↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
0/0=1 | Null Pointer Memory=” ”  作者: 久破空是


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/50

8.とある記録の覚醒 (2)

2.しずか

 

 洞窟の入口に到着すると、勝手な行動は勘弁してくれとカレンに釘を差す。

 

 奥の方はやはり真っ暗で先が見えない。

 そしてかすかな潮の香り。

 俺は慎重に奥へと足を踏み入れた。


 よく目を凝らすと天井には大量のコウモリがぶら下がっているがこれはカレンには黙っておくことにした。

 ギャーギャー騒がれたら面倒だ。

 かすかに聞こえるざぁーざぁーという音はかなりゆっくりだ。

 俺はある確信をもって奥に進んでいく。

 

 いよいよ、外の明かりの届かないところまで到着する。

 こうなると俺でも中がどうなっているかわからない。

 鼻を摘まれてもわからないだろう、カレンの体温だけが伝わってくる。

 カレンは俺のジャケットを手で掴んでついてきているのだ。

 正直、すごい失敗したとえらく後悔する。

 

 シガレットケースからケミカルライトを取り出し(見えなくたってわかる)先っぽの方だけ親指で強く押すとケミカルライトが薄く発光した。

 一応説明しておくと、真ん中から折れば全体が光り、先っぽの方は部分発光が可能な構造なのだ。

 

 さらに進んでいくその通路は右に左に少しずつ曲がる絶妙な角度で外からの光を遮り、中からの音を遮っているようだ。

 少し進むと反対側はもう先が見えなくなっていた。


 そして、足元に白い結晶がまじり始めると潮の香りがいよいよ強くなる。

 少し覗き込み、人の気配は無いと判断すると、ケミカルライトを真ん中からひねった。

 

 その角を曲がった瞬間。

 

 壁一面のなにかに光が反射してその全貌が見渡せるようになる。

 足元には塩の結晶、まわりは塩の壁。

 波の音がはっきり聞こえ、空気が波に合わせて揺れているのを感じる。

 

 ふと、ジャケットの引っ張られる感覚が喪失する。

 カレンの緊張感はまだ伝わってくるのでそのままにした。

 

 少し進んだ先の岩場に見えるのは、寄せて返す波、それはどこかの海とつながった洞窟。

 ここは海蝕洞か。と思わず口に出してしまう。

 目がなれるというより、光が塩の結晶で乱反射して、徐々に光を増幅しているのか周囲は明るくなっていった。

 その幻想的で美しい光景に少し見入ってしまう。

 

 気を抜いたその一瞬、気配を感じさせずふらふらと近寄ってくるカレンを止めるためその体を引き寄せた。

 スマートリンガーから、ぴ、ぴ、ぴと微かな呼び出し音。

 その瞬間、俺はカレンを優しく突き離した。


 腰から蛇腹刀が引き抜かれる感覚、俺は舌打ちして洞窟の入口へバックダッシュしてカレンを見る。


 よろよろと後退するカレンから、鈴の音が聞こえる。

 それはスマートリンガーから聞こえてるのか、聴覚が感じているのか。

 ――リーン

 「主、は何者じゃ」

 ――リーン

 「ふむ、素晴らしい技を持っておるようじゃの」

 声はカレン、だが中身は完全に別物。

 ふらふらとこちらに歩み寄ってくる。

 その殺気、殺意、その無駄のない流れるような動き、俺がそれを移動してると理解できない。

 その動きに寒気さえ覚える。

 ――リーン

 「名を、名をおしえてたも」

 そう言いながら、俺の蛇腹刀を右手で弄びそこに視線を寄せ、眉をひそめる。

 ――リーン

 「ふむ、なるほど、これは面白い刀じゃの」

 そしてキーンと音がしてやがて聞こえなくなる。

 スイッチを押したのだ。

 恐るべき超高周波ブレード。

 猿の腕を難なく切り裂いたそれが今度は俺に牙を向く。

 

 その瞬間眼の前にカレンの顔。

 俺は刀で切り込むの間合いの外にいたはず。

 しかしその踏み込みの鋭さよ。

 腰が抜けたように咄嗟にしゃがみ込んでやりすごす。

 さっきまで俺の首が合ったところを必殺の刃が通り過ぎる。

 俺の髪がそれに数本もっていかれた。

 ――リーン

 「ほほ、そうじゃろう、当たらぬと思ったわ」

 「ま、待て、少し相談しよう」

 俺は慌てて口にした。当然無理な相談なのは承知だ。

 ――リーン――リーン

 そういって蛇腹刀をすーっと上段に引いていく。

 その美しさ。

 「ほう、ワッチを前にして喋れるとは、まぁいつもは喋る前に切ってしまうのじゃがな、ホホ」

 恐るべき技、そして最悪の殺人狂か。


 そう考えた瞬間、後ろから思いっきり蹴られて吹っ飛び無様に塩の床を舐める。

 いつ回り込んだかわからない。

 その痛みよりその動き、その驚きより先に退路を塞がれたことに愕然とする。


 スマートリンガーから聞こえるアルファの声。

 『お坊ちゃま、聞こえますか?、今夜の夕食はどうなさいますか?』

 それどころではないのだがな、俺はすでに言葉を発する余裕もなかった。

 …………

 『それでは要点だけお伝えします』

 『脱出ポイントをマーカーしました、それではごきげんよう』

 ピッと聞こえるのと、鈴の音が俺の脳を混乱させる。

 ーーリンッ

「わらわを前にその余裕」

 どうやら逆鱗に触れたらしい。

 殺意、殺気がカレンに収束する。

 ゆっくりこちらに足を踏み込む動作、その挙動があまりにも自然でそして挙措の美しさに見とれてしまう。

 その瞬間意識が止まる。だからこその一撃必殺、だからこその初見殺し。

 そして飛び込んできたその体をかわす……

 のではなくカレンの身体を抱きしめる。

 俺はあろうことか、どうでもいいことをその耳元で囁いた。

 「俺の名は九重九十九、あんたの名前を聞かせてくれないか」

 リンッ

 「静」と一言それはシズカと聞こえた。

 静は俺を突き放し大きく飛び退いた。

 ーーシャンッ

 「お・・おのれ何という破廉恥な」

 心の動揺が伝わってくる。

 俺は覚悟を決めた、逃げる手立てを思い浮かばない。

 微かな可能性を信じ、自分の目を閉じた。

 視界がすべてを支配するのであれば、もしかすると。

 

 そして、先程聞いた名を声に出して呼ぶ。

 「シズカ」

 ーーチャリン 鈴が地へ落ちる音が聞こえた。

 続いて、人が倒れる気配。


 恐る恐る目を開けると、そこにはカレンが横たわっていた。

 俺は用心しながら慌ててカレン?を抱き起こす。

 「……彼女を、怒らないであげて」

 カレンは薄く目を開け、それだけを伝えることが使命のような必死さで言うと、再び気を失う。

 俺はそっと彼女を地面へ寝かせそのキラキラ光る海を見た。

 

 鈴の音は消え去り、ざざぁ・・・・・ざざぁ・・・・・と打ち寄せる波の音だけが聞こえる。

 そして。

 ーー打ち寄せる波際をじっと見つめる。

 

 彼岸。

 あちらとこちらの境界。

 あるものは狭間という。

 あるものは、何かが繋がる場所。

 あるものは、誰かに、会える場所。

 そんな考えが無意識によぎった。


 「ふぅ……」

 息を吐きながら近くの岩場に腰をおろす。

 エナジーバーのカレー味を取り出して口へ運んだ。

 結構きつめの味のはずがあまり感じることはできなかった。

 

 一息ついて落ち着くと、今更になって静に蹴り飛ばされた背中がじんじんと痛み出してきた気がする。

 その痛みが生きてる証。

 やれやれだ。


 「あれれ……なんで私、こんなところで寝ているのかしら」

 目を覚ましたカレンが、不思議そうに周囲を見回している。

 そして、エナジーバーを食べる俺に気づくと目ざとく駆け寄ってきた。

 「あー! ズルい、私にも頂戴!」

 言うが早いか、彼女は俺の手からエナジーバーを素早く奪い取った。

 素早く、この俺から物を奪う、その状態に俺は少し驚いた。

「まて、ちゃんとしたのをやるからそれを返せ」

 そして俺は塩味を取り出し素直に渡してやる。

 カレンはニッコリ笑うと、奪うようにそれにかじりついた。

 カレンはモグモグと頬張りながら、改めて洞窟の中を見渡した。

 「なぁにここ、あの洞窟よね?」

 「いや、海だな」

 身も蓋もない返答に、俺たちは顔を見合わせて思わず吹き出したのだった。


 ——————

 集落へ戻ると、土産の塩の塊を渡す。

 そして、あの洞窟のことを伝えた。


 サクチルも徐々に体力を取り戻し始めており、意識が戻るなり俺に会いたがったという。

 仕方なく顔を見せることにした。

 サクチルは痩せこけた頬を恥ずかしそうに赤らめ、「Dios bo'otikディオス ボオティッ

 と呟いた。

 なんて返せばいいのか迷ったが、俺は静かに口を開く。

 「Mixba'alミシュバアル

 自分の声で、そう返した。

 うまく言葉のニュアンスまで伝わったかはわからない。

 だが想いはきっと伝わったはずだ。

 サクチルはニッコリと笑っていたのだから。

 

 俺は最後に、水の確保と塩の採取、そして忘れていた虫よけの方法をクチルと薬剤師に伝授した。

 虫よけ効果のある葉の種類を教えそれを燻して虫を寄せ付けないようにしろ、とだけ伝える。

 

 あとは彼らがなんとかするだろう。

 ここは彼らの世界であり、これからは彼らの人生なのだから。

 

 俺はテントに戻ると少し身なりを整え、装備の残りを確認する。

 シガレットケースの中のタバコはあと7本。

 その中には、焼夷弾、フラッシュバン、ケミカルライトがそれぞれ1本づつ。

 グロックのマガジンがあと3本とリストウィンチのボンベが残りひとつ……といったところか。

 気がかりなのは、虹糸のボディスーツだ。

 そろそろ効果が切れそうな頃合いだが、気にしてもしょうがないと俺は半ば諦めている。

 まぁ、なんとかなるだろう。

 

 ろ過チューブと煮沸シートは俺が試したの以外はすべて置いていくことにした。

 これまでのことをと思えば、それくらいのサービスはあってもいいのではないかと思う。


 そして忘れてはならないのがカレンだ。

 大事な商売の種でもある。

 静のことも気になるが、ひとまずは「俺たちの世界へ帰還する」という共通の目的のもと協力し合うことで合意を得ている。

 グロックを返せと言ったら。

「あれ気に入っちゃったからしばらく借りておくね」と言って手持ちのマガジンを1本むしり取った。


 集落を発つ際、カレンは涙ぐみながら女衆と固く握手を交わしていた。

「また来るからね!」

 などと挨拶まで添えている。

 どうやってここまで来たのかもわかっていないというのにどうやってまた来るつもりなのか。

 

 アルファは帰還ポイントを用意したと言っていた。

 それがどんな場所なのかはまだわからない。

 もっと根本的な疑問、このジャングルは一体何なのかもある。

 わからんことだらけだが、カレンを見つけ前進はしているのも事実だ。

 兎に角元の世界に帰還する、それだけが目的だ。

 

 ——俺たちは再び、あの過酷な森の中へと足を踏み入れたのだった。

<了>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。