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加護憑き少年、一目惚れした聖騎士の少女と旅をする  作者: 長久保いずみ


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13.不穏な影

 教会の追っ手がいつ、どれほどの規模で来るかわからない。


 しかし、今度遭遇したらおそらく逃げきれない。


 だからクサヴェルは、ナタリーを連れて足早に歩いていた。


「あの集落に行くのか」


 後ろからナタリーが訊ねる。


「うん。ご飯欲しい」


「食事のことばかりだな、貴様は」


「ご飯は大事だよ? 食べ物がないとお腹が痛くなるし力が出なくなる」


「ああ、そうか」


「君はご飯がなくて大変だったことってないの?」


 クサヴェルに訊ねられて、ナタリーはふむと記憶を辿った。


「……食事がないわけではなかったが、満腹とは程遠かったな」


「わかる。パン一個が御馳走だから、何日にも分けて食べたい。でも残したら取られるからぜんぶ食べる。でもお腹いっぱいにならないんだよね」


「私は孤児院で育った。そこは神への供物として、その後は自分たちの食べる分として、畑で野菜を育てていた」


「いいなー、育てられるんだ」


「つまみ食いして仕置き部屋に入れられた子を何人も見たぞ」


「……なにその『仕置き部屋』って。お仕置きされるの?」


「皆の前で鞭で打たれた後、三日三晩入れられる部屋だ。出されるのは井戸水だけだ。それで懲りればいいのに、出たらまた畑から盗んで仕置き部屋行きを繰り返し、ついには地獄に落ちた奴もいたぞ」


「…………」


 クサヴェルはなんとも言えない顔で前を向いた。


「……君は、そういう子と友達だったの?」


「まさか。ああいう異教徒もどきと遊んでいたら、こちらまで目を付けられる。何度仕置きされても治らなかったあたり、あいつはすでに異教徒だったのだろう」


「でも君もひもじかったんだよね? どうして畑から盗まなかったの?」


「神はいつも見ている。それに、きちんとお勤めをしていれば食べ物が得られる。盗んで仕置き部屋に行くくらいなら、多少の空腹くらいは耐えられる」


「……そっか」


 クサヴェルはそれきり黙った。ナタリーもまた、なにも言うことがないから黙る。


 しばらく黙ったまま進み、やがて村に辿り着いた。




「教会だ」


「聖騎士様だ」


 村の人たちは口々に言いながら家から出てきて、膝をつきナタリーに頭を下げた。


 ナタリーは胸の前で印を組む。


「ここで出会えたのも、神の御導きでしょう。今日を生きる方々へ、祝福の祈りを」


 ナタリーが聖句を唱えるのを、クサヴェルは少し後ろで聞いていた。


 村人に不審がられないよう、クサヴェルはナタリーの従者という設定で合意した。これなら教会に向かわずふらふらしていても怪しまれない。


「長旅でお疲れでしょう」


「我が家に案内いたします」


「ありがとうございます」


 老夫婦がナタリーを案内する。その声が少し硬いことに、誰も気付かなかった。


「従者様」


 クサヴェルも後に続こうとして、他の村人に呼び止められた。


「お願いがあります。どうかお力を貸していただけないでしょうか」


「なにがあ……りました?」


「このところ、近くの畑が荒らされておりまして。獣の類には見えないのです」


「魔物かどうか、調査していただけませんか?」


「えっと……」


「行ってやれ」


 クサヴェルが言い淀んでいると、後ろからナタリーが言った。


「魔物かどうか、見分けるのは得意のはずだ。あとで私にも報告するように」


「……うん!」


「敬語を使え」


 それだけ言って、ナタリーは老夫婦の後をついて行った。


 残されたクサヴェルは、村人の方に向き直る。


「ええと……じゃあ、案内をお願い、します」


「はい」


 村人たちが頷いた。




「うわ」


 畑の惨状を見たクサヴェルは、声を出さずにはいられなかった。


「なにこれ、本当に魔物の仕業?」


「我々には、そうとしか見えません。従者様には、どんな風に見えるのですか?」


「どう、って……」


 クサヴェルは言葉に詰まる。


 畑が荒らされるというから、てっきり野生動物や魔物が土をほじくり返しているのかと思った。なわばりにして堂々と居座っているというのもわかりやすい。


 だが目の前の畑――そう呼ばれている土地には、大規模な戦闘の跡しか残されていなかった。


 地面に幾筋も大きな亀裂が走っている。場所によっては土がはじけ飛んだような痕跡もあった。


 いくらなんでもこれは魔物の仕業ではない。だって奴らの痕跡である焦げた地面がない。仮にあったとしても、これだけ吹き飛ばされていたら証拠もなにもあったものではないが。


(もしかして、悪魔憑き?)


 思い浮かんだ可能性はそれだ。


 人によって異なる、奇妙な現象を操る悪魔憑き。クサヴェルの能力はいまのところ体の頑丈さと言えるが、自分以外の悪魔憑きに会ったことがないから確証も持てない。


(あの子に聞いた方がいいな)


「……教会から、応援を呼んだ方がいいかもしれな……ません」


「え?」


「あの子……聖騎士様にも聞いてく……きます!」


 クサヴェルは走り出した。ナタリーが老夫婦に連れられた先には、一軒しか家がなかった。


 そこに飛び込む。


「ねえ――」


「ノックをしろ!」


「はい!」


 ナタリーに叱責され、ノックからやり直す。


 こんこん


「はい」


「……えっと、は、入ります」


 そう言って入ると、椅子に座っていたナタリーが頭を抱えていた。


「……ど、どうした……じゃなくって、どうしました?」


「貴様にマナーを一から叩き込まなくてはと思うと頭が痛い」


「まなあ?」


 知らない単語が出た。ナタリーはため息とともに首を振って、クサヴェルを見た。


「いい。それより、どうした?」


「畑の荒らされ具合が、魔物や野生動物のものじゃない。もっと大きな力を持っているかも」


 ナタリーの目が見開かれた。顔を近づけて声を潜める。


「悪魔憑きか?」


「断言できないけど。たぶん、合ってる」


「畑の状態は?」


「よくわからないけど、何日も経っていないよ」


「つまり、この近くにいる」


 二人の顔が青ざめた、その時。


 外から絶叫が聞こえた。

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