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加護憑き少年、一目惚れした聖騎士の少女と旅をする  作者: 長久保いずみ


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12/20

12.聖騎士

「ああ、副団長……」


 対峙したゼルニケが恍惚とした表情を浮かべる。


「あなた様は、光だ。私の光だ。この世の穢れをすべて払ってくれる」


 ナタリーは前を見据えたまま言った。


「ウォーレン、対処法その一!」


 呼ばれた隊員が飛び上がる。


「えっ、あっ、『異教徒の主張には耳を貸さない』!」


「大丈夫です。そこの悪魔憑きを殺せば、あなた様はまた皆を導いてくれる」


 ゼルニケの言葉を無視してナタリーは叫ぶ。


「ハミット、対処法その二!」


「『異教徒を歩かせない』!」


 隊員が答えたそばから、ゼルニケがざっと前に出る。


 同時にナタリーも動き出した。


 大股でゼルニケに肉薄し、足に突きを繰り出す。


「がっ、あ……!?」


 バキン、と嫌な音がしてゼルニケの足が途中で変な方向に曲がった。


 バランスを崩したゼルニケの目に、斧を振り上げるナタリーが映る。


「な、なた……」


「リヒター、対処法その三!」


「『異教徒を迅速に無力化せよ』!」


 隊員が言うと同時に、斧の柄がゼルニケの頭に直撃した。


「すげー」


 倒れるゼルニケを見ながら、クサヴェルは短剣をしまって拍手を送っていた。


「あ、た、り、ま、え、だろうがっ!」


 その横顔に、振り向きざまの拳が当たる。


「ナタリー副団長は若干十五歳でその座に就いた凄いお方なんだぞ!?」


「俺たちの憧れの的!」


「てめえみたいな悪魔憑きがほいほい近付いていいお方じゃねえっつーの!」


「ちょっ、まっ、待って! おれそんな変なこと言った!?」


「言っていない!」


「だがお前が言っていいことじゃない!」


「言ってることが無茶苦茶だ!」


「黙れ悪魔憑き!」


 ここぞとばかりに袋叩きにされる。聖武具(セイクリッド)で容赦なく突かれているが、痛がってはいてもダメージが入っている様子はない。


「貴様ら、遊んでいないでこいつを縛り上げろ」


「はい、副団長!」


 一人の隊員が、手荷物から縄を取り出す。


 彼がゼルニケを手際よく縛り上げるのを背に、斧をブローチに戻したナタリーはクサヴェルの元へ向かう。


「さて、こいつの処遇だが……」


「殺す一択でしょ?」


 クサヴェルに槍を突きつけている隊員が言った。しかしナタリーは首を横に振る。


「いや、殺せるならとっくに殺している。さっきも言ったが、こいつは悪魔の加護のせいであらゆる攻撃が通らない。昨日魔物と交戦した時も、足に怪我を負ったがすぐに回復した」


「え……じゃあ聖武具(セイクリッド)も?」


「無防備にぐーすか寝てくれたから、殺そうとしたのだがな。まったく刃が通らなかった」


「そんなことしてたの!?」


 クサヴェルの悲鳴は無視された。


「えー、じゃあ教会に連れていきます? 新人たちの練習台にさせますか?」


「と思って連れて行こうとしたが、逆に私が引きずられる羽目になった。レイモンド団長の力を借りたい」


「……ナタリー副団長が負けたんですか? 力的に」


「そうだ。道中で変な溝があっただろ? こいつに引きずられた私の足跡だ」


「マジですか……」


 ゼルニケとは別の意味でドン引きの視線が送られる。


「じゃあどうするんですか? 正直、俺たちだけだと悪魔憑きと異端者って荷が重いんですけど」


「他の班はどうしたんだ? お前たちを含めて三班がこいつを追っていたはずだが」


「途中で見失っちゃったんで、三方向に分かれて捜したんです。三日捜しても見つからなかったら、教会で合流する手筈になっています」


「そうか」


「……それって」


 クサヴェルがおそるおそる口を開く。


「おれ、教会からいっぱい追われるってこと?」


「理解が速くて助かる」


 ナタリーが言った。


 次の瞬間、クサヴェルは喉元の槍を払いのけた。


「えっ?」


 ナタリーから視線を戻した隊員の喉を短剣が切り裂く。


 鮮血が勢いよく噴き出した。


「ウォーレン!」


「貴様……!」


 ナタリーたちが聖武具を構える。だがクサヴェルは怯むどころか、剣を構えた隊員に向けて突進した。


「わっ……!」


「狼狽えるな、応戦しろ!」


 ナタリーが怒鳴っても遅かった。逆に怯んだ隊員の喉を掻き切る。目が虚ろになっていきながら、剣が振り回される。それが手からすっぽ抜けて、木の幹に刺さった。


「おのれ、二人の仇!」


 ゼルニケを縛り上げていた隊員がハルバードを振り回す。


 クサヴェルの後ろからナタリーが斬りかかるが、まったく堪えていない。


 ナタリーが舌打ちする。


「リヒター、お前は逃げろ!」


「しかし、副団長……!」


「言ったはずだ、こいつにはあらゆる攻撃が通らない! 私が突破口を見つける。それを担いで教会へ戻れ!」


「させない」


 クサヴェルが呟いた。上半身を捻ってナタリーの斧を受け止める。


「これ、借りるね」


「誰が貸すか!」


 両足を踏ん張ってナタリーは斧を持つ両手に力をこめる。クサヴェルも短剣をしまって両手で取り上げようとした。


 膠着(こうちゃく)している間に、リヒターがハルバードをしまってゼルニケを担ぐ。


 森へ隠れる前に、彼はナタリーを振り返った。


「絶対に団長たちと一緒に迎えに行きます!」


 クサヴェルがリヒターを見る。獲物を逃がさない獣のような目だった。


「それまで耐えて――!」


「わっ!」


 不意にクサヴェルが手を離した。勢い余ってナタリーが引っ繰り返る。


 そちらを見ずにクサヴェルは腰の短剣を取り出した。リヒターに視線を固定したまま、短剣が投げられる。


「ふくだ……!」


 リヒターは若い聖騎士だった。引っ繰り返ったナタリーを見捨てられるほど命令に忠実ではなかった。


 だから彼は、額と喉に短剣を突き立てられて、倒れた。


「っ……、リヒター?」


 起き上がったナタリーが見たのは、倒れたリヒターの死体から短剣を抜き、ゼルニケに向けて振り下ろすところだった。


「……よし、これで大丈夫」


 次に森に響いたのは、クサヴェルの安堵したような声だった。


 白い外套で短剣の血を拭い、腰の鞘に納める。


 そして振り返った彼は、今までと同じ顔をしていた。


「行こう」


 ナタリーはその手を掴まれて我に返る。


 振り払うと、ぱんと乾いた音が響いた。


「えっ……」


「貴様、なぜ殺した」


 ナタリーは立ち上がり、斧を構える。


「え?」


「なぜ聖騎士を殺した。悪魔憑きだからか」


 問われたクサヴェルは、血の臭いが漂う中で考える。


「うー……ん……。そう、なのかな?」


「……なぜ断定しないんだ」


「聖騎士かどうかじゃなくて、おれが幸せになれないと思ったから、殺した」


 ナタリーは頭痛をこらえたい衝動にかられた。


「……意味がわからない」


「だから、教会に連れてかれたら、延々殺されそうになるんだろ? それは絶対に嫌だ。知らされるくらいならここで殺した方が時間が稼げるじゃん」


「……私を殺さなかったのも、貴様の幸せとやらが理由か?」


「うん!」


 子どものような笑顔でクサヴェルは頷いた。


「だって、君のことが好きなんだもん。君にも幸せになってもらいたい。おれ、君といる今が一番楽しいし幸せだもん」


「…………」


 ナタリーはついに構えを解いて、頭を押さえた。


「貴様……、これで完全に教会を敵に回したぞ」


「あー……だろうね」


「彼らを殺したところで、いずれ事は明らかになる。貴様の情報は教会全体で共有される。教会に連行されれば、死よりも恐ろしい拷問を受けるだろうな」


「それは嫌だ」


 うげ、とクサヴェルは舌を出した。


「その上、私の幸せを探すだと?」


「ダメ?」


 クサヴェルがナタリーの顔を覗き込む。


 ナタリーはフードをかぶり直した。


「……私は、私の幸せというのがわからない」


 ぽつりと、言葉がこぼれる。


「教会に保護されてから、ずっと神の御意思に沿うことだけを考えてきた。だから、私自身の幸せというものを考えたことがない」


「うん」


 ナタリーはクサヴェルを見た。


「私を幸せにしたいと言ったな、悪魔憑き」


「言った」


「ならば、貴様がそれを探してみせろ」


 クサヴェルが驚いたように目を見開いた。


「……いいの?」


「並大抵の聖武具では歯が立たないのだ。正直に言って我々の常識を超えている。天授者でもないのに聖武具(セイクリッド)が通らないとか、いったいどうなっているのだ」


 ぶつぶつと呟くナタリーの隣で、クサヴェルは言葉を噛み砕く。


「……つまり、まだ一緒にいていいってことだよね?」


 クサヴェルの解釈に、ナタリーが眉間にしわを寄せた。


「…………。ああ、おおむねその解釈で合っている」


「やったー!」


 言いたいことをぜんぶ飲み込んでそう絞り出したナタリーに、クサヴェルが拳を掲げて喜ぶ。


「あのなあ、わかっているのか? 貴様を殺す手段がわからないだけで、それがわかれば今すぐ私は貴様を殺しているんだからな?」


「わかってるよ」


 にこにことクサヴェルが頷く。


「これからもよろしくね!」


(拳の一発くらいぶち込んでも、大したダメージにはならないよな)


「ぐはっ! なんでえ!?」


 クサヴェルの悲鳴を聞いて、ナタリーは彼のみぞおちに一発決めていたことに気付いた。

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