届いた手紙
その手紙は、他の書類に紛れて届けられた。
何気なく封を開けかけたゴルザンは、差出人の名を見て手を止めた。
──ロラン=バルト。
静かな空気の中、紙の擦れる音だけが響く。
手紙の文面は、かつての上司らしく、端的で、しかしどこか不器用だった。
《あの時は、すまなかった。お前が見ていた現場のこと、俺も全部は見えていなかった》
《だが、お前のような盾を、いつかまた迎えたいと思っている》
《……それと、カレンも本部で奮闘している。あいつなりに、お前のことを想ってるようだった》
《言葉にはしなかったが、俺にはわかる》
その言葉を、ゴルザンは黙って読んだ。
──盾。
その言葉に、微かに胸がざらつく。
***
記憶が、酒場の夜へと遡る。
「お前、最近ちょっと、堅すぎんだろ」
そう言って、ロランはジョッキを二つ並べた。
「……飲むつもりなかったんですけど」
「そういう奴から潰れるのが世の常だ。さあ、座れ」
その口ぶりに呆れながらも、ゴルザンは席についた。
やがてロランは静かに言った。
「口を閉じてりゃ、余計な摩擦は減る。でもな、黙ってばかりじゃ、味方も増えねぇ」
「……やりづらさを感じていたのは、事実です」
「そういう時はな、何かが変わる前兆だ。だからこうして飲みにきたんだよ」
ジョッキが傾き、静かな夜のざわめきが耳に残る。
「歩み寄れ。敬意をもって、相手に近づいてみろ。……お前が前に立ちたいなら、それくらいの度量を見せてみろ」
「……昔、前に立つのが自然な奴がいました。すごいと思った」
「そいつの真似をしろとは言わん。でも今のお前は、少しだけ“そいつの背中”を忘れてる気がする」
あの晩、酔いが回ったロランが陽気に言った言葉も思い出す。
『お前みたいな奴がさ、いざってとき“ガッ”て前に出んのがさぁ!』
……からかいにも似た、でも本気の、励まし。
***
便箋を読み終えたゴルザンは、ひとつ息を吐いた。
……あいつも、どこかで歯を食いしばっているのかもしれない。
それだけは、わかる気がした。
思えば、あの夜の言葉はずっと心に残っていた。
そして今、その言葉に少しだけ応えられている気がする。
──だから今は、戻らない。
ここで、やるべきことがある。
ゴルザンは手紙を丁寧にたたみ、引き出しにそっとしまった。
それは、いつか返すべき“信頼”という名の借り。
──今はまだ、その時じゃない。




