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第三幸その9「勇者と勇者の殺し合いだ」

「それさ、僕らが反対しない前提になってますよね?」


 居合わせたシュディアー側の権力者達の拘束の後、鎧を解除したディムホルツは、勇者達だけを会場に残し、その旨を伝えた。



 だが国に忠を尽くすディムホルツ達に対し、意見を違えたのは勇者三人。

 先程の台詞は、色欲の勇者の男によるものだった。



「確かに僕は軍人です。命令と言われれば、死ぬことも職務内容でしょう。

 ですが……そんな危険な実験を隠されて、そのうえ大義の無い侵略に加担しろって、文句も言いたくなりますよ。大佐のように、財団関係のお家ではないのでね」



 それに賛同したのは、嫉妬の勇者の女。

「彼の言う通りよ。こんな僻地に飛ばされたと思ったら、元の世界に帰れないなんて聞いてないのよぉぉ!」



 そして大食の勇者は決別の意思を言い放った。

「じ、自分達は……賛同出来ません! 我々の世界の争いならまだしも、別世界にまで戦争という『悪』を持ち込むのは……せ、『正義』ではありません。


 何よりこの世界の、異世界を知らぬ一般市民は、無関係ではありませんか!」



 ディムホルツは舌打ちした。彼らがこんなにも忠誠心の低い者達だったのかと。


(ち……所詮は間に合わせか。鎧への適性者がギリギリまで見つからず、適性重視でエリート以外を選ぶからこうなる。


 ましてや一人は、兵士としても下位ではないか。仕方ない、今は力づくで拘束して、後々洗脳手術にかけるか……)



 手駒達に見切りをつけたディムホルツの後方に、何かが落下してきた。


 それもまた勇者鎧。三メートルを超える巨体は地を踏み砕き、身を起こして作る影は、強いプレッシャーを与えてくる。



 憤怒の勇者『サターントリプル』だ。


 紫の重装甲に銀の装飾がなされ、各所に牛のような角と模様が有る。

 兜には四本の角を生やし、四角のバイザーに横一線の穴が開いており、中で緑のモノアイが緑昇達を見下す。



 両腕両足は樽に似た形状で大きく、それに伴い手の五指も極太だ。



「そんな……堀中佐もこれを承知していたのですか!」

 緑昇は悲壮な顔で師を問う。

 憤怒の悪魔憑きは、彼と関係深い堀 忠興中佐なのだ。



 ディムホルツの背後に控えた勇者は、静かに答える。

「いや、私はシュディアーに着いた後から、極秘指令を受領していた。

 緑昇、軍に忠を誓ったなら、悩む必要はないではないか? 私も、君も、軍人ではないかな?」



 堀はそう言って、威嚇のように巨腕を緑昇ら三人に向ける。

 ディムホルツは勝ち誇った笑みで、離反者達に語るのだった。

「その通りだ中佐。救世主を呼んでおいて、自ら手に掛ける野蛮な世界など、我々が支配してやるのが条理であろう? 


 確かに我々の支配に逆らう者達は殺すだろうな。無人兵器軍の進軍で、市民に多少の犠牲が出るかもしれん。


 それは仕方のないことだ。いずれ大勢のマシニクル人が移住するとき、元の住人は少なくした方が……都合が良かろう?」



「だがねディムホルツ大佐、私は『多少の犠牲』では、治まらないのだよ」



 サターントリプルの大きな手と力なら、人間の上半身を握り潰すことは造作もない。


 堀は突然、目の前の大佐を殺した。


 勢い良く握られた指の間から、ディムホルツの頭と両手が飛び出た。

 彼の下半身は衝撃で倒れ、サターントリプルの大きく太い足が、それを踏み潰す。



「第二期勇者の……息子の死は、スレイプーン王国側の掟だけじゃない。

 勇者鎧の実践データが取りたいマシニクル側でも容認されていたのだよ。私は……どちらも、許すつもりはない」



 堀中佐の行動は、緑昇達に味方するものでも、侵略の尖兵でもなかった。

 唖然とする拝聴者達に、血に濡れた勇者は静かな声で言う。



「私は今まで軍に忠を尽くしてきた。ただの人ではなく、命令に従う軍人に、冷たい機械に徹してきた。


 それは祖国を、そこに住む家族を守る為に最善のことだった。だがその息子が英雄として賞賛されず、モルモットでしかなかったなど、どうすれば許せる?」



 発せられる言葉は、愛する子を奪われた親の、恨みの台詞だと理解出来る。


 しかし、そこに内在する筈の感情が、声にも態度にも感じられなかった。


『怒り』の感情が抜け落ちていたのだ。



「サターンと契約して良かったよ。息子の死に気付いたとしても、軍人の私だったなら、冷酷でいられただろう。


 だが……『怒り』を燃料とする悪魔のお陰で、私は人に戻れた。怒りや恨みが止まらないのだよ。


 そしてその憤怒をサターンが食べてくれることで、私は冷徹な機械のまま、怒りを実行に移せる」



「貴方は……一体何をするつもりなんだ?」

 不気味な堀に面食らった緑昇の問い。



 答えは、周りから聞こえてきた悲鳴と銃声が代行した。

「初代勇者祝勝会の再現だよ。ディムホルツ大佐が用意していた無人兵器軍を、私が出撃させた。


 彼の私兵とシュディアー人を攻撃目標にしていてね。

 ダウヂバウナに積まれた残った輸送機も、各地方に自動操縦で飛んでいる頃だ。これでより多くのシュディアー人を殺せるだろう」



 堀はディムホルツらマシニクル政府の意向を、利用するつもりなのだ。


 ただし彼の目的は侵略や支配ではなく、抹殺である。

 憤怒の悪魔に焚べられた怒りは、もはや一組織を燃やしたところで消える炎ではない。



「さて、もはやこの世界で私を止められるのは、同じ勇者だけだと思うのだが、どうするかね?」


 その後、緑昇ら三人の勇者は、暴走した堀中佐と戦うも、圧倒的なサターントリプルの力に敗れる。



 しかしその窮地をディムホルツ側の怠惰の勇者に救われ、その彼を説得し、味方に引き入れた。


 四人となった勇者達は、暴走した機械生命体を駆除しながら、堀と何度も戦い、ついにクスター地方のアッシド火山に追い詰め、決戦に勝利するのであった。



 そして緑昇達はマシニクルと決別した。



 あまりにも身勝手な財団政府では、この世界に住み着いても、いずれ向こうの地球のように自然を滅ぼすだろうと。



 勇者達は結界門の遺跡を破壊し、一時的にスレイプーン王国の支配を握ることとなる。



 自分達の世界に関わったせいで捻じ曲げられた世を治し、各地に散らばった無人兵器を破壊する為である。


 無人兵器、マシニクルに生息していた機械生命体らは、各地で増え、いつしか人々から『魔物』と呼ばれるようになった。




「そして四度目の龍の襲来を、残った俺達で辛くも撃退したが……次も上手くいくとは限らない。


 そこで単独行動としていた俺に依頼が来た。例え強敵と言えど、国をまとめる三人の労力を借りるわけにはいかんのだ。だが幸い、勝ち目もないわけではない」



 腐敗した王政は消えたが、それでもこの国が立ち直るには、時間がかかる。


 今は戦友達と道を違えているが、緑昇も本心では力になりたいと思っている。


「次に敵が仕掛けるとしたら、この街だろう……。市民が人質になるかもしれない。ならば俺達は、敵より多くの市民を盾にして、勝つだけだ」

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