016話_家族の答え
「その力のことだが」
オーレンが、顎に手をやりながら続けた。
「今すぐ、村中に知らせるつもりはない。お前がまだ子供であることも考えると、下手に噂が広まれば、良からぬ輩に目をつけられる恐れもある」
「……いいんですか?」
「村を救ったのは事実だ。だが、それを言いふらして回る必要もあるまい。ガインやフェン、ラウ殿の手柄として扱っておけば、当面は問題あるまいよ」
思いがけない申し出に、俺は驚きながらも、素直にありがたいと思った。この村長は、見た目の厳しさとは裏腹に、思いのほか、細やかな配慮の持ち主だった。
「もちろん、いずれは知られることもあるだろう。だが、それはお前が自分で選べる時が来てからでいい」
オーレンはそう言って、静かに微笑んだ。その笑顔には、確かな温かさが滲んでいた。
「かたじけない、村長様」
ガインが、深々と頭を下げた。オーレンは、軽く手を上げて、それを制した。
オーレンが帰った後、家の中には、俺とガイン、メリアの三人だけが残された。窓の外には、変わらぬ、村の穏やかな光景が広がっていた。
「アオ」
メリアが、俺の前にしゃがみ込み、目線を合わせてきた。その瞳には、深い、母親としての優しさが、宿っていた。
「怖かったでしょう。ずっと一人で、抱え込んでて」
その言葉に、不意に胸の奥が熱くなった。
「……ちょっとだけ」
「これからは、隠さなくていいのよ。わたしたちは、あなたの味方なんだから」
「うん」
声が、思ったより震えた。堪えていたものが、少しずつ、緩んでいくのが分かった。
「その力、正直、まだよく分からないところもある」
ガインが、腕を組みながら言葉を継ぐ。囲炉裏の薪が、パチリと、小さく音を立てた。
「だが、お前がその力を、誰かを傷つけるためじゃなく、誰かを助けるために使ってきたことは、この目で見てきた。それだけで、俺は十分だ」
不器用な言い方だったが、その分だけ、本心が伝わってきた。
「大きくなったら、何になりたいんだ、アオ」
急に聞かれて、俺は少し戸惑った。だが、答えはすぐに出てきた。まるで、ずっと前から、決めていたかのように。
「冒険者、かな。色んな場所を旅して回って、のんびり暮らせそうな場所を探したいんだ。見つかったら、そこで、自分のペースで、力を役立てながら生きていきたい」
派手に名を上げたいわけではない。誰かを助けたいと思ったときに、そっと手を差し伸べられる。そんな存在でいたかった。
「そうか」
ガインは、少し嬉しそうに笑った。深いしわの刻まれたその笑顔を、俺は、これまでに何度も見てきた。それでも、今日の笑顔は、いつもより、少しだけ、誇らしげに見えた。
「なら、そのときまで、しっかり鍛えておかないとな」
「そうね。まずは、ちゃんと野菜を食べることから始めましょうか」
メリアの茶化すような言葉に、家の中に笑いが起きた。
張り詰めていた空気が、少しずつ和らいでいく。窓の外に差し込む夕日が、家族三人の姿を、暖かく照らしていた。
この日、俺は初めて、自分の力を、家族に丸ごと受け止めてもらえた。それがどれほど心強いことか、このときになって、ようやく実感していた。
「そうと決まれば、今夜は、ご馳走にしましょうか」
メリアが、明るい声で、そう提案した。
「いいな、それ! 腹が減ったところだ」
ダリオの声が、外から、聞こえてくる。どうやら、聞き耳を立てていたらしい。
「こら、盗み聞きしてたのか」
ガインの呆れた声に、家の中は、また、笑いに包まれた。




