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6.とある記録の地下世界(2)

2.消息

 港の見える湾岸道路から徐々に建物が減っていくと急勾配の上り坂の先の断崖絶壁に設えられた海沿いの道へと抜ける。

 時刻は早朝、太陽の光が海面に反射してキラキラしている。

 車の窓を開けると、春特有の甘い香りのする風が心地よい。

 格好のドライブ日和といえよう。

 その海沿いの道路をぬけ、大きな川を跨ぐ鉄橋に差し掛かろうというところでその川沿いに上流へと続く緩やかな坂道へと進路を向ける。


 松田聖子の歌は21曲目、 「ボーイの季節」がながれはじめた。

 

 ゆったりとした曲調に、聞き取りやすい声、ノスタルジックな気持ちにさせるその曲は、木漏れ日のなかの道を進むイメージにピタリとマッチした。

 

 そんなに広くもなく舗装された道でもない道をゆったりと登っていく。

 ここまで来ると都市警備ではなく、村や街の自警団あたりが目端をきかせている。

 ここで面倒を起こすと、都市警備よりめんどくさい。

 公認の当たり屋。

 わかりやすく表現するとそれがぴたりだろう。

 実はAIよりかなり御しにくいのだ。


 手を出そうもんなら衛星軌道上のドローンから見えない電子線を飛ばされ脳を焼かれる。

 ある意味無敵だがそう信じ込ませておかないと自警団なんか誰もやりたがらないのも事実だろう。


 さらにしばらくは川沿いの森林道の風景を楽しみながら道が未舗装路になろうかというところでその宿、街の入り口に鎮座する白磁庵という石造の建物の門を潜った。

 

 宿自体は観光向けで、修道院風を装っており、とある宗教の修道女たちが寝泊まりしていたところを宿泊用に改修したというのが売り文句だった。

 当時の修道女たちの生活が垣間見えるような装飾はそのままに昔の旧世界に迷い込んだような体験を味わえる。なかなかに人気のホテルらしい。


 ま、それはただの外面に過ぎない。

 俺は車で門を抜けてホテル敷地内をしばらく進む。

 向こうに青空駐車用のスペースがあり数台の車が停車してるのが見えた。その道行の途中で道路から砂埃が四角くあがると、その四角い境界にそって道がせり下がる。

 そこに地下へ降りていく坂が出現する。俺は躊躇もせず。さらにそこへ車を侵入させた。


 暗がりのなかから奥にぼんやりと松明の明かりが見える。松明はもちろん本物だ。

 見た目には丸太を並べた旧制西洋時代の壁かと思われたが跳ね上げ門のようにその丸太壁が持ち上がると、その奥に最新式の格納庫が現れる。

 強化プラスチックの壁に大きな強化窓があり、ある程度進む頭上のランプが赤く点灯する。

 止まれという合図だ。エンジンを停止すると、さらにランプが緑に光った。

 これもおりてねという合図。

 俺は車から降りると奥に見える階段を登っていく。

 慣れたものである。


 さらにその先の扉をくぐれば、最高級ホテル並みのラグジュアリーな家具やら何やらが備えられた、

 ロイヤルスイート以上のグレードがあるのではないかと見紛う部屋に到着した。

 そのインペリアルスイートにある家具や絨毯は、ここのオーナーが俺に気を遣って揃えたものたちだがこれらは実は九重家の所蔵の旧世界の家具たちのレプリカである。

 ただ、ここのオーナーはそれを知らない。

 

 このホテルは俺の所有するリゾート地開発サービス会社のホテル施設の一つだ

 オーナーは60歳半ばのおっさんで、そろそろ息子に引き継いで引退したいなんてぼやいてたらしいが、四人目の嫁さんができたとかなんとか聞いている。

 ま、俺のことはどこかの企業か、貴族のボンボンくらいに思ってるのだろう。

 部屋は20平米、南側の壁一面はガラス張りになっていて、外が一望できる。

 そこは美しい森の景観に、清らかな小川、目を凝らせば鹿の親子も見える。

 これが窓なら外からも丸見え、ということもなくここは地下でこれスクリーンに映され、作られた映像であることは言うまでもない。

 

 俺はこのような拠点をいくつか所有していて表面はホテルだが裏は要人御用達のレンタルスペース。

 俺が使わないときは、有名人著名人政治家、王族貴族なんかが使ってる。

 何しに来るかだって?それはプライバシーの侵害だろう。

 

 俺はスルスルと服を脱ぎシャワーを浴びる。

 

 ふと思い出したように今の世界について思いを馳せた。

 なんだ?説明っぽい?気にするな、親切心さ。

 この街は、血盟連邦に所属する伯爵、名前なんだっけかな、が管理するエリアの一つだ。

 

 この三大勢力についてだが簡単に説明しておく。

 企業同盟、神聖連邦、血盟連合 の3つだ。

 それぞれ特徴がある。

 まず企業同盟

 会社や資本家同士がつるんで 「業務提携」「資本業務提携」、「戦略的パートナーシップ」を結ぶことで、互いの利益を貪り合っている集団だ。

 一番偉いやつは一番金の持っているやつ、わかりやすくて良い。

 そいつの名はリチャード・D・ペリドット。

 ALLINBANKという銀行の頭取。

 理知的な顔で目つきは鋭いが、俺は知ってる。

 超がつくほどのマザコンなんだ。

 

 そして神聖連邦、宗教国家の連合組合、大はアーメンから、小はかしこみ、かしこみまで様々だ。

 件の純血教もここに所属している。

 そして一番偉いのは信者の多い宗教の代表が選ばれる。

 今は、新世界・大・キリスト教 大司教。マクシミリアン・ブチンスキー。

 「ちょいと前に、顔を見たことがある。ふくよかという次元を超えて肥えた肉体に、なぜか完璧に整った顔面が貼りついている――いわゆる『太った美男子』という、なんというか、なんというかだ。」

 偉いやつってのはどこか裏があるもんで、こいつは男色家だ。

 

 で、最後に血盟連合、王族、貴族。血筋を重んじる思想を持つ集団。

 アキラはここの出身だ、小さな街をもっていたが例のスキャンダルでお取り潰しになってる。

 一番偉いやつは、超絶皇帝 ライトニング・シュナイダー。(笑)

 XX帝王とか、XX大王とかはその時々で自分で決めれるという特権がつく。

 いや真面目に笑うと不敬罪で命まで狙われるから気をつけろ。

 4年に1回 天上天下運動会という、殺し合いをやって最強の個人を決める大会をやって偉いやつを決めている。

 

 ちなみに、着任8年目のこいつは九重家をえらく恨んでいる。

 

 なんでも九重家の人間を見つけたら殺すという家訓を持ってたりする。

 俺が学生の頃にこいつに絡まれてボコボコにしてやったのを根に持っているらしい。

 あ、俺の所為だった。

 だがまぁこいつは馬鹿だ、馬鹿だが俺は嫌いじゃない。

 馬鹿なのに8年も暗殺もされずにやっていけてるのは本人が本当に最強。

 そして破綻もせず成り立っているのは側近たちが優秀なおかげだろう。


 脱線しすぎたか。

 

 さて、このホテルから先は自走車では入り組みすぎていたり狭すぎたりで侵入を拒んでいるわけではないがその景観から、ちと中に入りづらい。

 石造りや木造の2から3階だての建物が建ち並び、遠くにその最奥に赤いとんがり帽子のせた尖塔が小さく見えたりもする。

 さらに奥には商業区もある。


 そしてカレンの消失した痕跡、記録の残る街だ。

  

 俺は濡れた体のままシャワールームのドライスペースに立つと、超音波と温風が全身を撫でる。

 五秒とかからず、全身の水滴は消滅する。

 もちろん髪の毛もすっかり乾いている。

 そのままドレスルームに入り込んで、人が一人入れるくらいの円筒状の筒の真ん中に立つ。

 その柱に見える金属の円柱が俺を中心にクルクル回ってから、プシュッと何かを吹き付けるような音がすると完成だ。

 

 首から下、全身すべてを高分子素材で包む伸縮性と通気性に優れた厚さ0.8ミリのボディスーツが緩くまとわりついていた。

 最後に自分でベルトを巻きバックルについたボタンを押すとシュッという音と共に全身にフィットする。

 テストのためにベルトの別のボタンを押すと今度はそのスーツがベルトに吸い込まれ、生まれたままの姿に戻る。

 もう一度押すと同じように元に戻る。

 風呂もトイレもこれで利用できる。

 欠点はいまのところベルトを取り外すと使えなくなるのと、このボディスーツ自体が三日くらいしかもたないということだ。

 現在開発中の試作品ということを装備部から念押しされているから過信は禁物。


 こいつは耐刃対衝撃耐火帯電対放射線などなどあらゆる防護機能を持った繊維、虹糸と俺は呼んでるが、その糸を実に数万キロを使い特殊な編み方でこさえた一品。

 その耐久性は60キロで走る車にはねられても弾き飛ばされはするが、かすり傷ひとつつかない。

 脱ぐときもバックルのボタン一つで可能だ。

 まぁ昆虫超人のベルトみたいなものだという理解で概ね問題ない。

 また、このボディスーツには体温調整機能までついてて至れり尽くせりなのである。

 

 あとは、有名どころのスラックスやポロシャツ、ジャケット選ぶ。

 もちろんさっきの虹糸をふんだんに使って破けにくく柔軟性に富み着心地も悪くない。

 身なりを整え鏡を確認しながら右手の指輪を閃かせると、隠し部屋の扉がゆっくり開いた。

 そこには九重御用達の装備が詰め込まれている、ウェポンルームが姿を見せる。


 俺はその部屋にあるコンテナを物色する。

 まず、小道具の入ったシガレットケースを取り出した。

 ポロシャツ胸ポケットとジャケットの隠しポケットに忍ばせ少し強めに押す。

 落ちないようにマジックテープがついてるのだ。

 これは飛んでも跳ねても落ちないようするため。

 このご時世にマジックテープと思うかもしれんが、何をいわんや。

 ただの繊維のくみあわせだが、物を携帯するのにこんなに便利なものはない。

 そのシガレットケースの中には葉巻型の焼夷弾やフラッシュパンを2本ずつ、ケミカルライトを2本、水から空気成分を生成するエアシガレットを2本、高カロリー栄養剤 味はチョコ味、塩味、カレー味を1本ずつ。

 本物の葉巻が2本はいってる、俺は嗜まないがダミーやプレゼント用だ。


 ウエストポーチに届いたばかりの拳銃用アタッチメント、これは銃口にくっつけて使う。

 アタッチメントについては使うことがあれば説明しよう。

 

 それと同時に届いたGlock19χが二丁。

 俺が見つけたGlock19を解析させ作らせたやつだが作ったやつが正式な後継機だと豪語してやまない逸品とのこと。

 そいつが超のつくほどの武器マニアで、たまにとんでもないものを送りつけてくる。

 今作は俺自身も試射したことがあるが、取り回しも良く耐久性なども合格点。

 ちなみにスマートレールガン、スマイルもこいつの作だ。


 予備のマガジンを3本ウエストポーチの内部ベルトに引っ掛ける、走るとガシャガシャうるさいからしっかり固定。

 ジャケット内側にも、もう2本こちらもマジックテープで貼り付ける。

 中の弾丸は用途に合わせて違うものが装填されている。

 まぁ他にも色々あるが、主だっての装備はこんなもんだろう。

 

 あとはドローンに運ばせるための搬送ボックスに幾つか装備を詰め込んだら準備は完了だ。

<続>

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