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『Excel《ログ》で恋が攻略できると信じていた俺は、全感情ヒロインたちに今日もデータを破壊される』〜“記録”が全ての理系男子が、初めて“恋”を知るまでの青春物語〜  作者: 犬神 匠
── 第二章 Lunaria ──

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第73話『最適解の――その先へ』

【5月23日(土)午後/PLAYX NODE TOKIWA・三階イベントフロア/越智《おち》隆之《たかゆき》】


『それでは――中四国エリア大会、決勝戦を開始します!』


実況の声に続いて、会場から大きな拍手が上がった。


ヘッドセットを装着し、正面のモニターを見る。

画面中央には、大型モニターで見た対戦カードが表示されていた。


【FINAL】


【たかちゃん VS Lunaria】


向かいの席へ目をやると、Lunariaはすでにヘッドセットを着け、対戦画面を見つめていた。


『決勝まで来なさい』


あの言葉どおり、俺はここまで勝ち上がってきた。

ここから先は――言葉より互いのプレイで確かめればいい。


モニターへ視線を戻すと、ちょうど対戦データが表示された。


【たかちゃん】


WORLD RANK:146

CLASS:魔導士

SPIRIT:ピカジョ


【Lunaria】


WORLD RANK:72

CLASS:月詠術師《ルナ・キャスター》

SPIRIT:もふラビ


月詠術師《ルナ・キャスター》。

月光系の攻撃魔法と、攻撃の発生位置や射線に干渉する空間魔法を得意とする高火力型の魔法職。

攻撃性能と制圧力が高い代わりに耐久力は低く、Lunariaがずっと使い続けているメインジョブでもある。


【FIELD SELECTING……】


高速で切り替わっていた背景が止まった。


【FIELD:忘却遺跡】


崩れた石柱と低い壁が点在する半開放型のフィールド。中央は広く、外周へ行くほど遮蔽物が増える。


射線は通りやすい。

だが、切る場所もある。


【BATTLE START】


『さあ――中四国エリアの頂点を決める、最後の戦いが始まりました!』


開始と同時に距離を取る。

Lunariaが杖を上げると、その先端へ淡い光が収束した。


《ルナ・レイ》。


杖の向きから射線を判断し、右へ切る。直後、白銀の光がさっきまでいた場所を貫き、背後の石柱へ直撃した。

轟音とともに石柱の一部が砕け、弾け飛んだ石片が視界を横切る。


『いきなり出ました! Lunaria選手の《ルナ・レイ》! 相変わらず凄まじい火力です!』


着弾を確認している暇はない。砕けた石柱の向こうでは、Lunariaがすでに次の動作へ移っている。


スキル発動後の硬直が短い。


――もふラビ。


Lunariaが登録している精霊獣。その補助効果は、スキル使用後のリカバリー時間をわずかに短縮するもの。

当然、その効果は把握している。

短縮される時間はわずか。それでもLunariaは、その差を無駄にせず次の一手へ繋げてくる。


間を置かず、Lunariaの左側の空間に魔法陣が展開された。


《ルナ・レイ》。


白銀の光が、魔法陣から一直線に放たれる。

杖先ではなく、左側の魔法陣からの射撃。発生位置をずらしてきた。


左斜め前から迫る白銀の光を後方へかわし、そのまま《メトリクス・シフト》を放つ。

魔法がLunariaを捉え、ステータス表示に【減速】が灯った。


動きが鈍ったところへ、杖を向けて光弾を二発放つ。一発目はかわされるが、続く二発目がLunariaを捉え、HPゲージを削った。


その直後、Lunariaの右側に新たな魔法陣が展開され、放たれた白銀の光が崩れた石柱の脇を抜けて飛び込んでくる。半歩遅れて身体を引くが、避けきれない。

咄嗟に杖を合わせる。


【PARRY】


白銀の光を弾くが、衝撃までは殺しきれずHPゲージが削られた。


(……防いでも、これか)


月詠術師は耐久力が低い。その代わり、一撃の火力では明らかに分が悪い。単純なダメージ交換を続ければ、先に落ちるのは俺になる。


『両者にダメージ! ですが、わずかにLunaria選手が上! たかちゃん選手、まともに受け続けるわけにはいきません!』


分かっている。

なら、受けなければいい。


Lunariaの動きを警戒しながら、近くの石壁の脇へ《サイレント・スタック》を仕込む。

設置を見ていたLunariaは迷うことなくその位置を避け、石壁の反対側へ回った。


(……これでいい)


何度も対戦している。

こちらが何をするか知っているのは、向こうも同じだ。

Lunariaが身を隠している石壁。その右端へ光弾を放ち、出てくる進路を塞ぐ。


反対側から石壁の陰を抜けてきたところへ、二発目の光弾を放つ。


Lunariaは咄嗟に杖を合わせ、光弾を弾いた。


【PARRY】


だが、衝撃までは防ぎきれず、HPゲージがわずかに削れる。


狙いどおりだ。

罠の位置を避けながら動く以上、取れる進路は限られる。どこへ動くか分かるなら、先にそこを狙えばいい。


さらに追撃を重ねようとしたところで、Lunariaが杖を振り、その周囲に複数の光点が浮かんだ。


《ルナ・カスケード》。


『出たぁ! Lunaria選手の大技! 七連撃の月光魔法、《ルナ・カスケード》!』


最初の光点が輝き、正面から月光が迫る。

右へかわした直後、今度はLunariaの左側に浮かぶ光点が輝き、二発目の月光が斜めから射線を通してくる。

身体を切り返して外し、続く三発目にはパリィを合わせる。


弾けた光の脇を抜け、低い石壁の陰へ滑り込む。


だが――Lunariaの頭上に浮かんだ光点から、こちらへ射線が向く。


「っ……」


四発目の月光が高い角度から降ってくる。


壁際から飛び出したが、完全には間に合わない。

月光を受け、HPゲージがさらに削られた。


続く五発目を崩れた石柱で遮り、六発目はそのまま外周へ走って射線から外れる。最後の七発目が進行方向を塞ぐように放たれ、足を止めて後方へ切り返した。


(光点はLunariaの周囲。こちらの移動に合わせて、次に撃つ位置を選んでいる)


仕組みは分かっている。発射後に射線が変わるわけじゃない。光点の位置を見極めれば、回避は可能だ。


《ルナ・カスケード》を撃ち終えたLunariaには、わずかな硬直が残っている。もふラビの補助でリカバリーが短縮されていても、その隙までは消せない。


石柱の脇から身を乗り出し、すかさず杖先から光弾を二発放つ。


一発目がLunariaを捉え、HPを大きく削った。続く二発目は、硬直から抜けたLunariaが身をひねってかわす。


『たかちゃん選手、取り返した! Lunaria選手は高火力ですが耐久力は低い! 一発の被弾が重い!』


ふと顔を上げると、向かいの席にいるLunariaと一瞬だけ目が合った。


何も言わない。

いつもならVC越しに、魔法を撃つたび何かしら余計な一言を挟んでくる。今日は静かだ。


その違いだけを頭の片隅へ残し、Lunariaの攻撃をかわしながら距離を詰める。

遠距離で撃ち合うだけでは、決定打にならない。こちらから圧力をかけ、Lunariaの動きを制限する。


《ルナ・グラビティ》の射程は把握している。踏み込みすぎないよう、慎重に間合いを測る。


だが、後退を続けていたLunariaが――足を止めた。

こちらへ大きく踏み込み、杖を地面へ向ける。


(……ここで使うのか)


即座に後退するが、Lunariaの足元から淡い光が円状に広がり、こちらへ迫ってくる。


《ルナ・グラビティ》。


逃げ切るより早く、光が俺の足元に届いた。

身体の動きが重くなる。


【鈍重】


Lunariaの杖先に、次の《ルナ・レイ》の光が集まっていく。


後退しようにも、足が思うように動かない。近くの崩れた石柱へ目を向けるが、この状態では間に合わない。


《ルナ・レイ》の発動と、【鈍重】が切れるまでの時間。ほとんど差がない。


――ピカジョ。


状態異常の効果時間をわずかに短縮する補助効果。

派手な効果じゃない。だが――今は、そのわずかな差で十分だ。


杖先の光が強まる。照準はまだこちらを捉えている。


【鈍重】の表示が消えた瞬間、崩れた石柱の陰へ飛び込む。


直後、《ルナ・レイ》が背後をかすめるように通過し、石柱の上部を吹き飛ばした。

砕けた石片が降る中、そのまま反対側から飛び出して光弾を返す。Lunariaが身をかわし、光弾がその脇を抜けた。


『かわしたぁ! たかちゃん選手もすかさず反撃! ギリギリの攻防が続きます!』


ほんのわずかな時間。

もふラビも、ピカジョも、補助できるのはそれだけだ。


その差をどう使うかで、結果は変わる。


* * *


互いに決定打を許さないまま、攻防が続く。


一撃の重さならLunaria。

対してこちらは攻撃を散らし、《サイレント・スタック》と《メトリクス・シフト》でLunariaの動きを制限しながら、できた隙に攻撃を重ねる。


Lunariaの《ルナ・レイ》が石柱を砕く。

崩れ落ちる破片を盾に射線を切り、その陰へ滑り込む。


一瞬、互いの視界が切れた。


《サイレント・スタック》。


崩れた石柱の脇へ罠を仕込み、そのまま反対側から《メトリクス・シフト》を放つ。

魔法がLunariaを捉えて【減速】が灯ったところへ光弾を重ねるが、身をひねってかわされた。


罠は仕込んだ。

使うのは、まだ先だ。


直後、Lunariaの周囲に複数の光点が浮かび上がる。


(……リキャストが戻ったか)


《ルナ・カスケード》。


一発目が正面から迫る。

外へかわしたところへ、Lunariaの左側に浮かぶ光点が輝き、二発目が斜めから射線を通してくる。低い石壁を越えてそれを外し、続く三発目には杖を合わせる。


【PARRY】


弾けた光の脇を抜け、そのまま中央側へ距離を取る。


次に撃つ光点は、こちらの動きに合わせて選ばれる。だが、発射後に射線が変わるわけじゃない。

見るべきは、次にどの光点が輝くか。


Lunariaもこちらの狙いを読んだのか、残る四つの光点を立て続けに輝かせる。

右、左上、正面。光る位置を確認するたびに進路を変え、射線を外していく。最後の七発目だけは崩れた石柱の陰へ滑り込み、白銀の月光を遮った。


『かわしたぁ!! 最後の七発目も回避成功! たかちゃん選手、怒濤の七連撃を凌ぎ切ったぁ!!』


石柱の陰から飛び出すと同時に光弾を二発返す。

一発目は身をかわして外され、続く二発目もLunariaの杖に弾かれた。


簡単には通らない。

だが、ここまでの攻防で得た情報はある。


《ルナ・レイ》の射線。《ルナ・カスケード》の発生位置。もふラビによって短縮されるリカバリー。そして、Lunaria自身の回避とパリィ。


一つずつ条件を整理していく。


NOISEとは違う。

Lunariaは、こちらに偽の答えを選ばせようとしているわけじゃない。少なくとも、今見えている動きに偽りはない。

なら――そこから次の行動を予測すればいい。


あえて石柱の陰から姿を見せると、Lunariaの右側に魔法陣が展開された。


《ルナ・レイ》。


射線を外しながら光弾を返す。

Lunariaが左へかわしたところへ《メトリクス・シフト》を重ねると、魔法がその身体を捉えた。


【減速】


動きが鈍ったLunariaへ光弾を放つ。

回避がわずかに遅れ、光弾がその身体を捉えた。


『入ったぁ! たかちゃん選手、Lunaria選手の動きを絞りながら攻撃を通していく!』


次の《ルナ・レイ》が放たれると、低い石壁の陰へ飛び込んで射線を切る。そのまま壁の端から身を乗り出し、Lunariaへ光弾を返した。


外周側へかわされたところへ、追撃の二発目をあえてその進行方向へ放つ。


Lunariaは足を止め、反対側へ切り返した。


その先には、崩れた石柱がある。

石柱の脇には――先ほど仕込んだ《サイレント・スタック》。


まだ距離がある。


Lunariaの右側へ光弾を放ち、回避方向を左へ限定する。さらに二発目を重ねると、Lunariaは石柱の手前まで後退した。


右には光弾。左には低い石壁。

迂回する経路もある。だが、移動距離と所要時間を考えれば、最短経路は限られる。


なら、選ぶのは――石柱の脇。


Lunariaがそちらへ切り返し、石柱の脇へ踏み込んだ。

その瞬間、足元に魔法陣が走った。


《サイレント・スタック》。


「……っ」


Lunariaの動きが止まる。


決勝が始まってから初めて、その表情がわずかに変わった。


俺の手の内は、NOISE戦ですでに見られている。

なら、この次に何をするかも知っているはずだ。


それでも――間に合う。


詠唱を開始する。


《アストラル・ノヴァ》。


杖先へ光が集まり、幾重もの魔法陣が展開していく。


LunariaのHPゲージは、すでに残り三割を切っている。月詠術師の耐久力も高くない。直撃すれば、HPを削り切れるはずだ。


――ここで勝負を決める。


魔法陣が輝きを増し、杖先へ光が収束していく。

その間にも、Lunariaの拘束時間は刻一刻と減っていた。


(……あと少し)


照準をLunariaに固定し、杖先へ収束していく光を見据える。


やがて魔法陣がひときわ強く輝き、詠唱が完了したのとほぼ同時に、Lunariaの拘束が解けた。


即座に回避へ移るLunaria。


だが――もう遅い。


杖先に凝縮された光を、一気に解き放った。


白い奔流が忘却遺跡を一直線に駆け抜け、崩れた石柱を白く照らしながらLunariaを呑み込んだ。


『直撃ぃぃぃ!! たかちゃん選手、《アストラル・ノヴァ》を通したぁぁぁ!!』


爆発した光が忘却遺跡の中央を覆う。


やがて光が薄れ、その向こうにLunariaのHPゲージが浮かび上がった。


赤いゲージが、ほんのわずかに残っている。


(……耐えたのか)


あと一撃。

通常攻撃でも削り切れる。


そのとき――Lunariaが杖を上げた。


足元に広がる魔法陣を見た瞬間、何をするつもりか分かった。


《ルナ・エクリプス》。


月詠術師《ルナ・キャスター》の専用フィールドスキル。

一定時間フィールドを書き換え、敵味方双方の魔法を封じる。リキャストは極端に長く、一試合で使えるのは事実上一度だけ。


過去のPvPでも何度か使われている。

効果も、発動時の挙動も把握している。


以前の対戦では、《ルナ・エクリプス》で魔法が封じられた直後、Lunariaが一気に間合いを詰めてきた。


杖による連続攻撃。


一撃目をかわし、二撃目を弾く。

三撃目も射程から外れた。


だが――最後の一撃への反応が、0.4秒遅れた。

回避が間に合わず、そのままHPを削り切られた。


目の前で、Lunariaの魔法陣が輝きを増す。


【FIELD OVERWRITE】


白銀の光がLunariaの足元から広がっていく。


【MAGIC SEALED】


『出たぁ! Lunaria選手の《ルナ・エクリプス》! フィールド上書き――両者の魔法が封じられたぁ!』


今回は遅れない。


表示を確認したときには、もう前へ出ていた。

Lunariaとの間にあるのは、崩れた石柱一本分ほどの距離。その脇を抜け、一気に間合いへ踏み込む。


Lunariaの残りHPなら、通常攻撃一発で落とせる。

通常のパリィでも、削りダメージは入る。

解除まで待てば、Lunariaにも時間を与えることになる。


なら、待つ理由はない。

魔法が使えない今、最も速いのは――杖による直接攻撃。


(――これが最適解だ)


振り抜いた杖へ、Lunariaが正確に自分の杖を重ねた。


【JUST PARRY】


乾いた衝突音が響き、こちらの杖が弾き返される。


ダメージ表示は――出ない。


Lunariaはその衝撃を受け流しながら、半歩右へずれた。


(……ジャスト?)


一度ならある。


すぐに踏み直し、今度は攻撃のタイミングをずらして二撃目を入れる。


だが、Lunariaの杖が再び軌道へ割り込んだ。


【JUST PARRY】


また、ダメージは入らない。


(……二回連続?)


『二連続JUST PARRY!! Lunaria選手、残りHPはあとわずか! 一発でも取り損ねれば終わるぞぉ!!』


なら、次はフェイントを挟む。


左から振ると見せかけて杖を止め、身体を回して右側から振り抜く。


今度こそ――。


だが、杖同士がぶつかる乾いた音が響いた。


【JUST PARRY】


(……これも取るのか)


『三連続ぅぅぅ!! フェイントまで見切ったぁ!!』


会場が大きくどよめいた。


Lunariaは弾いた勢いを利用して、低い石壁に沿うように半歩移動する。


ただ攻撃を凌いでいるだけじゃない。

そう感じたときには、もう次の一撃を繰り出していた。


正面へ回り込み、斜め上から杖を振り下ろす。


【JUST PARRY】


杖先が横へ逸らされ、攻撃が空を切る。


ダメージ表示は――出ない。


(……嘘だろ)


Lunariaは左へ半歩ずれ、石壁の端から中央広場へ出た。


パリィのたびに、立ち位置が変わっている。


(……何か狙ってるのか?)


魔法封印はまだ続いている。杖による攻撃は発動までが速く、残り時間を考えても、あと数回は仕掛けられる。


踏み込んで、もう一撃。


Lunariaの杖が、また正確に重なった。


【JUST PARRY】


五度目。


こちらの攻撃だけが弾かれ、LunariaのHPは一切減らない。


『五連続――!? ちょっと待ってください! Lunaria選手、これを全部JUST PARRYで凌いでいる!!』


会場のざわめきが、一気に大きくなる。


Lunariaはさらに中央へ下がった。


追いながら角度を変え、石柱側への退路を塞ぐように回り込む。


そして、杖を振り抜いた。


【JUST PARRY】


六度目の衝突音。


(……まさか)


『六連続!! 全部――全部弾くつもりかぁ!?』


その瞬間、気づいた。

Lunariaがパリィのたびに、少しずつ位置を変えていた理由。


今いるのは中央広場。周囲の石柱から距離があり、射線を遮るものもない。

ここなら、《ルナ・カスケード》を展開した瞬間から、複数方向へ射線を通せる。


そして――《ルナ・カスケード》のリキャストも、もう戻る。


(……最初から、これを狙ってたのか)


魔法封印が切れるまで、あとわずか。ここで退けばLunariaに次の攻撃を許すが、一発通せば勝負は決まる。


以前は、最後の一撃への反応が0.4秒遅れた。


今度は――俺が通す。


間合いへ踏み込み、杖を振る。だが、Lunariaの杖がまた正確に重なった。


【JUST PARRY】


(……あり得ない)


『七連続ぅぅぅ――!! 凌ぎ切ったぁぁぁ!!』


杖同士が激しくぶつかり、こちらの杖が大きく弾かれる。


Lunariaはその隙に後方へ下がり、距離を開いた。同時に、フィールドを覆っていた白銀の光が消えていく。


【MAGIC SEALED:解除】


遅れていない。判断も間違っていない。

残り時間も、読めていた。


それでもLunariaは、すべての攻撃を凌いだ。


しかも、防ぐだけで終わっていない。パリィのたびに位置を変え、魔法封印が解けるまでの時間を稼いでいた。


昔とは違う。

俺が遅れたんじゃない。


――時間を作られた。


Lunariaが顔を上げる。

決勝が始まってから、初めてその声が届いた。


「次は、ちゃんと避けてね? ――あたしの《ロジカルリンク》」


Lunariaを取り囲むように、複数の光点が浮かび上がる。


《ルナ・カスケード》。


その瞬間、一つの選択肢が頭をよぎった。


(生体スキルを使えば――)


画面から視線を外せば、目の前にはLunaria本人がいる。

呼吸。視線。マウスに添えた指先。


拾える情報はある。

そこから次の入力を予測できるかもしれない。


一瞬だけ考えた。だが、画面から目は逸らさなかった。


「ああ」


正攻法でいく。


正面の光点が輝き、一発目が放たれる。


右へかわすと、Lunariaの左側に浮かぶ光点が輝いた。

二発目が斜めから飛んでくる。


左へ切る。

月光が背後を抜けていく。


続いてLunariaの頭上に浮かぶ光点が輝き、高い角度から三発目が迫る。落ちてくる月光を横へかわし、そのまま中央から外周へ走る。


『一転してLunaria選手の猛攻だぁ!! たかちゃん選手、三発目もかわした! しかし攻撃が止まらない!!』


四発目はLunariaの右側。

光点が輝くのを見て一歩だけ戻ると、白銀の月光が目の前を横切り、砕けた石片を巻き上げた。


間を置かず左上の光点が輝く。

五発目の射線を見て前へ出ると、月光が背後の地面を白く染めた。


続く六発目は右側。


光点が輝いた瞬間には、もう身体を動かしている。

石柱の陰へ飛び込み、迫る月光を背後へ抜けさせた。


『まだ凌ぐ! Lunaria選手の《ルナ・カスケード》を、たかちゃん選手が――全部読み切るのか!?』


残るのは――あと一発。


石柱の陰から中央側へ戻りながら、Lunariaの周囲を見る。


正面は開いている。右には、今使った石柱。

次の射線を外すなら、左へ切ればいい。


最後に輝いたのは、Lunariaの左側に残っていた光点だった。


左へ切ろうとした、その瞬間。


(……違う)


狙っているのは、今いる場所じゃない。


左へ切った――その先だ。


ここまでの六発で、俺がどこへ避けるかを見ていた。七発目だけは、俺が次に選ぶ位置を予測して射線を定めている。


Lunariaの杖が振り下ろされ、七発目の月光が放たれた。


動きかけた身体を反射的に引き戻すが、すでに重心は左へ移っている。切り返すより早く、白銀の月光が迫ってきた。


避けるべき方向は分かった。

次に取るべき動きも分かっている。


――それでも、間に合わない。


白銀の月光が、視界いっぱいに迫る。


次の瞬間、凄まじい閃光が画面を覆った。

衝撃とともに視界が揺れ、すべてが白く染まる。


【HP:0】


一瞬遅れて、画面中央に結果が表示される。


【BATTLE END】


【WINNER:Lunaria】


それまで遠くなっていた会場の音が、一気に戻ってきた。


『決着――!! 中四国エリア大会、優勝はLunaria選手――!!』


歓声と拍手が重なる中、しばらく結果画面を見つめる。

LunariaのHPゲージは赤い。残っているのは、ほんのわずか。


あと一撃だった。


判断を間違えたわけじゃない。

見落とした情報があったわけでもない。


出せる答えは、出した。


それでも――届かなかった。


顔を上げると、向かいにいるLunariaもこちらを見ていた。

ほんの少しだけ、その口元が緩む。


「……やっぱり、たかちゃんは素直ね」


「負けた相手に言われると、褒められてる気がしないな」


「褒めてるわよ。ちゃんと正解を選んでくれたもの」


「……」


最後の七発目が頭をよぎる。


(……だから俺は負けたのか)


悔しくないわけじゃない。

むしろ、かなり悔しい。

それでも、不思議と目を逸らす気にはならなかった。


過去に負けたときとは違う。

あのとき届かなかった0.4秒には、今回は届いていたが――その先でまた、負けた。


最適解は、間違っていなかった。

ただ、Lunariaは俺の選択まで読んでいた。


そこまで見抜かれていたのなら、認めるしかない。


今日の勝者は――Lunariaだ。

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