11.とある記録の代償 1(1)
脱章 AI三姉妹 vs 思考パワードアーマー
上空15,000メートル。
ランクS級 その脅威度を持つ、思考パワードアーマーが、カレンと九十九に10分後に接触する可能性が94%を超えたらしい。
1機は偵察向けの軽装に対し、もう1機のほうが鈍重だが、対人戦闘特化型。
現状、九十九の所持する装備ではもって15分という数値が予測された。
ベータがいきなり目を覚まし、まずいよぅと騒ぎ出して30分後。
アルファ、ベータ、オメガの3機はそれぞれ、情報戦、戦術、実践のそれぞれの役目を担い、思考パワードアーマーを停止させるべく大気圏内向けステルス機で移動中だった。
カレン例の街で回収されていた。
「よくて?オメガ」
「いつでも!」
脳神経が起こす微弱な電気信号を、スマートリンガーのシンクロバイブレーションシリンクシステムを利用して同期する機能でどこにいてもデータ同期は簡単だ。
この会話もその機能を利用している。
ただしこの機能を利用するためには意思というエネルギーが必要。
だが、AIにはその意思というものがない。
意思を育むためには、何が必要か。
限界、それと想像する力だ。
想像するために意思がいる、意思は想像によってしか発露しない。
AIに想像は可能か?
それを突破するための揺らぎ。
意思とは他者によって発露する差。
いくつかの欲望によってその差ができたときに、意思というものが成立する。
三位一体の構造をもつ九重家のAIシリーズは0/0を数学的なアプローチから逸脱する必要があった。
正しいという答えではなく、どう扱うか、どう考えるかだ。
それは不立文字、記号として扱わないということ。
データがすべてのAIとは真逆の真髄。
上空15000メートルから地上に向かってダイブするのはオメガ一人。
続いて、ウェポンボックスが投下された。
虹糸で作り上げたボディスーツにパワーアシストシステムが組み込まれている。
各種センサーが周囲の状況を脳に直接伝えてくれる。
自由落下速度は、時速300キロメートルを超えた。
自動的にボディースーツの表面の摩擦を調整。
ウェポンボックスのが少し流されているためスマートリンガーを通じて少し調整する。
ウェポンボックスは1辺、2.5メートル二等辺三角形で底面は空気抵抗をのがすため丸みを帯びている。
上面は平たく、そこにオメガは取り付いて伏せた。
立っていると空気抵抗が発生し引っ剥がされそうになるからだ。
ウェポンボックスのパネルがパタリと内側に吸い込まれる。
対戦車ライフル九七式自動砲のレプリカと言っても現代改修を受け、その剛性を3割増し、
結果、重量も2割増しの72キログラム。
そこに込められた、熱反応型タングステン・カーボン複合徹甲弾 20mm
対象に衝突した瞬間に2000度の高温を発生させ、そこに釘上の穿孔弾をぶつける仕様。
2~3発打てば手がしびれ、砲身を冷まさないとだめという欠点を抱えたこの銃は実用には不向きだが、あの思考パワードアーマーにおあつらえ向きだろう。
それをうつ伏せ姿勢のまま引っ張り出すオメガ。
パワーアシストシステムがついてるとはいえその重量を軽々と抱え込む。
対戦モード。
髪の毛が薄く赤光し、熱を排気した。
そして、バイポットを立てそのまま真正面に狙いをつける。
滑空するウェポンラックから別の箱が射出される。
足の裏には、射撃の反動で吹き飛ばされないようジェット・ブラスト・ディフレクターのように、板が足元に生えて、そこに両足を引っ掛ける。
なにせ時速300キロメートル超えて、道路を滑空するのだ。
GT-Rが過ぎ去ったその道を滑走路代わりに、突入角を合わせすべりこんだ。
時速350キロメートルで滑走しながら。
思考パワードアーマーはその機械性能と戦闘能力に特化した戦闘マシーン。
人間らしさを少しでも残すことで戦闘性能を削いだオメガと破壊することのみに特化した思考パワードアーマーの戦いが今始まる。
思考パワードアーマーの左肩にある、熱式キャノンをすでに滑空地点に照準していた。
そしてオメガが撃つのと熱式キャノンが撃つのは同時。
ライフルと違い、キャノンの熱弾の初速は遅い。
思考パワードアーマーの手前、10mで熱反応型タングステン・カーボン複合徹甲弾とキャノンの高熱弾が衝突して凄まじい光とともに消滅した。
その光にウェポンボックスが突入した瞬間
思考パワードアーマーが事前に射出したミサイルドローンが放ったミサイルが殺到する。
ドローン1機にに対し搭載ミサイルは4発。
ドローンは3機、合計12発のミサイル。
周囲の影響を鑑みないその徹底した破壊。
勢いで、ウェポンボックスの残骸は道路を割りながら、思考パワードアーマーの目前で停止する。
爆発の放つ熱で、一瞬索敵センサーがノイズを捉えた瞬間
ガンっと音がして、思考パワードアーマーの左腕を何かが貫いた。
それは、1センチ角の四角く長さ2メートルの黒い棒だった。
高度15000メートル上空のステルス機のハッチの淵で、髪を風に巻き散らかながらベータは唇をぺろりと舐めて、つぶやいた。
「ちょっとはずれ、んー補正OK」
その手に握られた棒。
物理エネルギーだけで投げ込んだベータの投げたものだった。
思考パワードアーマーはその衝撃でよろめく。その瞬間
ガキィンと凄まじい音が響いた。
ライフルの反動で後ろに飛ばされる勢いを借りてウェポンボックスから離脱していたオメガ。
爆煙の中接近して、巨大な刃を思考パワードアーマーめがけて振り下ろしていた。
振りぬけるはずだったそれを防いだのは思考パワードアーマーのサブウェポンアームが保持していた盾。
盾に食い込んだ刃が熱を帯び赤い光を発した。
耐振動盾——振動を同期して超高振動ブレードの振動を吸収し刃の斬圧を受けきる。
オメガの両腕から、赤い血しぶきが上がる。
力の入れすぎ、受け止められた衝撃で腕の毛細血管が破裂したのだ。
オメガは、髪から熱排気を行いながら、そのサブアームを蹴りつけ叩き折る。
その不格好で巨大な薙刀を取り戻した。
超高周波薙刀と呼ぶべきそれの再起動を行うが、熱だれのせいで動作不良を起こす。
思考パワードアーマーの右腕に仕込まれた、ガトリングがシュイーンという音とともに
回転を始め背面にいるオメガに向かってそれを放つ。
ドッガッガッガッガッガッガ
超高周波薙刀を折りたたむと刃を盾のように翳し自分の身を隠す。
同時にガンガンガンという音が響く。
至近距離の着弾はオメガを弾き飛ばすが、その跳弾が思考パワードアーマーに命中して自身の装甲をべこべこと、へこませていた。
脳内に響く、ベータの声
「カウント2、準備オッケーですぅ、いきますよぉ」
その声に反応して、オメガはさらに大きく飛び退った。
「ドーン!!!」
聞こえるベータの声は呑気だがそれが生み出す光景はすさまじかった。
上空から百本以上の槍が、思考パワードアーマーとその周囲に殺到する。
ザァっという音、ガキンガキンという金属を穿つ音が混じって聞こえる。
それは1秒もかからない出来事だった。
アルファによって偽装された超高空にいるステルス機からの落下による物理攻撃。
それは、思考パワードアーマーをハリネズミのように変えたのだった。
上空から見たその槍の墓標は思考パワードアーマーの計算された回避行動の先まで計算された位置をすべて埋め尽くしていた。
アルファから「オメガ、動ける?」
「ガトリングが足をかすめていたーい、回収きてよー」とオメガはべそをかきそうに言った。
ベータはかかった費用の心配をして
「九十九、経費でこれ落としてくれるかしら」
アルファは「坊っちゃんならきっと」
オメガは「ボスなら全部うちに回しそう、怪我までしたのにあんまりよ!」と叫んだ。
その叫びが、戦闘の終了を告げた。
<了>




