6.とある記録の地下世界(4)
4.貴族の街
外は朝もたけなわ、午前十時、うららかな春の日差しはこんな面倒なことはやめて、ゆっくりくつろぎたいところだが、カレンの捜索は遅れれば遅れるほどリスクが増す。
移動は徒歩、車はしばらくお預けだ。
馬の貸し出しはあったが観光気分のたるんだ馬などゴメンだとばかりに突っぱねた。
オメガはブーブーと文句を垂れたが知るものか。
暫くは中世ヨーロッパの地方都市よろしく石畳の道を歩くと、少し広めの道路に出たところで、剣呑な視線を感じる。
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オメガを連れ立っての道行にはいつも周囲でちょっとしたアクシデントが起こる。
だいたいこいつ(オメガ)の所為だなのだが、行動予測介入で回避しないのは、コスト面で介入しないほうが安価なのだろうか。
よくよく周囲を観察すると、
歩きながらオメガを見てしまいショッピングウィンドにぶつかるやつは顔から行きやがった。
ゴチンっと音が聞こえそうなほどだ、お見事である。
デート中なのか妙齢の女性と一緒にいるあんちゃんがオメガに目を奪われて連れにひっぱたかれていた。
明日はいいことあるさ。
他にもズボンのベルトに手をかけてこちらに飛び込んできそうな爺様もいる。
どうみても70歳は超えてそうだ。元気があって大変よろしい。
知ってる俺だからこそ、AIロボと理解しているが、周りの連中はそうではない。
このAIロボときたら…
すれ違う男に流し目を送ったり、ウィンクしたり、ちょっとぶつかってみてはボディタッチしてみたりと、そこらへんにいるお兄ちゃん達の目を引くことこの上ない。
だが、この行為自体は、それなりに意味がある。
すべては「利用価値の有無の探り」であり、男たちの保護欲を煽るための計算づくの挑発なのだが、逆効果として俺が一緒にいるとその敵愾心が俺に向く。
ま、無料で他人を利用できるという点において優れてはいるがな。
無駄に人の競争心を煽るからやめろといってるのだが、存在価値や経験則から来る癖みたいになっていたりする。
人に近いメンタリティと学んだことによる自分と他者の境界線ラインを保つためのようだ。
つまり半分はこいつのストレス解消と、メモリ最適化を兼ねている。
現状こいつらの管理者とは親父だが親父はすでにくたばっている。
そして、俺はこいつらの管理者になる気はない。
人間手を抜き始めると無限に手を抜いてしまうのだ。
こんな便利なやつがいたら生きる気力もうせるってもんだ。
格好も呼び方も好きにするとよいのだが、どうも俺が嫌がるのを楽しんでいるのではないだろうかと最近思うようになった。
「で、要件ってなぁなんだ」
「憶測を話すわけにはいかないんだけどぉ」
「それでもいい?」
俺は黙って頷いた。
「現象としてはcネットワークにノイズが混じってるんだけどそのノイズの元が不定で、その座標を特定するためにきたの」
「ふむ?」と聞きながら俺はこいつの言ってるネットワークが何を指しているかを知っている。
その特性上妨害や干渉できるものではないからだが、俺が知らんだけでなにかあるかもしれない。
オメガの言うこのcネットワークとは、普通の通信インフラ、電波網ではない。
これはコグニションネットワーク網で通称cネットワークだ。
データ通信だけなら大きな通信局の構築が必要ないこのネットワークは
手のひらサイズの端末でどこでも通信可能と言う代物だが。
その特殊性とは物体には記憶がある、あるいは物体には環境が影響する。
それを物理コグにションとよび、それらが関わる現象をプロトコルとよぶ。
それらを伝播させるところに通信網があると奴らはいうのだ。
例えばそこに転がってる石は時間経過とともに劣化している。
原因は空気の流れかもしれんし、引力によるものかもしれんし、分子の結合力の劣化によるものかもしれない。
とにかくなんらかの理由により劣化している。
その現象が影響しあうこと自体にネットワークが出来てるというのだ。
目で見ることができれば、ニューロリンクのような構造を持っているとオメガの姉アルファが説明してくれたが、なるほどわからんの一言に尽きる。
そうこうしているうちに銀杏並木の街路を抜けて大きな噴水のある広場を横切ろうとした時オメガが何かを告げる。
いつもなら見惚れるだけで声をかけるような奴らはいないのだがどうやら今日は違ったらしい。
少し斜め後ろを歩くオメガはおもむろにこう言った。
「ボス、脅威判定……ランク外だけど、こちらに近づくもの 4、あ転んじゃった……」
ここまでついてきたのかズボンを下ろしかけたおじい様が倒れているのが見えた。
きっといい夢を見ていることだろう、あのまま永遠に夢を見られれば本望じゃないか?とくだらないことを考えてしまった。
「コホン、3 いかがしますか?」 と、俺に告げる
「お前に用があるんだろうよ、好きにしろ、あの爺さんは・・・連絡しておいてやれ」
おれはこめかみをもみながら、やれやれといった面持ちで伝える。
あと1.2.3に関しても目当ては俺ではないだろうという意志を込めて。
「あと、一応わかってると思うがセイカンカンリクミアイのお世話になっても知らん。」みなまで言う必要もない。
俺はお前の所有者じゃないからな。
こいつと並んで歩いているとろくなことがない。
そしてAIは本来生身の人間に危害を加えることはできないはずだが、こいつはどうだろう。
虫も殺さないような顔をして、人はぶちのめすだろうか。
近づくもの1は、強化外装付きカーキ色のつなぎを着た背の低い金色で短髪の男だ。
どっかの作業員なのだろうか。でもヤンキーだ。
身長は160cmだが、強化外装で180cmくらいには見える。
シークレットブーツなのかやたら靴底が厚く見えるところをみると本当は150以下だろう。
強化外装は155cm以上ないと装着できない。
多分歳は二十代半ば、この金髪ヤンキーはよりにもよって俺を睨みつけながら、俺に《・・》こう言った。
オメガの方を見ようともしない、舞い上がってしまい直視できないのだろうが、こいつは確実に俺を出汁にオメガをナンパしてるつもりだ。
良く顔を見ると、耳まで真っ赤に染めていた、
何を恥じらっているのだろうか、気色悪いことこの上ない。
「おい、おめー、いい女つれてんじゃねーか、ちょっと貸してくれよ。」俺は笑いを堪えるのに必死だった。
女に声をかける方法は様々な言い方があるもんだと関心までした。
見た目で人を判断しちゃいかんよ。
俺は怯えたように、両手の手のひらをを胸の前で広げ、首を左右にぶんぶんとふる。
真面目で気の弱そうなオーラを出しながら、こう言ってやった。
「や・・やだなぁ 女なんてどこにいるんですか? 冗談は顔だけにしてください。」
つい本音が出てしまった。
金髪ヤンキーは顔を真赤にして奇声を上げて襲いかかってきた。
「うっきーー!、ぶふ ぶっろこしてやぅーー」
噛みやがった、抜け目がない。
「わ。わ!わ?」と俺はよろめきながら2,3歩後退する。
ちらりと、オメガを見ると驚くことに、近づくもの2 11,2歳位だろうか。
男の子がオメガの手を引っ張って「早くこっちに!」と言っていた。色気づきやがって糞ガキめとは思わなかった。
勇気ある子供だなぁ、そのままどこか遠くに連れ去ってくれて良いぞ。
オメガは困惑しながらちらりとこちらを見ていたが無視だ。
そして気がつくと近づくもの3。
こっちはイケメンマッチョスーツのサラリーマンだ。
イケメンマッチョのスーツではなく、イケメンでマッチョな体型でスーツを着用しているのだからきっとサラリーマンということにしておく。
ワイシャツをはち切れんばかりの胸板がこれでもかとピチピチにしている。
たぶん30歳くらいだろうか。それにしてもデカい。
200cm近くはあるんじゃないか?は近くに来たまでやってきて
なんとその男はその金髪ヤンキーの肩を掴みヤンキーに向かって「君やめたまえ」と言ったあと俺にウィンクをよこしやがった。
いったい何を考えてるんだろう、1つも理解できない。
すでに強化外装のスイッチが入っていた金髪ヤンキーはイケメンサラリーマンをはねのけようと腕を一振りしようとする。
イケメンサラリーマンは、強化外装の左腕駆動部にどこから取り出したのかドライバーを突き立てていた。
サラリーマンを舐めてはいけない奴らは何でも持っている。
そして強化外装の力は遺憾なく発揮され、ポキッっという小気味よい音と、「うがぁぁぁ」という耳障りの悪い悲鳴が聞こえた。
その悲鳴は金髪ヤンキーのものだった。
正直どっちでも良かったのだが。
金髪ヤンキーの腕が強化外装の力であらぬ方向に捻じ曲げられている。
あれは折れてるだろう。そう俺は分析した。
サラリーマンがドライバーを差し込んだところは、制動装置で強化外装の強すぎる力のレベルを調整する場所だ。
弄りすぎると腕の曲がらない方向に力がかかり、結果はというと、金髪ヤンキーが身を持って教えてくれている。
本来は安全装置が働いて強化外装が停止するはずなのにそうならなかったのは強化外装に違法な改造をしてたからだろう。
予想外の展開にイケメンサラリーマンは驚いていた、あの顔は俺が悪いの?という顔だ。
腕が折れるとは思わなかったらしい。
それを見てサラリーマンは根が善良なやつだなと思ったが、ただし好感度なんか上がるわけがない。
金髪ヤンキーは自由な右手を振り回し足をジタバタさせて暴れ出した。
「いてぇ、いてぇ、よちくしょー、こ、殺す、絶対ぶっころす」などと何やらブツブツ言っていた。
なんとまあステレオタイプ過ぎて聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。
地上用の強化外装は、腕、両足、胴など主な可動部分の筋肉のかわりをしてくれるが、細かいところの強化はピンキリだ。
金髪ヤンキーの強化外装は安物、重いものを持ち上げようとして指の骨が折れるやつだ。
手軽に手に入れることは可能だが、今どきはAIロボのお陰で力仕事なんかいらないから使い道なんかないだろうに。
そう思ったがこのゴロツキのように脅迫してナンパ?に使うには有効そうだった。
良い子は真似してはいけません。
ただし今日は相手が悪かった。
金髪ヤンキーは激痛にのたうち回る。
しかし強化外装についてるスタビライザーか倒れることをゆるさない。
どうみてもタコ踊りのような状態になっていた。
踊る阿呆だが、見る阿呆になっている場合じゃない。
気がつけば騒ぎになり人垣が周りにできていていた。
携帯端末のカメラをこちらに向けている。
少し治安は悪いが平和な街の小さな騒動は一般人の関心を引き付けるのに十分な娯楽になったのだろうか。
静かな道行を期待したんだがなぁ。とひとりごちだ。
動揺していたイケメンサラリーマンはその場にすくみあがったまま金髪ヤンキーのタコ踊りの蹴り食らって数メートルほど向こうに吹っ飛んで噴水に落ちた。
びゅーん、ばしゃんっ!だ、人垣が歓声を上げる。
見ている側は気楽なもんだよね。
観客たちがその噴水にカメラを向ける。
気がついたらオメガと少年の姿が見えない。
本当に好きにしたらしい、大変結構。
ずぶ濡れのサラリーマンの顔が見えた。
どうやら無事ですこし残念だった。
見た目以上に頑丈だったかもしれない。
しかし中途半端なのは良くないといういい例だ。
金髪ヤンキーもほったらかしにしようかと思ったが、観衆に突っ込んでいって更に騒ぎになるのは避けたい。
俺は渋々、身を低くし痛みでのたうち回るのだが倒れることができないタコ踊りの金髪ヤンキーに静かに1歩踏み出す。
歩み寄りながら振り回される手足を避けた。
たこの左足と右手の関節を逆手にテコの原理で蹴り飛ばし右手で跳ねのける。
のけぞった剥き出しのみぞおちから脳天を狙い下から一発。
左腕でパンチを放つ。
ゴフッという声がして、金髪ヤンキーのタコ踊りが停止する。
衝撃が脳まで届き気を失ったのだ。
俺のボディーブローは殴った瞬間に拳に力を入れ撃ち抜くように放つ。
最初の衝撃で筋肉に衝撃を与え、その衝撃により条件反射で筋肉がこわばる。
次の瞬間の筋肉が緩んだ時、拳に力を込める。イメージは全身に衝撃が響くように。
空手の正拳突きの要領だが内臓に衝撃は来るものの傷つけないようにはした。
本当 はここで拳にひねりを加えるところだがそこまでやっては心を折ってしまう。
体はすぐに元に戻るが恐怖心や苦痛はそうじゃない。
感謝してもらってもいいと思う。
ま、生身の人相手にはこれで十分だろう。
泡を吹いて膝からくずおれる金髪ヤンキーには目もくれずその場を早々に退散するため駆けだす。
おやすみ、ヤンキー、と捨て台詞は忘れなかった。
俺はポケットから通信端末を取り出してセイカンカンリクミアイの局長あての直通回線に連絡する。
金髪ヤンキーとマッチョサラリーマンが喧嘩してると連絡した。
そして目的地の方向にいる人だかりを歯を剝いて威嚇する。
人だかりがすっと左右に分かれその間を通って目的地に向かった。
撮られた動画がアップロードされたら軒並みプライバシーの侵害で訴えてやろう。
正直、面倒くさくて早くこの場からとっとと退散したかった。
<続>




