↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
采配のスローライフ  作者: PM
01_第一章
PR
13/21

012話_気づく大人たち


 ――メリアの視点


「ねえ、あなた」


 夜、子供たちが寝静まった後、メリアはガインに小さく声をかけた。囲炉裏の火だけが、静かな部屋を、赤く照らしている。


「なんだ」


「アオのことなんだけど」


 ガインは薪をくべる手を止め、視線を上げた。パチリ、と、火の粉が、小さく爆ぜた。


「お前もか」


「やっぱり、気づいてたのね」


 二人の間に、しばらく沈黙が流れた。窓の外では、虫の音だけが、規則正しく響いている。先に口を開いたのは、メリアだった。


「ダリオの剣、バロン、それにフェン……全部、なんだかおかしいのよ。アオが関わってるのかどうかは、わからないけど。あの子、何も言わないから」


「狩りに連れて行ったときも思ったよ。体はまだ小さいのに、目つきだけ、妙に落ち着いてる。まるで――」


 ガインは言葉を選ぶように、少し間を置いた。炎を見つめるその横顔には、深い思案の色が浮かんでいた。


「もっと、ずっと歳を重ねた大人みたいだった」


「わたしも、同じことを思ったことがあるわ。生まれてすぐの、あの顔」


 メリアは、ふっと目を細めた。懐かしむような、それでいて少しだけ不安げな表情だった。生まれたばかりのアオが、じっと、何かを考え込むような顔をしていたこと。愛おしさと、ほんの少しの不思議さが入り混じった、あの顔を、彼女は、今も鮮明に覚えていた。


「怖い、とは思わないの?」


「怖くはない」


 ガインは即座に答えた。迷いのない、はっきりとした声だった。


「あいつは、誰かを困らせるために力を使ってるわけじゃない。むしろ逆だ。畑のこと、村のこと、いつも誰かのために、こっそり動いてる」


「……そうね」


 メリアも小さく頷いた。その表情には、不安よりも、確かな安堵の色が、色濃く浮かんでいた。


「ただ、村長のところにも、そろそろ話が届いてるかもしれないわね。噂は隠しきれないもの」


「オーレン様か」


 ガインは腕を組み、火の粉を見つめた。


「あの人なら、無闇にアオを危険にさらすようなことはしないだろう。だが、いずれ何かしらの形で、表に出てくることになるかもしれん」


「そのときは」


「そのときは、俺たちが盾になる。あいつが、自分らしく生きられるように」


 力強い声だった。メリアは静かに微笑み、夫の肩にそっと手を添えた。窓の外の月明かりが、二人の影を、柔らかく照らしていた。


 同じ頃、村長オーレンの家でも、似たような会話が交わされていた。


「フェンの噂、聞きましたか」


 娘のリゼットが、興奮気味に語る話に、オーレンは目を細めて耳を傾けていた。ダリオの剣の一件、ラウの見回りの一件。娘が持ってくる話の端々に、いつも、あの子の名前がちらついている。村長として、これまで多くの相談事を受けてきたオーレンには、それらの繋がりが、次第に、はっきりと見え始めていた。


「ふむ……」


 オーレンは顎に手をやりながら、窓の外に目をやった。夕闇に沈む村の家々の中に、アオの家の明かりも見える。


「あの子、ただの賢い子供ではないのかもしれんな」


 誰にともなく呟いた言葉は、静かな夜の空気に溶けていった。


「父様は、心配ではないの?」


 リゼットの問いに、オーレンは、静かに首を振った。


「心配、というより――楽しみだよ。あの子が、これから、この村に、どんな風を運んできてくれるのか、な」


 リゼットは、その言葉に、少し驚いた様子を見せた後、静かに、頷いた。


「わたしも、アオのこと、好きよ。友達として、ずっと応援したい」


「そうか」


 オーレンは、目を細めながら、娘の言葉に、静かに耳を傾けていた。窓の外では、夜風が、静かに、木々の葉を揺らしていた。


 こうして、大人たちの間で、アオへの静かな信頼が、少しずつ積み上がっていった。


 当のアオが、まだそれに気づいていないところで。小さな村の中で、噂と信頼は、静かに、しかし確実に、その輪を広げ続けていた。


 翌朝、いつも通り、朝食の席についたアオの様子を、ガインとメリアは、それとなく、見つめていた。当のアオは、まだ何も知らず、いつものように、眠たげな顔で、パンをかじっている。そのあどけない仕草に、二人は、思わず、顔を見合わせて、微笑んだ。


「まだまだ、子供らしいところも、ちゃんとあるじゃない」


 メリアの小さな呟きに、ガインも、静かに頷いた。


「この先、あの子が、どんな道を歩むにしても、俺たちにできることは、変わらんだろう」


 ガインの言葉に、メリアは、深く頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。