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加護憑き少年、一目惚れした聖騎士の少女と旅をする  作者: 長久保いずみ


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14/19

14.悪魔憑き

 突然の絶叫に老夫婦が飛び上がる。


「なんだ!?」


「行くぞ!」


 ナタリーがクサヴェルの首根っこを掴んで飛び出した。


 悲鳴は畑の方から近付いてきている。そちらへ駆けていくと、こちらに逃げてくる村人たちがいた。


「聖騎士様ぁっ! 従者様ぁっ!」


 そう叫んだ男が、鋭利な刃物で切断されたように斜めに切り落とされた。


「ひっ」


「怯むな!」


 息を呑むクサヴェルをナタリーが叱咤する。


 他にも悲鳴を上げながら逃げてきた村人たちが、次々に切られる。どれも刃物の姿なんて見えなかった。


「悪魔憑き……!」


 ナタリーが歯噛みする。


「やっぱり? そうなの?」


「ああ。この不可解な現象はそいつしかいない」


 ねっとりと血の臭いが立ち込める中、立っている人物が一人だけいた。


 どこにでもいる旅人のように見えた。ぼろぼろのマント。風にはためいて揺れるその内側も、どこにでもあるシャツやズボンだ。体格からして男だろう。


 伏せていた顔を上げると、ぼんやりとその景色を眺め始めた。


 ただの青年に見える。その男が不意に、腰から下が分離した死体の方を揺すった。


「すみません、お聞きしたいことがあるんですけど」


 死体は答えない。仮にまだ死体でなかったとしても、事切れるのは時間の問題だ。


「んー……」


 男はつまらなさそうに立ち上がる。そして周りを見回す。


 離れた場所に立っている二人を見つけた時、


「…………」


 虚ろだったその目が焦点を結んだ。


「……あぁ、ここにいたんだ」


 誰に向けられた言葉かわからず、クサヴェルもナタリーも辺りを見回す。だが周辺にいるのは自分たちと目の前の男だけで、生きている人はそれ以外にいない。


「まったく。手間かけさせるなよ。ほら、兄ちゃんと行こう」


 そう言って、男はクサヴェルに手を差し出した。


「……貴様、兄がいたのか?」


 意外そうにナタリーは訊ねるが、クサヴェルは強張った顔で首を激しく横に振る。


「おれ、生まれた時から一人だった。兄弟なんて誰もいない。こいつ、誰? 知らない!」


 悲鳴のようだった。男が残念そうに眉を下げる。


「ひどいなあ。兄ちゃん傷付いちゃう。……ま、そっか。自分を見殺しにした兄のことなんか、覚えてないか」


「え」


「は」


 次の瞬間。


「伏せろっ!」


 ナタリーに引きずられるようにして、クサヴェルは伏せた。


 その真上をなにかが通り過ぎる。突風の一瞬を切り取ったような鋭さだった。


 後ろでなにかが倒れる音がする。見ると、老夫婦と思しき体から大量の血が流れ出ていた。


「でもいいんだ。お前を殺して俺も死ねば、ぜんぶなかったことになる。なあ、()()()()。兄ちゃんと一緒に死のう?」


 クサヴェルは答える代わりに、ナタリーを抱えて走り出した。


「わっ、ちょっ、下ろせ!」


「ダメダメ無理無理! できるだけ小さくなってて!」


「なぜだ――」


 答えは直後にやってきた。


 ギィン! と金属音が鳴る。クサヴェルの背中からだった。


「いっつ……!」


 同時にクサヴェルも顔をしかめる。ナタリーは驚いたように彼を見た。


「貴様、怪我をしているのか?」


「体の傷はすぐに治るけど、痛みまで感じないわけじゃないから! 痛い痛いやばいやばいめっちゃ痛い!」


 ギギギギギィン! と連撃が来る。そのさらに後ろからは


「兄ちゃんとおにごっこかい?」


 なんて楽しそうな声が聞こえてくる。


 見えない刃で建物が次々に崩される中、ナタリーは必死に周囲を見回す。


「あっちだ!」


 不意に右側を指さした。


「崖がある、飛び込め!」


「うおおおおおおおおっ!!」


 クサヴェルがスピードを上げる。


 平原が続いているせいでわかりにくくなっていたが、村の奥は断崖になっていた。


 クサヴェルはそこに飛び込む。


 眼下に見えるのは一面の濃い緑。内臓が持ち上がる気持ち悪い感覚に二人で悲鳴を上げた。


 細い枝を折り、太い枝にぶつかり、何度もそれを繰り返して落ちていく。


 やがてその衝撃がなくなったと思ったら、今度は水音と共に肌を刺すような冷たさに襲われた。


「つっ、つめたっ……!」


「馬鹿、声を出すな! このまま下るぞ」


 幸い、川は深くて流れも速い。流れに身を任せていった方が速かった。




 悲鳴と、枝を折る音、そして水音。


 崖の上でそれらを聞いた男は、残念そうにため息をついた。


「あーあ。()()逃げられちゃった」

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