6.とある記録の地下世界(5)
5.オメガ その2
それから何事もなく、やはりオメガを連れているのが良くなかったんだと確信する。
そして目的の雑居ビルについたのは広場から10分もかからなかった。
念のため1つ向こうの通りを回って遠回りはしたけれど。
カレンの痕跡がきえた場所についたのだ。
雑居ビルへの侵入は裏口から入る予定なので大通りから脇道に入ったところだ。
そこからをひょいとその奥を覗く。
そこにはオメガに手を繋がれさっきの近づくもの2 の少年が一緒だった。
よりにもよって、その裏口の扉付近で往生していた。
亜麻色の細い髪はサラサラとビルの隙間風に揺れる
青い目、長いまつげは少年か少女か分からなくなせている。
整った顔立ちには不似合いなよれよれのシャツ。
その華奢な体躯には少し大きめのスラックスをはいていた、お下がりなのか古着なのかはわからない。
この街は血盟連合に所属する辺境の惑星の低級貴族が支配する街だ。
さっきの金髪ヤンキーのような勇気あるゴロツキも湧くような治安もさほど良くなかった。
そこに妙に不釣り合いな品のある少年。
どっかの貴族の妾の子供かとおもったくらいだ。
そしてよく見るとオメガと少年の周囲には3人の人間の形をしたものが倒れていた。
女子供になったところで追い掛けてきたのだろうか。
着ているものは揃いも揃って黒のスーツ姿でどう見てもそこらへんのゴロツキじゃない。
争った形跡はないところからして、オメガがやったのだろう。
事情は後で確認するとして・・だ。
俺は何も言わず倒れている男の近くによって上着をめくる。
ワルサーPPK SP、こいつは血盟連合のお抱えの諜報部のaiロボたちだろう。
オメガのことだから電脳をハックして動作不良に見せかけているはず。
この場所も衛星監視網の死角に位置しているため万が一の心配はなさそうだ。
オメガは眉をハの字にし困惑の表情を浮かべているっぽく見える。
それを見て、同じように困惑の表情をしてやった。
それから少年を見て「よぅ、坊主」と俺は左手を上げ挨拶する。
少年は顔を真赤にし、はぁはぁと肩で息をしながら興奮気味に俺をにらみつける。
それからニヤリとして「まぁ、良くやったと言ってやりたいところだが勇気と蛮行は違う」
「しくじると怪我だけじゃすまなくなるよ」と言いながらオメガと少年の脇を通り抜け、非常口の扉のノブに手をかけた。
ノブを回すがガチャガチャと音がするだけで一向に開く気配がない。
鍵がかかっていた。
俺が解錠してもいいが、せっかくなんでもできちゃうお人形がいるのだから使わない手はない。
で・・オメガを睨みつけた。
それを見た少年は俺に敵愾心を燃やしたようにさらに俺をにらみつけてくる。
なんだかなぁ。
オメガは子供の目線まで腰を下ろすと、繋いだ手を両手でそっと握る。
顔を少年の耳元に寄せ、その赤い唇で「ありがとう、嬉しかったわ」と囁く
そのまま頬に軽くキスをすると、強く握りすぎたのか、怖かったのか震える少年の手を優しく引き剥がした。
そして少年に背を向け、こちらに歩き出す。
そのオメガの背に向かって少年はこう言った。
「ぼ、僕の名前はユーキ・トンプソン」
「僕、ぜっ絶対、強くなってみせるから、みせるから、そしたら・・・」
その言葉を遮るようにオメガはユーキに首だけ振り返り流し目を送りながる。
「そ?、期待しているわ、ユーキ」と言って非常口の扉の鍵を触りもせずに解錠した。
俺はノブを回し扉を押し開いた。
オメガはそこから俺の腕を掴み雑居ビルの中に俺を押しやりながら中に入った。
俺はオメガに押されながらもそんな場所にユーキを放置して良いのかと気になり振り返った。
その時垣間見たユーキの目は強くなるんだという決意で誇らしげに輝いていた。
きっと心配ないだろうとなぜかそう思った。
しかしオメガの横顔を見た時も耳が少し赤くなっているのには驚いた。
AIロボットとはいえこいつは完全生体。
血行の良し悪しもでもあるのかそれもプログラムされたものなのか判断はできない。
ひょっとすると少年の続きのセリフを予測して少し照れていたのかもしれない。
<続>




