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加護憑き少年、一目惚れした聖騎士の少女と旅をする  作者: 長久保いずみ


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21/31

21.戦闘、再び

「危ないっ!」


「わっ!?」


 クサヴェルがナタリーを引き寄せ、自分が覆いかぶさる。


 直後、拒否反応とは別にギィンとクサヴェルの背中に激痛が走った。


「っ……!」


「かくれんぼは楽しかったかい? ()()()()


 声がした方を見る。川を挟んだ雑木林から男が現れた。


 クサヴェルの下でナタリーが舌打ちする。


「ちっ。あいつも追ってきていたのか」


「どうする? 逃げる?」


「こんな見晴らしのいい場所じゃ逃げようがない。それに、なぜだか奴は貴様に執着している。教会と同じくらいしつこく追ってくるぞ」


 うえ、とクサヴェルは嫌そうな顔をした。


「それは嫌だ」


「なら殺すしかないだろうな」


「ええー……」


 クサヴェルはナタリーを後ろに庇って立った。


 次の瞬間、ギィンと音が鳴って彼が仰け反った。


「ぐぁ……かはっ」


「おいおい、こっちに倒れてくるな!」


 ナタリーが思わず一歩下がった。クサヴェルは後ろに一歩下がるだけで踏ん張り、腹に力を入れて頭を前に振り下ろす。


「っはぁ、はあっ……げほっ!」


「あれえ? 首を切ったと思ったのになあ」


 喉をさするクサヴェルに対して、男は川をざぶざぶと横切りながら首をかしげた。


「ま、いっか。兄ちゃんもすぐに後を追うからさ。まず()()()()から死んでよ」


「……だから、おれはそんな名前じゃないって!」


 クサヴェルは息を整え、腰から二本の短剣を抜く。


「クサヴェルだ!」


 後ろでナタリーも斧を構える。だが川から上がった男は呆れたように肩をすくめた。


「意固地になっていてもいいことないぞ。兄ちゃんが楽にしてやる」


 男が手を伸ばす。倒れた相手を立ち上がらせるために差し出しているように見えるそこから、ぞっとするほどの殺意を感じた。


「避けろ!」


 ナタリーの言葉を合図に、左右へ飛ぶ。つい一秒前まで二人がいたはるか後ろの木が、見えない刃で刈り取られた。細い木が何本も倒れる。


「避けるなよお」


 男がのんびりとした口調でむくれた。


「ちゃんと殺してあげるからさ」


「おれは死にたくない! 死んでたまるか!」


 クサヴェルが地面を蹴る。男は再び手を伸ばした。


 無数の見えない刃がクサヴェルを切りつける。一撃だけでも肺を叩き潰すような痛みを持っていた。クサヴェルは歯を食いしばって走る。


 男が初めて目を見開いた。指先で空間を薙ぐように腕を振る。


 ギィン、と見えない刃を叩きつけられた。


 それでも、男の目の前まで来る。


 短剣を振り上げた。


「馬鹿っ、よく見ろ!」


 ナタリーが叫ぶ。


 なにを、と思う前に気付いた。


「え?」


 短剣が、根元から折れていた。


 男の手の平が、クサヴェルの胸に押し当てられる。


「あ――」


 と思った時には遅かった。


 巨大な鉄の塊に吹っ飛ばされたような衝撃が胸を中心に広がる。


 吹っ飛ばされていないのに、衝撃だけが体に残った。いや、吹っ飛ばされなかった分、衝撃が逃げ場を失っていた。


 肺が縮む。息ができない。体が痺れて動かない。


「……あ、がっ……!」


 クサヴェルが崩れ落ちる。


 歯が噛み合わなくて、寒くないのにガチガチと鳴った。誰かに手を掴んでもらいたかったのに、その相手がいなくて手が宙を掻く。言うことを聞かない足が砂利を蹴飛ばした。


 ナタリーは動けなかった。あれだけダメージを与えられなかったクサヴェルが倒れている。


 このままなら、彼を殺せるかもしれない。天授者(てんじゅしゃ)聖武具(セイクリッド)が駄目でも、悪魔憑き同士なら殺せるかもしれない。


(……それで、本当にいいのか?)


 呆然と見つめながら、自分に問う。


 聖騎士としてのナタリーは、是と答えた。だが別の自分が、否と答える。


 どちらが良いのかわからない。


 男がクサヴェルを仰向けにした。


「…………。お前、誰だ?」


 警戒を滲ませた声だった。初めて聞くその声色に、クサヴェルもナタリーも虚を突かれる。


「デミトリは……弟はこんなことしない。ずっと兄ちゃんと慕ってくれていた。食べ物も、毛布も、なにもかもを分かち合って生きてきた」


 男がクサヴェルの胸ぐらを掴んだ。


「お前はいったい誰だ」


「……ははっ」


 クサヴェルは笑った。安堵したような笑いだった。


「おれはクサヴェル。悪魔憑きって呼ばれてる。あと、はじめまして」


 今度は男が虚を突かれたような顔になる。胸ぐらを掴む手がゆっくりと離れた。


「……じゃあ、じゃあ弟はどこにいるんだ? あいつはどこに行っちまったんだ?」


「知らないよ」


 ぶつぶつと呟きながら立ち上がる男に、クサヴェルは呻きながら答える。


「あー、びっくりした。もう急に襲ってこないでよ?」


「あれを『びっくりした』程度で済ませられる貴様も大概だぞ」


 ナタリーが突っ込む。


 その言葉で初めて彼女の存在に気付いたのか、男がナタリーを見て後ずさった。


「せ、聖騎士……教会……!?」


 クサヴェルがきょとんと二人を交互に見る。


「え、なんで驚いているの?」


「これが正常な反応だ。貴様みたいにボケーッとしている方がイレギュラーなんだ」


「へー」


「感心していないで、貴様は早く逃げたらどうだ? 巻き添えを食らって死ぬぞ」


「え、どういうこと?」


 ナタリーはしっしと追い払うように手を振った。クサヴェルがその意味を図りかねていると、男がまたぶつぶつと呟き出す。


「あ……ああ、そうか……お前が、教会が、弟を殺したのか」


「そうなの!?」


「知らん。仮に真実だとして、復讐されるつもりはない」


 ナタリーは斧を構え直す。


「来い、悪魔憑き。ここで亡き者にしてくれる」

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