15.教会にて
教会の総本山である大聖堂は、その清らかさを示すように白い石で作られている。
かつて〝国〟という統治機関が機能していた頃、白亜の大理石を使って建築されたのだ。
その周囲に信者やその家族が暮らす街が形成され、聖騎士の練兵場や宿舎、孤児院などが建てられる。周囲には農場も広がっていた。
国が滅んだこの世界で、教会は唯一残った〝国〟であった。
大聖堂の中心は大講堂である。白い壁に蝋燭の日が反射し、はるか頭上の天窓から太陽の光が降り注ぐ。
優に百人が収容できるそこに、聖騎士たちが整列していた。
白い外套を纏った彼らは一切微動だにしない。天窓のあたりから見下ろせば、子どもが几帳面に並べた人形のように見えただろう。
彼らが並ぶその最前列には、法衣をまとった人物がいた。
「――諸君は、すでに悪魔憑きに攫われた聖騎士の話を知っているな」
重く開かれた口からは、疑問符ではなく断定。だが事実であった。
聖騎士団第三十七福音旅団副団長ナタリーが、悪魔憑きに攫われた。救助に向かった団員四人の死亡も確認されている。
「相手の悪魔憑きは強い。さらに一切の攻撃を受け付けない。そして、なぜかナタリー副団長に執着している」
聖騎士たちは静かにその話を聞く。その様はまるで石像のようであった。
「悪魔憑きは決して生かすな」
法衣の人物が恫喝するように語る。
「ナタリー副団長の救出が最優先だ。もし我々の聖武具が通用せずとも、殺す手段はいくらでもある」
真っ白で分厚い眉の下から、法衣の人物は聖騎士を睨む。
「よいな。世界を悪魔に渡してはならない。我々はこの世界の最後の砦。正しき清浄なる世界のため、悪魔憑きを一匹残らず駆逐するのだ」
「「「はっ!!」」」
聖騎士たちの声が音の塊となって広間に響き渡った。
そしてにわかに騒がしくなる。
「作戦は第三十七旅団を中心に行う!」
「四十六から五十までは待機! 裁判急げ!」
「巡礼に回るのは二十番台だけだ! あとは三十七につけ!」
建物内に散る旅団。出立の準備を始める旅団。
そして、広間に留まっている旅団。
「レイモンドよ」
法衣の人物がゆっくりと近付いてきて声をかけた。
「教皇様」
気付いた第三十七旅団団長レイモンドたちが、一斉に膝をつく。
教皇と呼ばれた法衣の人物は、鷹揚に手の平を見せた。
「良い。皆、楽にしてくれ」
「はい。では失礼して……」
聖騎士たちがゆっくりと立ち上がる。
教皇は改めてレイモンドに声をかけた。
「レイモンドよ、災難だったな」
「私の不覚です。悪魔憑きは総じて能力が高い。そして得体のしれない力も持つ。知っておきながら、なにもできなかった自分が恥ずかしい」
「そう悔やむな。悔やむ暇があるなら、前に進みなさい。――目星はついておるのかね?」
「ゼルニケたちが死んだ場所の近くに集落があります。そこを起点に捜索します」
「良いことだ。悪魔憑きに蹂躙される前に、その集落の方々も救いなさい」
「はい」
「今日を生きる君たちに、祝福の祈りを」
教皇が印を組む。聖騎士たちは深くこうべを垂れてそれを受け取った。
顔を上げたレイモンドが、自他の聖騎士たちに告げる。
「長旅になるだろう。食料と馬の用意を!」
「「「はいっ!」」」
部下たちが駆け出す。残った旅団長たちは改めて地図を広げながら作戦会議を始めた。
教皇は静かにそこから去る。
「ナタリー副旅団長」
ぽつりと、いなくなった聖騎士の名を呟く。
「堕ちてくれるなよ」




