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7.とある記録と落下 (5)

5.集落

 リーダーの話を聞くところによればこの集落の子供が最近、高熱に侵され次々と倒れていったそうだ。

 薬草や祈祷師やいろいろ手を尽くしたが首尾は芳しくなかった。

 いよいよ生贄を捧げるところにこのお嬢さんが転がり込んできて、コレ幸いと唐揚げにするところだったらしい。


 俺はカレンに説明したら睨まれた。

 どうやら唐揚げがお気に召さなかったらしい。

 

 症状を見せてもらうため子供のところに連れて行けと言ったらあっさりと許され、ついでにカレンの靴と荷物も返してもらう。


 カレンについてくるか尋ねたら、もちろんとのことらしい。

 未知のウイルスかもしれんとか気にしないのかねこの子は。

 と少し心配になった。

 まぁここまできて、蚊帳の外は可哀想だと連れていくことにした。

 

 痩けた頬、虚な目。

 聞くところによると、食べたものは全部吐き出してしまってるらしい。

 

 心配そうに覗き込むのは吹き矢の男。

 名をクチルという、このふせっている娘はその男の娘らしい。

 名をサクチルというそうな。

 

 俺は水は?と尋ねると、クチルは奥の水瓶を指差す。

 飲み水は?と尋ね直した。

 長いこと雨が降らす、今はそれだけだと言われる。


 水瓶の中の水は濁っており、ボウフラのようなものまで集っていた。

 俺はため息をついてシガレットケースからエナジーバーを取り出す。

 チョコ味がよかろうと思いとりあえずミネラルウォータの部分を少女の口元でキュッとつまむ。

 

 ポタポタとミネラルウォータが口に滑り込んでいくと、少女は目を見開き俺の指にかじりつこうとした。

 おれはそのままミネラルウォータのゼリーを口の中にほりこんだ。

 「Ma’ ts’ook; k’axaj」とサクチルに言う。

 俺の目をじっと見て、飲み込もうとするのをやめた。

 「よし、いい子だ」は現代語で口に出た。

 カレンは「なんて言ったの?」と興味津々だが、あぁ飲み込まずに噛めと言ったんだ。


 そして俺は「マラリアだな、俺の持ってる薬では治せん。」

 とカレンに簡潔に伝える。

 

 カレンはそんなの何十年が前に撲滅出来たはずと喚いているが、ここでは何の慰めにもならない。

 現にここで発生しているのだ、そして今のこの場所の衛生レベルだとほぼ助からない。

 カレンは何とか助けられないの?と聞いてくるが、唐揚げになるか?と聞いたら黙りこくった。

 

 サクチルは目を閉じて眠り始めるのを確認し、俺はクチルを連れリーダーの元へ向かう。


 簡潔に状況を伝える、片言で…。

 水悪い、虫悪い。

 若い、耐えられない。

 時間がかかる。

 治らないわけではない。

 スマートリンガーの自動翻訳はあれはあれで疲れるのだ。

 

 リーダーは頭を抱え、おいおい泣き始める。

 どうやら、このリーダー女らしい。


 俺はどうするべか、と考えていると、カレンが話しかけてくる。

「そういえば名前、聞いてなかったわね」

「クチルとサクチルか?」

 と俺はとぼけて言った。

「ち、違うわよ、君の名前!」

 カレンは悪びれもせず聞いてくる。

「……」

 あっと言う顔をして「私は、相馬カレン、知ってるかもしれないけど」

「九重だ」

「ファミリーネーム?ファーストネーム?」

「九重九十九だ」

「じゃ、九十九君ね」

 馴れ馴れしい女だ。

「お父さんに頼まれたって?」

「そうだ。」

「ふーん、あの親父がね」

 どうやら馬が合わないらしいが、正直に言おう。

「興味がない、話はそれだけか?」

「何よ、冷たいじゃないのさ」

 写真で見た、清純さの欠片もない。

「で、どうするのよ?」

「水と塩がない。」

「ふーん」

「私もあれちょうだい、ほとんど何も食べてないのよ、お腹すいちゃった」

 俺はカレンを睨みつけた。

「もしかして、女嫌い?」


 俺はワナワナと震えながら「うるさいな」と言った。

「ひ、久しぶりに喋ったのよ、こ、言葉を忘れるんじゃないかと思ったわ。」

 ふむ仕方ない。

「ここにどれくらいいたんだ?」

「い、一週間くらいよ」

 と答えると、急に顔を真っ赤にし涙目になって走り去っていく。

 「おい、あまり遠くに行くな、蛇やジャガーに噛まれても知らんぞ」

 九十四時間前、約四日、1.5倍の速度だ。

 なるほど計算は合う。

 カレンの後ろ姿が森の奥へと消えるのを見送った。

 俺は顰めっ面をしてめんどくさいなぁなどと思っいながら、いくつかクチルと会話してるとカレンの悲鳴が響き渡る。

 それと景気の良い銃声、俺は無駄撃ちするなと叫びそうになる。

 俺はそれより、ニノマガタマが心配になった。

 

 俺は、ちらりとクチルの顔を見るとその首を左右に振る。

 わからんらしい。

 あの足取りだとそんなに遠くには行ってないはず。


 しばらく走っていると、微かな潮の香り…

 深く濃い茂みにぽっかりと空いて星空に照らされた穴が見えた。


 俺を追跡してくる、クチルに手で止まれと合図する。

 あっちには何があるとクチルに聞くと、禁足地だという回答が帰ってきた。

 昔からその茂みから先は侵入したものが戻ってこないので立入禁止になっていたそうだ。

 集落から1kmも離れていない、これを見落とすとは思えないが。

 そして、鋭い殺気。

 よく目を凝らすと人の子どもに似た影があちこちに見えた。

 ただし異様にデカいが、その容姿から。霊長類で人間に一番近い知性を持ってると言われる猿、チンパンジーか。

 縄張り意識が強く集団性もある。

 あいつらは自分より大きな相手でも容赦なく集団で攻撃してくる。

 異常に気が立っている。

 たぶんカレンの放った銃のせいだろう。

 威嚇するように周囲を警戒していて、とてもじゃないが近寄るのは難しそうだ。

 まぁカレンなら警戒心もあるし、しばらくは大丈夫だろうと考えることにした。

<続>

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