アイス
夕日が『神様』を照らす。まるで、本物の神様みたいに。
『神様』が見舞いにきてくれた。
僕だけのために。
そう考えると、さっきまでテストで悩んでいたことが嘘みたいに、心が軽くなった
「神代か。見舞いに来てくれたのか?ありがとな」
僕は、寝ていた体を起こして言う
「いいえ。体調は大丈夫そうですか?」
『神様』は、そこら辺にある椅子を持って来て僕のそばに座った。
「結構よくなったぞ」
『神様』と二人っきりの部屋で会話している。さっきまでぼうっとしていたのが嘘みたいに、頭が冴えていた。
神代は安心したように微笑んだ。
「それは、よかったです。保健室の先生が、夜雨さんの体調がよくなっていそうだったら、鞄を届けてほしいと言われていたので。これ、鞄です」
『神様』は、僕に鞄を渡してくれた。
わざわざ僕のために持って来てくれたのだ。
ああ、なんて幸せなんだろう
「ありがとな」
僕は、『神様』を帰り道に誘いたかった。
一緒に帰らないか、と。
だけど、心臓がどきどきしてた。胸が苦しい。緊張のせいで、言葉が出てこない
「どうかしましたか?」
『神様』は不思議そうな顔で僕を見てくる。
「さっきのお詫びをしたい。何か帰り道おごらせてくれないか?」
「いいえ。そんな大したこともしてませんし」
『神様』は困った顔でやんわり断った
「俺がおごりたいんだ。だめか?」
『神様』にあんなものを見せてしまったんだ。お詫びをしなきゃ、僕が困る。
そんな僕の心情を受け取ってか、『神様』は苦笑しながら、了承してくれた。
「では、ローソンでアイス奢っていただけますか?冬にアイス食べるの好きなんです」
『神様』の意外な一面だった。冬にアイス。かわいい
「そんなものでいいのか?」
「ええ。では、行きましょうか」
『神様』は、取った椅子をもとの位置に戻し、僕と一緒に学校を出た
夕方も過ぎ、冬の夜はとてつもなく寒い。僕は手をこすりながら、全然寒くなさそうな『神様』を見る
「神代は寒くないのか?」
『神様』は、ポケットの中からホッカイロを取り出して見せた。
「これがありますので。あとは、もともと冬は涼しくて好きなので」
「すごいな。俺はどちらかというと夏派だな」
今日は、特別な日だ。
何回も『神様』を独占出来て、たくさん話せている。こんなうれしいことはない
「ローソンあったぞ。アイスなにアイスがいいんだ?」
僕もせっかくならと、アイスコーナーに一緒に向かった。
冬に食べるアイス。いつもなら考えられないが、たまにはそうゆうことに挑戦してみてもいいのかもしれないと思った。
「これです」
『神様』は、練乳アイスを取って見せた。
僕が食べたことがないメーカーの練乳アイスだった。僕も、挑戦してみようと思い、同じのを手に取る。
「じゃあ、俺も同じので」
そして、僕たちはアイスを買ってローソンの外で食べながら話す。
「神代の家ってどこなんだ?」
いつも朝一番に『神様』は教室にいるので、どこから来てるのか誰も知らないのだ。
「それは――」
「お!夜雨と『神様』じゃん」
『神様』が喋ろうとした瞬間、同じくローソンに立ち寄ろうと考えてたのか、晴日と黎が話しかけてきた。
「夜雨体調大丈夫か?あんま、無理すんなよ」
黎も静かにうなずく。
こんな僕のことを心配してくれる、いい友人なのだが、今じゃない。
『神様』と二人っきりでせっかく楽しく話していたのに。
まあ、心配してくれているっていう行為はとてもありがたいけど。
「もう全然平気だ。心配してくれてありがとな。お前らもローソンで何か買うのか?」
「そ!肉まん。流石に今日は寒いからな。まだ残ってると良いんだが」
晴日は、寒そうに体をさする。反対に、黎は余裕そうだ。
「俺は、アイス」
黎も『神様』と同じく、冬にアイスを食べる派らしい。
「私と一緒ですね。冬って練乳アイス食べたくなりませんか?」
「わかる」
珍しく黎が、僕たち以外の人と話してる。
なんだろう、この気持ち。
僕は、アイスを食べながら考える。
「冷た」
僕は、あまりの冷たさに諦めて黎にアイスを渡す。
朝、晴日が『神様』に笑いかけられた時とは違って、指が反射的に動くことはない。
けど、嬉しくもない。
なんだ、このもやもやしたかんじ。
……ああ、そうか。
黎はチャラチャラしてないからだ。
晴日みたいな、チャラ男が『神様』に近づいたら、綺麗な『神様』が汚れてしまう。
でも、黎は違う。
女遊びもしないし、軽薄なところもない。
黎なら、『神様』の隣にいてもおかしくない。『神様』はけがれない。
……だから、別に嫌じゃないんだ。
ほんとに?それでいいの?
だったら、黎にはいつも通り友人としか見えないはずだ。
黎が、僕たち以外の人と話している。黎にとっては大きな一歩。嬉しいはずだ。
「おい、おい!聞いてんの夜雨」
いつの間にか、周囲が見えてなかったらしい。晴日が目の前に立って、僕の顔をのぞき込んでた。
「さっきから、上の空だったぞ。やっぱりまだ体調良くないんじゃね?」
晴日が珍しく、心配そうな顔で僕を見る
「ああ、すまん。考え事。」
晴日は、視線を右や左へと目線をそわそわさせる。そして、何か覚悟を決めたような顔をして僕を見る
「お前、テストの時期毎回体調崩してるけど、何かあるのか?」
僕は心臓以外の音が何も聞こえなくなった。
ドクドクドク
さっきまで『神様』と話せていた嬉しさにすっかり考えないようにしてた。
そうだ、テストだ。
いや、その前に今何時だ?
僕は慌てて時計を確認する。時計を見た瞬間ぼくは凍りつく
午後10時。
門限の時間は、とっくのとうに過ぎていた。
終わった。お母さんに殺される
門限も破ったし、体調を崩して保健室に行ったりもした。
もっちゃんは、もうお母さんに僕が保健室に行ったことを伝えているはずだ。
終わった。完全に終わった




