再起の地
ギルド・ラストリーフ支部の朝は、今日も静かに始まった。
だが、その静けさはかつてのような淀みではなかった。
書類の山が少しだけ整い、受付の声にわずかに抑揚があり、
何よりも、廊下を通る職員たちの足取りが、どこか軽やかだった。
***
ハナミ=ルードンは、いつもの帳簿席で眼鏡を押し上げる。
──最初にあの男が来た日。
支部の空気は凍っていた。
誰も笑わず、誰も話さず、ただ“今日をやりすごす”空間。
そこにいた彼もまた、無精ひげのまま、ひたすら黙っていた。
それがどうだ。
今、目の前を通り過ぎた男の背中は、まるで別人のようだった。
「おはようございます」
そう言ったのは、ゴルザン。
かつて誰にも挨拶せず、誰からも声をかけられなかった男。
それが今は、自ら声を発していた。
言葉は短くとも、その“ひと言”に込められた想いは伝わっていた。
***
チーム光合成は、今日も昼前から軽食を求めて支部に現れた。
依頼の打ち合わせが終われば、《まるまる亭》で踊りの話をして笑い合い、
リリアは受付で誰かと談笑しながら書類を回し、
マルコは無言のまま椅子の角度を微調整していた。
チットの羽ばたきはやけに軽やかで、マーサは今日も忙しそうに定食を盛り付けていた。
──何かが、変わった。
目に見える変化は小さい。
でも、その小さな変化が積み重なった今、
この支部は確かに“再起”の道を歩み始めていた。
***
ゴルザンは書類を持って、いつものように歩いていた。
だがその足取りは、もう“ただ流される”ものではない。
マーサに背中を叩かれ、ルイスに感謝され、リリアに笑顔を向けられ、
ロランの手紙を読み、過去と向き合い、
そして今、自分の意志でここに立っている。
それは、誰かに用意された道ではない。
自分が、選んで歩いている道だ。
ハナミが帳簿越しに、ふっと目を細める。
そして、そっと呟いた。
「……あの男、ようやく“ここ”にいるようになったね」
その言葉に応えるかのように──
ギルドの扉が、朝の光を背に、ゆっくりと開かれた。




