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第三幸その8「勇者達の過去と茶番」

(クスター地方・アリギエ)



 穏やかな昼頃。今日もまた、その平和の存在を問う、血しぶきと悲鳴が街を彩っていた。


 街の空へ跳躍し、街で一番高い対火災塔の壁にへばり付く、緑の影有り。


「少し居なかっただけで……これか。やはり人々の勇者を信じる心は、まだ足りてないと見える」



 緑昇だ。今はモレク=ゾルレバンの鎧を身に纏い、日課である殺人行為に明け暮れていた。


「人間は基本下等ですもの。反省も恐怖も、足りないのは記憶する知能ではなくて?」


 彼の右手甲に潜む声が、主の言葉に反応した。この声はモレクという悪魔の物。


 緑昇が勇者になってる間は、鎧を通じて力を外界に影響させるので、モレク自身の『映像』を映す必要はない。



「貴方様、本当にあの敵の娘を、生かしておいて良いんですの? 守る対象を増やして、不利になるのでは?」


 モレクの指摘に緑昇は、一切の不安は無しと断じる。

「守る予定など、元から無い。悪魔が彼女らへ手を伸ばすのであれば、俺はマヌケに伸ばしている後ろから、斬りかかるだけだ。


 それにリモネという女の内臓を拷問し、それを治療した際に魔言『CURSE』を使用しておいた。


 あの女が街から離れ、俺の魔力範囲から逃れそうになれば、それに反応して呪い殺せる」



 顔を隠す兜の奥で、その男は確かに口元を釣り上げていた。

「それに……口実が有るのであれば、越したことはない。この世界の問題は、ほとんどマシニクルから持ち込まれたのだから……」



 緑昇が想いを馳せたのは、第三次勇者部隊がこの世界に来た九年前。

 あの頃まだ若かった自分や同僚達は、自分達が英雄になると信じていた。



長年友好関係にあったシュディアーを、2つの世界の力を合わせた兵器で救う。

 そのハッピーエンドを信じていた。



 足りなかったのは、その後日談の想像である。

 戦いの主役たる勇者達が、『使い捨ての消耗品』とは、誰も信じていなかったのだ。





(王都ニューローズ郊外・カーテッツ遺跡)


 この場所には、4つの巨大な古い塔が、東西南北に離れて建っていた。

 中心に巨大な魔力円が有り、円の淵から発生した黒い闇が、天へと上り、壁となり、次第に円形となる。



 これは大規模の結界カーテンなのだ。

 この結界を使った移動手段や、この遺跡のことを、人は『結界門カーテンゲート』と呼んだ。



 そびえ立つ黒い結界を割いたのは、船。


 それは巨大な銃に翼やカタパルトを付け加えたような、空飛ぶ戦 艦だった。


 船の名は『ダウヂバウナ』と呼ばれ、世界を超えてやって来た、マシニクルの軍艦である。


 この船は勇者達の拠点であり、搭載された支援無人兵器軍が、龍との戦いを援護する予定だ。




「君は緊張しているようだね緑昇」


 艦内の窓から異界を見ていた緑昇に声をかけたのは、彼の師でもある堀 忠興ただおき中佐。



 勇者最年長の男で、先代の憤怒の勇者は彼の息子だった。その後、憤怒の鎧の適性の者が中々現れず、親族の堀中佐が自ら志願したのだ。



「心配することはない。今回の第三次龍討伐は勇者だけではなく、かなりの大規模戦力が随伴している。


 指令部はよっぽどマシニクルの力を見せつけたいらしいね。その戦力は龍打倒はおろか、シュディアーと一戦交えられる程の余剰な軍力だよ」




(九年前・王都ニューローズ・王宮庭の龍討伐祝賀会の会場)




「諸君、会食の合図の前に、教えてやりたいことがある」



 参加する勇者、非勇者の兵士や整備兵、王族と貴族の面々が集うその会合。


 その中央の席で王と共に談笑していた、勇者部隊の隊長のディムホルツ=ハイツ大佐が、唐突に声を上げたのだ。



「勇者召喚」



 ディムホルツの言葉に応じて、彼を包む黒い円柱。



 しばらくして、その結界を引き裂いたのは、黒い両手。


 中から現れたのは、ケンタウルスオオカブト虫に酷使したデザインの、赤い全身鎧だった。



 甲虫をモチーフにした装甲は、所々に角のような突起物の意匠が有る。特に兜には細長い角が生えており、角先端や中間から突起が有り、複雑な形を作っていた。


 目元のバイザーは白。そこに縦線状の穴が開いており、奥に青いカメラの光が見える。


 高慢の勇者『リバス=ルシフェラウザー』である。



「聞け。我々マシニクル人に運ばれた飲み物には、毒物が混入している。これはなぜだ? スレイプーン王よ?」



 そう言ったディムホルツは鋼鉄の腕で、驚く王の胸ぐらを掴み上げる。


 今のスレイプーン王は、代替わりしたばかりの若い王で、三十近い歳の肥えた男だった。

 突然の事態に慌てふためく彼は、威厳を保つ余裕がない。



「な、なな何のことだ? ど、毒だって? 異世界から遥々助けに来てくれたソナタ達を殺すなどあるはずが」



 発汗していた肌をさらに湿らせながら、掴み持ち上げられた現王は喚く。


 対するディムホルツの反応は、言葉より先に……空に出た。


 快晴に晴れた青空が、次第に曇っていく……。



「代わりに答えてやろう愚王よ。貴様らは勇者鎧のあるデメリットを隠していたのだよ」



 その話は、食事に参加していた緑昇や他の勇者達にとっても、驚くべき内容だった。




 この世界で『悪魔』と呼ばれる電子生命体を、勇者鎧は搭載している。


 悪魔だけが、技術銀行に保存された、最強の武器を呼び出す暗号を保有するそうだ。


 これは龍という敵は強固な魔力抵抗を持つので、魔力による強化を受けた重火器や光学兵器といった、機力攻撃が有効とされ、両方を用いる為に悪魔の動力補助を必須とするのだ。



 この悪魔達の協力を得るには、ある『代償取引』に応じなければならない。


 勇者達はそれぞれの契約相手の望む、負の感情や欲望を支払うのだ。

 それは食欲や性欲、収集欲と、悪魔によって異なる。


 例えば大食のモレクと契約した緑昇は、自身に生じる食欲を悪魔に与えると、己の空腹を自覚できなくなった。


 なのでモレクの捕食行為に応じて食事をしなければ、空腹を感じれず餓死してしまうのだ。




「この先を教えていなかったな王よ? この悪魔との取引を、勇者召喚を繰り返していけばいずれは『悪魔に乗っ取られる』という、デメリットが有ること!」



「ひぃぃい!」

 スレイプーン王が悲鳴を上げたのは、勇者の怒気のせいか? それとも空の向こうで唸り始めた雷音か?



「貴様らは我々を謀った! 悪魔への生贄にし、用途が済み次第始末してきたと、裏が取れているのだ。……国の代表として、申し開きをしてみよ。


 解答によっては、長きに渡る友好を焼き捨て、その火を持って、この国の未来を閉ざしてやるぞ」



 さらに会場の周りを囲むように、動きの気配。いつからか屋外会場周辺に、銃で武装した兵士達が配置されていた。彼らはディムホルツ大佐側の部下である。



 スレイプーン王は恐怖でたっぷり化粧し、眼下の高慢の勇者に白状した。


「お、王家の掟が有るのだぁ。もし封じられし勇者の力を用いれば、すぐに悪魔憑きを処分せよと……。

 た、確かにマシニクルには、悪いと思っているが、いや待て。そもそもそちらの財団連盟とは話がついて」



 落雷が落ちた。



 天より刻まれた光の線は、ルシフェラウザーの避雷針になっている兜の角へ繋がれ、その身を伝って、掴み上げたスレイプーン王を焼いた。



 激しい発光と悲鳴が続き、勇者は焼き豚となった死体を、近くのテーブルに投げ捨てる。


「もう鳴くな。『スレイプーン王国の』裏切りと敵対意思は、確かに受け取ってやったからな」



 突如テーブルに増えた料理に、会場のシュディアー人参加者は恐怖に慄く。


 逃げようとする彼らを、銃口で止めるマシニクルの兵。

 他の勇者達は呆然として、ディムホルツに注目するしかない。



「第三次勇者部隊の隊長、高慢の勇者ディムホルツより宣言してやろう。


 マシニクルは魔力世界からの宣戦布告に応え、異世界戦争を開始する!」




 茶番が終わった。


 ディムホルツは元々デメリットを知らされており、異世界救済ではなく、異世界侵略の任務を受けていたのだ。


 マシニクル財団政府は、十年前の第一次勇者達の不可解な死の報せを、全く信じてなかったのだ。


 当時、魔力世界側によれば、残った部隊の無人兵器の暴走事件により、七人の勇者が死亡したと伝えられていた。


 しかし政府はまだ異世界侵略の準備を終えていなかったことと、それに勇者鎧という超兵器の技術を自分達の兵器に利用したかった為、あえて黙認した。


 そして二度目の『実験』に成功した機力世界側は、第三次勇者部隊による遂行を決定。


 現地司令のディムホルツ大佐、堀中佐の隊にのみ、この事実を告げ、他の勇者には伏せていたのだ。


 現在マシニクルでの環境問題は星を捨てるか否か? まできており、財団政府は自然を取り戻すより、異世界の土地に移住する方が遥かに容易と考えていた。



 今回の侵略が完了次第、秘密裏に財団関係者だけが、先行して移住するつもりなのである。


 無論ここでは機力世界の法はなく、植民地にし、奴隷や人体実験、あらゆる非道徳がマシニクル側に許可される。


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