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第三幸その10「されど折れぬ愚者」

(アリギエ・教会近くの孤児院・エンディック達の部屋)




 エンディックは部屋の隅に有る机の椅子に座り、腕をある場所へかざしていた。

 そこには机の上に置かれている、こぶし大の大き目の石が有る。


 少年は右腕に赤い宝石の金の小手を付け、石に機力を送っていた。

 この偽物の富さえ有れば、複雑な錬金式を書かずとも、自動で式を小手内部で算出し、使用者はただ燃料である機力を流すだけで、錬金術の使用が可能となる。



「いける!」

 錬金術士の機力が、石という素材に完全に循環し、支配する。

 その移動する機力に削られるように、素材の材質が望むまま変化していき……石は表面だけ金色に変化した。



「また……かよ」

『やはり』実験は失敗である。

 金髪の少年が行おうとしたのは、石の破壊だったのだ。


 石の質を細かくし、ゆっくり砂に変える。ないし、ヒビでも入って割れる筈だった。


「石は壊れず、小手の『設計図通り』金に変化しやがった。

 これじゃいつも通りだ……。俺の想像より、小手の設計図が優先されたかよ」



 エンディックは錬金術が使えない。習っていないのだ。

 両親が居たときはまだ幼く、錬金術については、ライデッカーの持っていた蔵書の知識しかない。



 機力の使用法も、少年以外に使える者が居ないので、独学の技量でしかないのだ。


 その彼が高等な錬金術を使える理由は、両親の遺してくれた小手にある。


(俺が偽物の富に必要な燃料さえ与えれば、俺に仕組みが解らなくても、小手が自動で錬金術を成功させてくれる。


 だが金属なら応用で、繋げたり伸ばしたり出来るんだが、他の素材の錬金や、設計図の金への変換以外の技術は、上手くいかねぇ……。鉄なら無理やり形を変えられるが)



 これも少年にとっての不幸だ。

 エンディックは錬金術師の両親、加えて母は錬金術を人に伝えたとされる、エルヴ族という亜人種族なのだ。


 当然、その身に秘める才能は、機力世界の人間を優に超える、膨大な機力として発現している。


 だがその才能を伸ばす、錬金術の師匠が居なかったのだ。

「わ〜! 宝石ってやつ〜?」

「オニィチャン、コンナヘソクリモッテタノ?」


 いつの間に入って来たのか、スクラとコルレが横から覗いていた。

 結局エンディックはこの少年少女とキリーを含めた、孤児院の子供達と同室になっていたのだ。



 と言っても殆どエンディックは『外出』しているので、煩わしさに悩むことはなかった。


「あぁ……これは、手品だよ。ほら、見てろ」

 エンディックが機力の供給を止め、小手を外す間に、金に塗り替えられていた石に異変が。


 表面が砂のように崩れていき、色が元に戻っていく。

「すご〜い! お兄ちゃんなんかにこんな手品芸有るなんて!」

「ダイドウゲイノタビデモシテキタノ?」

「そうだな、手品だな……」


 己の口から出た単語に、得心がいった。『偽物の富』とは、偽物に塗り替える手品だったのだ。


 黄金騎士という役を演じていた、滑稽なピエロ。

 それがエンディック=ゴールという愚者の全容。


 勝てる筈もない仇を憎み、不完全な色で己を塗り隠し、そして今ではそのフィクションでさえ、現実の強者である緑昇に取られてしまった。



「ん? そういやキリーが居ねーな。いつも三人仲良くいたのによ」

「あの子はね、あたしたちより年上だから、学校に行ってるんだよー」

「あ〜、そいや義姉ちゃんがそんなこと言ってたな。教会の外に投げ込まれた金で、コルレは学校に通わせられるようになったって」



 エンディックは明後日の方を見ながら答え、思案する。

(学校か……俺はあーいう所には思い出ねーな……。故郷でも混血の俺は良い扱いされなかったしよ)


 部屋に近付く足音が聞こえ、開かれていた戸口からサーシャが顔を覗かせた。


「あ、いたいた。エンディック、ちょっと悪いけどお使い頼まれてくれる?

 買い忘れたのが有るのよいや、待って。やっぱり心配だわ……お使いの内容覚えるのに集中して、何も無い所で転んで骨折なんてしたら……やっぱりい」


「勝手に自己解決すんなよ……」

 エンディックはサーシャが持っていた買い物袋を受け取ると、街へ出かけた。




(ボウド商店街付近)




 エンディックは買い物を終え、帰路へ立つ途中で足を止めた。

 左に目を向けると、先は狭い路地で、人々が行き交う商店街の延長から続くそこは、日の当たらない静かな場所だろう。



「血の匂いかよ」

 エンディックが路地に近付くと、嗅覚がその先の危険を察知する。

 確かこの路地を進んで行けば、あまりよろしくない職業の方々の、住む地域へ繋がる筈。



「……ち」

 少年は少し迷い、すぐに家路を急いだ。


 孤児院に着き、荷を下ろした後、自室に行き、エンディックは己の荷を持ち出した。


 布に包んだ鉄棒と、彼の防具一式が詰まった麻袋だ。



 少年は走る。

 何かが、起こっているのだ。それを見極めなくては!

 だがその必然性を、彼はもう持っていなかった。



「く……!」

 エンディックは先程の路地に、足を踏み入れた所で止まった。

 輝きを剥がされた己に何が出来ると言うのか?と。


 それに黄金騎士がなぜ市街地ではなく、野外での活躍に留めていたのを忘れたか?と。


「確かめる……だけだ。いざとなればヴァユンで無理やり壁でも走るさ」

 黄金騎士と呼ばれる彼は、疑念を振り払い、暗き道を進み出した。

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