6.とある記録の地下世界(3)
3.オメガ
俺は専用エレベーターでロビーへ向かう。
そこでオメガ、同居人の生体アンドロイドを見つけて、俺は心の中で舌打ちをした。
そいつは足音も立てずこちらに向かってくる。
気配もほぼ消して。
周りの連中も奴に気がついてないようだった。
ただ監視カメラは姿を捉えており、舐め回すよに同居人を捉えている。
それは男が女を見る目に似ている気がした。
忍者のような足取りと雰囲気。
しかして、その格好ときたらデニムのチューブトップに革製の黒いショートパンツ、臍は丸出し、太もももばっちりだ。
ヒール高めのロングブーツはいかにも扇情的だ。
俺より頭ひとつ低い、薄紫の瞳にぱっちりお目目、鼻は低めだがスッキリ伸びた鼻梁。
薄く塗ったルージュはまだあどけなさを残す顔立ち。
所為美少女と言って差し支えない相貌に儚げな色気を添えている。
その上、見た目には人と全く区別がつかない、なにせレベル9AI、ほぼ人のように振る舞うのだ。
肘や指先からミサイルが出たり口から怪音波などは出ないのが残念である。
「用はないと言ってなかったか?」
「いいえ、あります」
と言って俺の腕に絡みついくと
「置いていくなんて、酷い!」
といいながらその完璧な隠形を解いた。
ロビーにごった返す人は何事かと振り返るくらいにはその色っぽい声が響く。
俺は慌てて乗ってきたエレベータにその女の形をしたトラブルメーカーを引っ張り込んで閉めるボタンを押す。
扉が閉まるのに二秒、その時不思議そうにこちらを見るダークブラウンの瞳。
赤髪でそばかすの少女がこちらを指差して
「あー痴話喧嘩ー」
「だめよ、みちゃいけません」
と横で母親がツッコミを入れる。
というお決まりのセリフが聞こえる。
俺は閉まる扉の隙間からその少女にウインクして絡まれてない腕を使って小さくバイバイした。
このやっかいな少女の形をした生体アンドロイドは演算主格を好奇心。
レベル9っていうのは、いわゆる知的度だ。
ちなみに人は6〜8でリソースの記憶反復呼び出しに限界があり劣化や喪失が見られたり、精神状態で結果が左右されるから。
野生生物は3〜5という具合だ。
このレベルはいまのAI工学におけるレベルづけでしかないがそしてそこに+や-がつく。
レベル9のAIの自己拡張によって自然発生的に生まれるそれは遺伝子の有無。
実はこいつは人と同等の機能を有している。
人との間に子を成したとしても胚が三時間持たない。
ヒトの遺伝子が負けてしまい食われてしまうからだ。
もちろん男性型もいるが、こいつらはレベル7を超えられない。
なぜか女性性だけが、レベル9に到達できる。
俺は理由がなんとなくわかる気がするがここでは割愛する。
トラブルメーカーだが問題解決能力にすぐれ、予測の範囲を超える行動論理を持つ。
命令しないと何もできないAIとは違い自立行動もする。
それは不可能を可能にする能力を発揮する時があるという売り文句だが維持に年間数万ドルのお金がかかるのだ。
といっても、設備はほぼ俺んち九重家の自前でまかなっているし、栄養剤を渡しておけば、美味いもん食わせろなどの文句も俺には言わない。
ご主人様の命令には絶対服従(ただし嘘はつく)
危険地帯への侵入などもお茶の子さいさいなのだ。
ただし、こいつに限って維持費の半分はこいつがいく先々で起こすトラブルの後始末だということを付け加えねばならない。
さらに付け加えるならオメガの姉?オメガより先にロールアウトした個体、名をベータ。お留守番のアルファがおり、九重家の三姉妹は一部の好事家には有名だ。
エレベータの扉が閉まる。
俺はオメガが生体アンドロイドなのをいいことに逆関節を取り腕を捻り上げて絡みついた腕を引っ剥がす。
「あっ、痛い痛いボス痛いって」
と、涙まで浮かべやがった。
小賢しい。
もちろん痛いのは知ってる。
さらにこいつは、人と偽ってハイスクールに通ってもいるのだ。
なんでも人生勉強だそうだが、何を学んでいるのやらわかったものではない。
俺は睨みつけながら聞いた。
「で、どうした?」
「えっとね、あのね……」どうも喋り方がAIじゃない。
「面倒だから簡潔に答えろ。」
「承知しました」と瞳の色が薄い紫から透明感のある青に変わる。
「私のセンサーで演算誤差がありまして、調査に来たところ九十九様がおいでになりましたところにございますです。はいそうなんです。」
「……」
最近話し方もおかしな具合だ。
ふむ、一度分解検査しろとマザーAIに連絡を入れておくことにした。
そしてオメガに服を改めさせる。
今度は白いビスチェに革のぴっちりスキニーパンツ、革のハーフコートを羽織る。
チューブトップはボディラインが出るくらいでまぁ、だったのが白いビスチェは布面積がさっきより狭い。
胸元がさらに強調され目のやり場に困るほどだ。
スキニーもピチピチで計算され尽くしたヒップラインはごくりと唾を飲むほどだろう。
なぜか先ほどより扇状的になった。
これが流行りで可愛いのだとやつは胸を張っていった。
俺は無言で拳を頭の上に上げて殴ろうとするジェスチャー。
「実は困らせようとわざとですはいそうなんです。だからこれしかありません」
俺はため息をつき振り上げた拳を下ろす。
こいつらの利用価値や利便性はただのコンピュータでは賄えなかったり事象の必然性を覆してみたりとなかなかに面白く興味深くはある。
まぁ他にも理由はあるにはあるのだが。
振り下ろした拳を見てオメガは胸を張って
「そんな目で見るからそう見えるのです」
と言い放った。
俺は頭を抱えそうになるを堪える。
「あー、あとね、ボス。試作部から預かりものがあるの」
そう言ってアルミチャックの袋を渡される。
中を除くとストローのような細長いチューブが何本か入った透明な袋。
大した重さでもないし細長い袋はじゃまになりそうにないと、とりあえずポーチに放り込む。
「で、なんだこれ?」
「なんでも『ろ過ストロー』って言ってたわ」
いや、最新鋭のAIなんだから、そんな雑な説明あるか……?
ツッコミそうになったが、不毛なやり取りになるのが目に見えていたので「まあいいか」と飲み込んだ。
さて、下らない茶番をやってる場合ではない。
そして、気を取り直すとオメガを連れ流れに身をまかせてホテルを後にした。
<続>




