4話余談
カフェインを摂取したおかげでだいぶ意識がしっかりしているものの、まだ少し寝ぼけているユリウスにイザベラは久々に思い出した桜の木のことを聞いてみることにした。
「先生は、どうして桜を咲かせたのですか」
「...桜?」
イマイチぴんと来ていないのか、ユリウスは訝しげに目を細める。
「庭園の隅でずっと咲いてる桜の木のことですよ。先生がやったんですよね?」
「................あぁ、あれか」
具体的に説明して、やっと思い出したものの、興味なさげに返事をして、ユリウスはコーヒーを口に含む。
「なんで、桜だったんですか?」
「特に理由はない。殺風景でつまらんかったから、試しにやってみた」
「試しにって...」
種が違う木を桜にした挙句、季節関係なく花を咲かせ続ける魔術を試しにやってみたと言われ唖然とする。
しかもそんな魔術を1つの魔術陣だけで成立させている。
試しにやってみたにしてはあまりにも高度すぎる。
「本当に先生は天才ですね。その調子で早く惚れ薬を作ってください」
そして、早く研究費の凍結を終わらせていただけなければ、本当に来月の生活費がやばい。
困窮状態が続き、少しだけ焦り始めているイザベラに、ユリウスは得意げに鼻を鳴らす。
「ふっ、問題ない。近々試す予定の魔術で恋というものが理解できたら、すぐ出来る」
「本当ですか!?さすが先生です!」
まさかそこまで進んでいたとは思っておらず、興奮気味に称賛すると、ユリウスは気分を良くしたのか、珍しく笑みを浮かべている。
「当然だ。わたしに不可能なことはない」
「さすが先生!それじゃあ天才ついでに、これもやってみてはいかがでしょうか」
間髪入れず、イザベラは一枚の書類をユリウスの前に差し出す。
先日、医療魔術特化研究室から依頼が来ていた未知の感染症の治療法の魔術構築についてイザベラがまとめたものである。
それを見るやいなや、ユリウスはイザベラと書類を交互に見る。
「...なんだ、これは」
「少々難しい案件なんですが、天才の先生なら大丈夫です!すぐに終わりますって!!」
わざとらしく声色を上げると、ユリウスの顔が瞬く間にいつもの仏頂面に戻っていく。
「断る。興味ない」
「そんなこと言わないでくださいよ!!先生」
「知らん」
車輪付きの椅子を足で動かし、ユリウスはイザベラから離れていく。
しかし、イザベラは諦めず、その後についていく。
「先生!お願いですってば!!結構大変なんですよ、これ!!」
「うるさい」
「先生ー!!!」
こうして、本日も例外なく慌ただしい時間が始まっていくのであった。




