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0/0=1 | Null Pointer Memory=” ”  作者: 久破空是


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8.とある記録の覚醒 (1)

1,interval

 集落に戻ると、クチルとリーダーに説明する。

 私もそれ使いたいというカレンを尻目にしっしと手振りで追い払う。

 すごい勢いで睨みつけてきた元気なことで結構だ。


 起こったことは簡単なので手短に。

 猿がいた。

 猿ならあちこちにいるというリーダーに、いや、この辺だと棒切で地面に簡易的な地図を書いた。

 リーダーは驚き、あそこに入ったのかと聞いてくる。

 クチルは横で黙って頷いていた。

「まぁな」

 そう言って、俺は猿のことを簡潔に話した。

 リーダーは目を見開き愕然とした様子だ。

 クチルはわなわなと震えだした、何か思うところがあるのだろう。

 あそこは、掟を破ったものにあそこを抜けさせ戻ってこれたものの罪を許す。

 という免罪の禁足地なのだそうだ。

 最近ではあまり使わないがちょっと前までは子ども叱るのに使っていたようだ。

 「そりゃ過酷だな……」と俺は思わずつぶやいてしまった。

 

 『まだ猿の生き残りがいるかもしれん、女子供は近づかないほうがいい』

 リーダーも、クチルも自分が生まれる前からのしきたりで足を踏み入れたことはなかったそうだ。

 『そうか……兎に角誰も近づかないように柵でも作るんだな』と伝えた。

 二人は顔を見合わせて頷いていた。

 あともう1つ

 『あの奥の洞窟は知っているのか?』

 二人は顔を見合わせて今度は首を傾げる。

 ふむ、俺はそれ以上何も聞かずその話は終わらせる。


 それから、どこか屋根のある場所をと所望したらリーダーのテントにつれていかれそうになる。

 そこが一番広いらしい。

 俺は首を横に振ると一番粗末なやつでいいと伝えた。

 あのリーダーのオバハンと同衾はちょっと……ねぇ。

 

 そしていい加減さすがの俺も疲れた。

 今日だけでも盛り沢山でもうたくさんだ。

 穴に落ちたり、崖から飛び降りたり、木から木に飛び移ったり。

 俺は心のなかで大きくため息を付いた。

 しかし、カレンを連れてとっとと退散したいのだが、どうやってここから帰るのか、それがさっぱりなのが問題だった。


 まぁ考えるのは少し休んでからにするべぇと、俺は集落の若い娘に案内されてその場所に向かった。

 あ、そうだ カレンの所為ですっかり忘れていた。

 ごそごそとポーチの中を探り、アルミ袋を取り出す。

 その表面には『ろ過ストロー』の文字と、大まかな説明書きが印字されていた。

 『これ一本で1ガロン分。池や雨水などの自然用水を本製品で吸引することで、即座に飲用水へと浄化します。※煮沸済みの水なら、もう少し長持ちします』

 ――とのことらしい。

 開封してみると、中には5本のストローと、3枚のシート、そして見覚えのないクッキーみたいなブロックがセットで格納されていた。

「このシート、何に使うんだ?」

 疑問に思ってシートの袋を確かめると文字はなく図解だけが描かれている。

 ふむ、燃料ブロックをシートのポケットに突っ込み、地面に掘った穴へ敷き詰めて水を注ぐ。

 あとは端っこについたヒモを引くだけで化学発熱し、5リットルほどの水を10分程度で沸騰させてくれるらしい。

 

 空を見るとどうやら夜が明けそうな雰囲気だ。

 少し休みたかったがもうひと仕事することにした。

 俺はテントにあったクチルの黒曜石の剣を借り、ザクザクと地面に穴を掘り進める。

 この集落一番の剣がまさかこんなことに使われるとは思いもしまい。

 

 お付きの少女は、心配そうな目で穴を掘る俺を見つめている。

 何か言いたげだったが、黙って見ている分には邪魔にもならないので放置しておいた。

 5分ほどで穴を掘り終えると耐熱シートを穴に被せ、麻酔針の原料となる植物の針を周囲に刺し込んでシートを固定する。

 そこへ、あのボウフラの湧いていた水瓶の水を流し込み、シートの紐を引っ張った。

 『シュー』という音とともに、水がぶくぶくと勢いよく沸騰を始める。

 いい感じだ。少し温度が下がるのを待つ間に、別の瓶にろ過ストローを突っ込んで恐る恐る吸い上げてみた。

 口の中に広がるのは、いたって普通の軟水の味だ。一口含んだまま少し様子を見てから、喉へと飲み込む。

 ――刺激もなし、と。

 少女に予備のストローを渡し、『こうやって吸うんだ』とジェスチャーで見せてやる。

 おずおずと試す彼女を横目に、俺は少し冷めたお湯にハンカチを浸し、顔の汚れを拭い去った。

「あぁ、文明人最高……」

 染み渡る温もりに、思わず口から本音がこぼれ落ちた。

 

 少女はストローから口を離してこちらをじっと見ている。

 俺はやれやれという気持ちで、ハンカチをさらにお湯に浸して絞り彼女に渡す。

 彼女は俺のやったように自分の顔を拭うと、目を恍惚にしてハンカチを握りしめた。


 「同じようにサクチルの体を拭いてやれ」とスマートリンガーを通して伝える。

 彼女は何度も頷いてテントへ戻っていった。

 

 やれやれとため息をつき、その場にへたり込むとそのまままどろみに落ちた。

 古武術の呼吸法と、ヨガの精神集中を組み合わせた特殊な疲労回復法。

 幼少の頃まだあまり人間味のなかったオメガに叩き込まれたことを思い出す。

 

 10分ほどして目を覚める。

 精神的な疲労感以外はバッチリだ。

 だが精神的なものは結構重要なのだが、この際贅沢は言えない。

 

 カレンがこちらへやってくるのが見える。

 少し眠ったのか心なしか足取りは軽い……なんてもんじゃなかった。

 ものすごい勢いでこちらにやってくる。

 

 湯気の上がるお湯を見てから俺を無言で睨む。

 「お前があの時飛びださなければ、用意しようと思ってたんだ」

 なぜ言い訳してるかわからず言い訳のような言葉になってしまう。

 ま、お前のためじゃないがな。と俺の心の安寧のために心のなかで補足した。


 カレンはまた全力で自分のテントに戻りまた戻ってくる。

 手には大きめのタオル。

 その場で身体を拭こうとして俺を睨むと、タオルをお湯に浸してから軽く絞ってテントに駆け込んだ。

 忙しいやつだ。


 そんなくだらない茶番に付き合っていると、クチルがこっちにやってきて食事を用意したと言った。

 「いやお前の住んでたところだともっといいものがあるかもしれないが」

 といって遠慮がちに俺を誘った。

 その気持ちを無下にすることはできない。

 俺は彼についていくことにした。

 

 目の前に並ぶ料理たちは原始的ではあるが人が作った温もりというものが確かに感じられる。

 俺の世界では、合成品やらAIが作ったやらでそういう考え方はなかったのを思い出す。


 まぁ、食材の内容は言わずもがなだが。

 焼いたヘビの肉は鶏肉と魚に近いが、より淡泊でサッパリしていて、そこにスパイス効いていた。

 それが食欲をそそり意外にもいける。

 眼の前の深めの木の器には赤い液体が湯気を上げている。

 果汁と――これは血だろうか?――を混ぜて煮込んだらしいスープには見知らぬキノコが入っていた。

 一口すすると、カッと喉の奥へ広がるアルコールのような熱い感覚とキノコの独特な歯ごたえ。悪くない。

 きっとこれが、彼らなりの塩分補給でそして多分高級品だろう。


 俺は失礼にならない程度に料理を腹に収めると、クチルへ「あの洞窟へ一緒に行かないか」と誘ってみた。

 彼はすっと目を見開き、その精悍な顔に一瞬だけ喜色を浮かべたが、すぐに首を横に振った。

 集落の守りがあり、狩りがある――のだと。

 ここの連中は、今日を生き抜くために生きているのだ。


 「そうかい」

 短くそれだけ返すと彼に向かって言った。

 「もし俺が戻らなかったら、カレンを頼む」

 というと今度は彼が俺にこう言った。

 「いや、その心配はないと思うぞ」

 俺は肩をすくめて、自分の装備を置いてあるテントへと向うのだった。

 

 そこに行く途中でカレンがやってきた。

 「あの洞窟に行くんでしょ?私も行く」

 今度は、有無を言わさないつもりのようだ。

 「ついて来るのは好きにするといいが……」

 またあの時のように途中で逃げ出されては堪らない。俺は言葉を続けた。

 「その……なんだ。香水と化粧はダメだ」

 かすかに鼻をくすぐる、このジャングルには存在しない甘い匂い。

 野生動物というのは異物、特に不自然な匂いには敏感なのだ。

 あぁそうだ、ついでにあの手帳を渡す。

 「ちょっとまってて」といって自分のテントに向かう。

 ちらりと振り向いて、「絶対先にいかないでよ。絶対だからね!」

 というと自分のテントに向かって走っていった。

 <続>

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