。
声もなく青ざめたクサヴェルの耳に、ギィン、と言う音。
木がゆっくりと倒れていく。
「う、わ、わわわっ!」
逃げるクサヴェルの後ろで、木が轟音と共に倒れる。
「ちっ、しぶとい」
「貴様もな」
苛立ちに返事。
ハッと顔を上げた男は、
「がっ……!?」
脇腹に炎をねじ込まれたような激痛を覚えた。




