2 聖女を欺く王太子の罠
リータは王太子の部下の騎士に教会に連れていかれた。
裏口に入ると、女が二人待っていた。
「王室の侍女長のファビオラです。こちらは侍女のダフネ。これからリータ聖女様のお着替えを手伝います」
控え室に入ると、ウエディングドレスが用意されていた。
リータは躊躇した。
――これを着るの? 結婚式だからウエディングドレスを着るのは当たり前ね。
でも、隣国のジェラルド王太子と結婚するなんて……
リータは首を振った。
でも、泡を吹いて倒れた女の子が目に浮かんだ。そのことを思うと、いてもたってもいられない。
「早く着替えさせて。とっとと結婚式を済ませましょう!」
リータは、ウエディングドレス姿で祭壇の前に現れた。
おおお──!
招待客から感嘆の声が上がった。
出席者は王族らしい人々だ。みんな感激して、リータ聖女様を崇めるように見つめていた。
隣国の聖女様。大陸唯一の聖女のお披露目だった。
神父の前で結婚の誓いをした。
ジェラルド王太子は当然だと言わんばかりの顔をしていた。その不遜な態度にリータは内心イラついた。
――女神様お許しください。愛してない彼を愛してると嘘をつきました。
リータ聖女様は、結婚式が終わるとウエディングドレス姿のまま隣の救護院に駆けつけた。
「結婚の約束は果たしました。開けてください!」
血相を変えたリータの迫力に押されて、ジェラルド王太子の部下は救護院の扉を開けた。
──すると。
救護院の中は空っぽだった。誰もいない。
患者の姿はどこにもなかった。
「えっ」
唖然とするリータ聖女様。
「みんなどこに行ったのです」
リータは扉を開けた男に聞いた。
「あそこです」
顎で示した先は、通りの向こうの酒場だった。
ウエディングドレス姿のリータは、酒場の中に入った。
あごひげを生やした男がエールを飲んでいた。
ゴク、ゴク、ゴク!
飲み干したジョッキをテーブルの上に置いた。
「プハー! やっぱ、ただ酒はうめーな」
「もっと飲め、もっと飲め!」
あちこちのテーブルから歓声が起こった。
顔をよく見ると、救護院のベッドにいた顔ばかりだ。男女とも陽気にはしゃいでいる。
泡を吹いて倒れた少女がケーキを頬張っていた。
ウエディングドレス姿のリータを見つけると、ニコッと笑って手を振った。
――なんだこれは? 疫病はどうなったのよ。
「伝染病は嘘だ。聖女様をこの国に呼び寄せる手段だった」
リータが振り返ると、ジェラルド王太子が立っていた。
「女神像の前で結婚式をあげた。君はもう僕のものだ」
そう言ったジェラルド王太子は、リータの手首を強く握った。
リータは悪寒が走った。
騙されたのだ。




