6.とある記録の地下世界(6)
6.入り口の入り口
事前のリサーチによるとこの雑居ビルは元貴族が隠し財産を保管するために建てたものだが、転売が5回ほど繰り返されている。
その中間に挟まった会社は倒産していたり名前が変わっていたりでしているため、そう簡単に特定することができないようにはなっていた。
貴族ってのはそういうところは妙に無頓着ような気がしていたが、他にダミーで3つもビルを建てていたところを見るとあまり貴族らしくない。
ここはその中でも誰も利用しておらず不動産屋に売りに出されていた物件だった。
その不動産屋に下見するから通電させておくように依頼してある。
その時不動産やが立会する時間を取り決めていたが、予定より半日ほど早くここにいる。
なぜならここで人知れず調べたいことがあったからだ。
通電の確認もかねて電子ロックの解除はオメガにやらせたのは言うまでもない。
一応物理キーの鍵穴があるので、針金とヘアピンでなんとかすることもできるがちょっと目立つ上に少し時間がかかる。
ハッキングであればお茶の子さいさいなのである。
ビルの中はしばらく誰も開けてなかったのか淀んで乾いた空気が漂っていた。
少し吸い込むのにし勇気がいりそうでビルを買うならマイナスポイントだった。
するとカレンはどこから侵入したのか、と言う疑問は湧く。
わからんもんは気にしてもしょうがないと思い奥へと進むことにした。
まだ昼過ぎなのだが窓からは申し訳程度には明かりしか差しこんでいるので暗いというほどではなかった。
淀んだ空気のせいか埃のせいか霞がかかって見通しは悪い。
俺の感覚だとビル内に気配はないのでそのままスタスタと奥に進んでいく。
非常口からエントランスまで抜ける廊下の途中に開けっ放しのドアがある。
その中を覗くと。中身のない大量のペットボトルや酒瓶、雑誌、カップ麺の容器やら使い捨ての弁当箱やら食い散らかした後が見える。
浮浪者でも入り込んでいたのだろうか。
さらにちょっと進んだ先でビル管理室と書かれた鉄の扉を見つけその前まで移動する。
扉に手書きの張り紙で関係者以外立入禁止と書いてある。
そのビル管理室のドアノブに手をかけてゆっくり回した、鍵はかかっていない。
そのままそっとドアを開け覗き込んだが、中は本当の闇だった。
ドアの隙間灯りを頼りに足元になにもないことを確認。
真っ暗なビル管理室に滑るように侵入する。
俺はポケットのシガレットケースから紙巻きタバコに模したケミカルライトを1本取り出してぱきっと折り曲げるとそのケミカルライトが発光する。
周囲が見えはじめ、オメガの影が廊下側の壁に張り付いていた。
幅12メートルx奥行き5メートルほどの細長い部屋。
しばらく誰も入ってなかったのか、埃が積もっていた。
扉を開けた影響で部屋中のに埃が舞っている
ケミカルライトの白い光に反射して中は粒子のあらい霧が出ているような状態で俺は眉をしかめた。
目を凝らすと正面の壁に分電盤と無停電装置。
奥にロッカーが並んでいる。
左手には液晶モニターが壁一面に6箇所備え付けられるようになってたようだ。
4枚ほどなかった。
真ん中には、スチールデスクとオフィスチェアがいくつかある。
足元にはヘルメットやら、画面の割れた端末が散らばっている。
奥に進もうとするとオメガがどこから取り出したのか、防じんマスクを俺に手渡してきた。
有毒ガスなんかと違いと違い、無害な埃は咳き込むだけで体内に入っても自浄することがない。
まぁ吸わないに越したことはないので黙って受け取りかぶる。
視界は少し狭くなるが、ま・・問題ないだろう。
俺は端末やヘルメットを踏まないように、デスクと壁の間をゆっくり歩いたが、その度埃が舞うが構やしない。
床に積もった埃に足跡を残しながら、俺は無停電装置の前まで来た。
前面のパネルにはメーカーロゴがちゃんとついており、電源ボタンに、ブレーカースイッチ、状態を表示するだろう液晶モニタを見る。
電源が来ていないことを確認した。
その無停電装置を手をつき壁に向けて無造作に押す。
無停電装置は高さ190cmで幅が130cmほど重さ1000kg近くあるだろう。
普通に手で押して動くものではない・・にもかかわらず
無停電装置が壁にめり込んでいく。
フロア図にものっていない、不動産屋も知らない空間ががそこにあることを俺は知っていたのだ。
50cmほど壁に埋まったところで無停電装置はそれ以上押してもそれ以上奥に行かなくなった。
カチッとかすかな音がして今度は勝手に壁に吸い込まれていくのを俺は無感動に見ていた。
ちょうど壁にすっぽり収まる。
そして今度は下に埋もれていき、短い廊下の先に下へと階段が見えた。
俺はオメガを振り返ると、ある一点を見つめ動かなかったのでそのまま放置しその下り階段を降りていった。
無停電装置の幅と同じ幅の階段はまっすぐ伸びており、どう考えてもビルの敷地外まで伸びてるようだった。
階段の先にうっすら光が見える。
そのコンクリートで囲まれた階段をゆっくり下っていく。
途中で折り返しもなく結局まっすぐ続く階段はだいたい直線距離で150mは下っただろう。
光の漏れているのが扉と分かった時にはたっぷり20分かかっていた。
無骨なスチール製の扉とちょうど顔の高さにすりガラスがははめ込まれてそこから光が漏れていて中が明るいことが分かる。
まるで何かの事務所の扉のようだ。
俺は内開きの右側に立つとそっと扉を開けた。
ポーチから小さなビー玉サイズのボールを取り出しゆっくり部屋の中に転がす。
右手の腕時計から軽い振動が伝わると、腕時計を少し振り翳して眼の前に持ってくる。
空気中にスクリーンが表示される。
中の見取り図、火器の有無、人の有無などが表示されて行く。
センサーに反応するものはなにもなし。
俺はさらに操作するとビー玉についたカメラが内部の様子を映しだした。
なにもなし。
よく見ると少し小さめの足跡が埃の上に迷うことなく奥に続いていた。
その先に西洋甲冑の頭が転がっていた。
ただその足跡は西洋甲冑のものとは思えない。まずサイズと形が違う。
その足跡はスニーカーのものだった。
俺は大人しく、考えてもわからないものはしょうがない、よろしく扉をくぐって中に侵入する。
いくつかの陳列ショーケースの中に大小さまざまなアクセサリーが並べられていた。
ショーケースの数の割には中身が少ないように感じる。
盗まれたのではなく持ち主が持ち出した結果だろうと思った。
それ以上それらには興味を示さず、スニーカーの足跡の前まで移動した。
2体の甲冑が、下半身のみつったっていて、上半身は足元にバラバラに散らばっている。
埃の被り具合かはつい最近破壊されたように見えた。
俺はその甲冑の間にあるリングホルダー。
指輪がそこにあったことが容易にわかるが、当の主人、指輪は存在しなかった。
スニーカーの持ち主に持ち去られたのだろうか。
それはカレンが貴族管理員から派遣された理由、とある貴族が血統を証明するアイテム、黄金郷の指輪が飾られていたはずである。
それを確認回収することがカレンのバイトの内容だ。
俺は何も触れることもなくその場から離れようとして、軽く違和感を覚えた。
今いる位置がさっきまでいた場所と違う。
空気の匂いに埃っぽさがなくなり、肌に感じる空気が乾いたように感じる。
先程まで空調が回っていたはずだが……。
俺は、ふむと首を傾げてみたが、かしげたところで状況が変わるわけもなかった。
そして腕時計を振るって座標を表示させる。
その数値が文字化けしていた。
慌てず自分の船へ信号を送るが応答なし。
どうやら俺は迷子になったらしい。
さっさと入ってきたドアに向かう。
入り込んだ時にギリギリのスペースで締め切らなかったドアが今はかっちりしまっていた。
ただドアについたすりガラスの窓ガラスは割れ外の様子が見え、悄然となった。
どうみても土の壁だ。
俺は気が付かないうちに部屋ごと生き埋めにされたらしい。
シガレットケースからダミーの葉巻を一本くわえ、空いた手でナイフとライターを取りだすと葉巻の先端を切り取りライターをで火をつける。
肺に吸い込まないように葉巻を吸いフーッと吐き出した。
煙がこの密室で風も感じられないのに流れ出すのがみて取れる。
俺が慌てなかったのは酸素がまだあること。
そのためには空気が流れている必要があるからだ。
その流れを追い求めると散乱した甲冑の下に四角い切れ目があるのを発見する。
こんこんと切れ目の真ん中を叩くとそこだけ軽い音に変わる。
俺はさっきのナイフをその切れ目に突き立てようとナイフを振り下ろした瞬間、足だけの甲冑が倒れてくる。
俺はそれをかわそうと空いてる方へダイブするが、ダイブした先の壁も床もぽっかりなくなっていることに気づく。
おれは緩やかな滑り台のようなものに頭から突っ込んでいた。
滑りながらなんとか足から着地できる体勢まで立て直すとそのまま流れに身を任せた。
いやそうするほかなかったと言うのが正しいわけだが。
それから3分、摩擦で服が破ける心配はない。
ないが気分的に摩擦の火傷を心配するくらいに感じた時に、スライダーから放り出された。
多分時速80キロは出ていただろうが慣性に抵抗せず地面に叩きつけられないよう受け身を取り着地する。
よくある走ってる車から飛び降りるあれだ。
ふぅっと一息ついて立ち上がる。
危険はない、俺の直感がそう言ってるのだから問題無い。
手に持ってたナイフは滑りながらポーチに仕舞い込んでるくらいの余裕はあった。
ビバ、貧乏性。
俺は立ち上がりながら念のため装備確認。
ふむ、問題はなし。
耳元で唸ってた風鳴りを払うように、軽く頭を振ってそうしてようやく周囲を見渡す。
向こうからうっすら明かりが見える。
それに目が慣れてくる。
体感で気温は二十度くらい。
湿度は高め、周囲を見渡すとかなり広い。
足元は湿った土。草木の類、こけすらも蒸してない。
壁は岩肌、人工物も見えない。どうやらここは洞窟のようだ。
そう表現しかできないくらいに何もない広めの空間だった。
さっき見えた明かりの方、南の方を向くと、とはいえ別に方角がわかってたわけではないが。
俺の方向感覚が狂うくらいにはよくわからない状況だった。
ガキの頃宇宙服を着せられ姿勢制御装置だけ渡された状態でほうりだされたことがある。
まぁ正確にに投げ出された場所まで辿り着くと言う方向感覚の持ち主だ。
今回ばかりは自信がない。
時空が歪んでるのかもしれない。
上から落ちたことだけしかわからない状態だった。
俺は薄暗闇の中光差す方向へ歩き出す、危険はないのかって?
では聞こうこの状態で何をすればいいと思う?
しばらく、おおよそ30分くらい歩き続けると靴の底が柔らかくなる。
またしばらくするとグジュグジュとコケやら虫やら生命の息吹を感じる
さらに、空気の湿り気が増していく、体感温度が上がる、ついでに不快感も。
匂いに水と土の香りが混じり始める、雨が降ったときの山で感じるあれだ。
俺は光の先に何があるか想像してみたが、さすがにと思い、それでもただただ出口に向かって進んだ。
ようやく出口というより、
小学生が通れるほどの隙間から漏れる光が見えて少し気が楽になった。
地下なのに光が見えるが気にならなくなる。
このグジュグジュの足元から抜け出せるなら光のある外はきっとまだマシに違いない。
俺は隙間から外を覗く、急な光で目がやられないように気をつけながら。
そこには、青い空が広がり太陽の光、剥き出しの岩の足場が見えた。
俺は一息つくと、壁に蒸した苔をナイフで削る。
硬い壁が50センチ四方に見えると手を止めた。
その壁を軽く蹴って飛び上がると光の隙間目掛けて三角蹴りの要領で蹴り崩した。
暗いのもジメジメしたのもうんざりしてたからいい憂さ晴らしになったと思う。
ガラガラと崩れる壁に満足し光の中にすべり込んで大きく伸びをした。
そうして俺はなんだこりゃつぶやいてしまった。
<了>




