4.とある記録の惑星 (5)
5.寄り道のつもりが
俺はカレンが消えた街に向かう途中にあるショッピングモール兼ウォーターパークに立ち寄った。
野暮用なんだ。
何人たりとも俺の前を走ることを許さず、また追っても来なかった。
すんなり、ショッピングモールにあるオープンカフェの路上パーキングに車を停める。
胸ポケットにしまったグラサンを引っ掛け、後部座席に転がしたアタッシュケースを左手に持ちその店へ。
そして周囲を見渡し俺は苦虫を潰したような顔が、思わず出てしまう。
どこで情報が漏れたのか、いや存在自体がもう隠蔽を受け付けないのかもしれない。
純潔教、笑うことなかれ今どき風に言うと、処女崇拝。
こほん、未経験を崇拝する教団だ。教義とかを説明してもいいが、内容はかなり際どいので割愛する。
その教団の中でも超タカ派部隊で純血戦隊ヴァルキリアの隊長、アルテイシア・ミハエルがカフェのテーブルに普通のスーツを着て何食わぬ顔で座っていたからだ。ただでさえ人目を引くのに目立ってしょうがない。
あれがいるってことはたぶんほかに5、6人はこのあたりに潜んでるだろう。
絹のようなシルバーの髪、顔立ちは東洋系だが誰もが振り返る美人、そしてなにより男の目を引かずにはいられないボディのラインはその無自覚で手に負えないセックスアピールの塊のような女である。
そしてこいつらは自身の教団を侮辱した連中を制裁するために活動してるのだ。
なんというか自分勝手な話だが、かなり狂信的な集団でっていっても教義の詳細はさっきも言った通り説明は割愛する。ちなみに入信には未経験者しか入れないという(苦笑)のは本当らしい、そのため教団員は若い奴らが多い。
そういう行為を助長したりする輩は制裁の対象なのだという。
子供が欲しければ精子と卵子を抽出、試験管ベビーでよいのだ、そしてバージンは長生きの秘訣だそうな。
くだらないと思うかい?。
奴らは本気なのだよ。
いわく布教活動を阻害してるということだからだそうな。
年に100人あまりの要人がこいつらに捕縛され、再起不能になるまで拷問を受けるのだ。
ただし拷問の内容もこれまた際どい。
男は毎日失神するほどの快感を強制されどんな男も2日目に骨抜きにされるらしい。
それをご褒美だとおもえるうちはまだ幸せなんだろう。
改心すればよし、さもなくば……。
女の方は知らん。
さらにこれは公式な情報ではないが、どんな不能でも瞬く間に復活するという薬品を製造販売しているともっぱらの噂だ。
そういう行為はだめだが、そうもいってられないという事実にも理解があるというか、背に腹は変えられんらしい。
聖なる蜜を主成分として作られる薬。
よくわからない成分を含まれていても認可薬として登録されている。
パッケージの処方にそう書いてるんだからしょうがない。
製法も何もかもが謎に包まれている秘薬はそのうちあばいてくれるとは思っているが物が物だけに手を出してないのが現状だ。
まあ不能が治るんだ誰だって欲しがるし需要は無限大だろう。
そんな薬のおかげでとてつもなく莫大な資産稼ぎ出すと同時に恩を売りつけられてる各組織のえらいさんたちのおかげでどんなところでも出入りして布教活動してる。
ちなみにどうでもいいことだが、こいつらの教祖は代々男で、生涯を童貞であることを誓わされる。去勢しないのかって?
ないからできないのではだめ、あるけどしないことに意味があるそうだ。
ちなみに、最速で1日、最大でも1年持たないそうだ。
なにせ、まぁそこは言わずもがなかな。
あとの問題はこのアルテイシアという女だ。
この女が現れると急性心不全でくたばる老人(もちろん男)とか、離婚率が増えたりする。
因果関係?知りたいか?
まあ、なぜか出産率も上がるそうだからトントンかもしれん。
そして、そいつら(ヴァルキリア)が狙うのは――元祖真言宗、僧名『慈愛阿闍梨』。
17歳で出家し、27歳で阿闍梨の袈裟を許された高僧が、千日行脚の最中にこの土地へ立ち寄っているという情報があったからだ。
この慈愛阿闍梨の話は一部の人間しか知らないが、その正体は皇族・高須野原家の長男に生まれ、名をアキラ(愛輝)と書くらしい。
俺の野暮用の相手、その人だ。
ちなみに純潔教がアキラを狙う理由だが……それは、こいつが純潔教の信者を手篭めにしたからだという。
噂でもなんでもなく、当時大スキャンダルとして報じられた。
実際には逆だったという噂もあるが、真相は闇の中だ。
天才美形子役を誑かした女中とかなんとか――それはもう、世界中の女からの嫉妬と怨嗟で、世界が薔薇色になりそうなほどの騒ぎだった。
それからなんやかやと色々あって、アキラは元祖真言密教に帰依し、静かに暮らしている……とは少し言いにくいが、それなりにやっている。
さて、元祖真言宗の宗派にも、表には出ない薬品を販売する裏の顔がある。
『妊娠促進薬』。促進なんて生ぬるいものじゃない。飲んで行為に至れば、健全な男女なら特殊な避妊でもしない限り確実に妊娠するというシロモノだ。
これもまた、絶大な需要がある。
ちなみに、これは俺の息のかかった製薬会社が販売している。まあ、表面上に俺の名やアキラの名が出ないようになっているがな。
世の中ってのはそんなもんだろう。
ちなみに売上は好調だ。
俺はそんなアキラに会いに来たのだ。
店内を見回すと、お茶を飲みながら手元の書籍――和綴じのごつい本を眺めている男をすぐに見つけた。
あれは経本だろう。
一人でテーブルについているアキラの周りの席には、なぜか女が多い。
剃髪した27歳の男。類まれな美貌と引き締まった体躯は嫌でも人目を引く。
通常なら遠巻きに見るような存在だが、誘蛾灯のごとく周りに女性を惹きつけていた。
それに何の違和感も抱かせないほど、彼の纏う空気が自然なのだ。
服装は至って普通だが、さすがは元良家のお坊ちゃま。
薄いグリーンのジャケットも白いスラックスも嫌味にならず着こなしている。
逆に、アルテイシアの周りには男が多い。
あれは普通のスーツなのだが、なんというか……タブレットを操作するたびにボタンがはち切れそうになっている。
色んな意味で視線がそこに集中しているようだった。
俺が近づくと、慈愛阿闍梨ことアキラは本から顔を上げた。
俺はアキラへ片手を上げて軽く挨拶を交わす。
「よう」
「やぁ、こんなところまでわざわざ済まないね、九重君」
「構わないさ、大切な取引先だからな」
周囲のゴクリという音が聞こえた気がする。
それ以外に、熱い視線と毒を含んだ視線が俺に集まるのはなんだろう。
口に出すのもはばかれると俺は心のなかで、その情念という想いに身震いした。
「そう言ってもらえると、気が楽だよ」といってにこやかに俺に微笑んで俺に席を勧める。
俺は周囲の雰囲気というか空気というかえも言われぬ感じに顰めっ面をしながら
「達者そうで結構だが、この匂いはなんとかならんのか」と、鼻をヒクヒクさせる。
女どもの化粧品と香水の混ざった匂いが周囲をただよっているがそれだけではない。
アキラは、くすくす笑うと、「ごめんね」とうそぶいた。
「とっとと片付けてしまおう」
そう言ってアキラの目の前に小ぶりのアタッシュケースを置く。
「料金はいつもどおりに、受取上のサインはほれ」といって 懐から出した紙をアキラに渡す。
アキラはそれを破いて切れ端を俺に渡した。紙がみるみる再生するともとに戻るのを確認して懐にしまう。
そのやり取りの間にカマーベストでパンツスタイルの少女がトレーを小脇に抱え注文をとりにくるのがみえた。
が、こっちに来るはずだろう?、来ない?どうにも足下がおぼつかない。
このオープンカフェはレトロ風とやらで、海辺のヨットハーバーにテーブルと椅子を並べて外に見えるところは人が運営している。
中まではわからんが。大昔の映画のワンシーンを再現してるとかなんとか。
それを眺め見て俺はうんざりした顔をしたが、アキラはそれを見て手で口元を隠し俺に顔を寄せる。
また、「ごめんね、くすくす」と笑った。
周囲の剣呑な雰囲気がいや増した。
その後アキラはその少女に向けて手招きすると、少女は今度はまっすぐにこちらに向かってくる。
小走りで、今にも踊りだしそうなほど軽やかに・・だ。
その少女に嫉妬の視線が集中する。
ウェイトレスの少女はテーブルの真横に来るとあきらの顔すら見れず、何故か俺の顔を見る。
耳まで真っ赤にしながら。
俺は思いっきりしかめっ面になったと思う。
俺を背景か何かかと思っているのか完全に無視して。
「ごごごごご注文は私ですか?・・・」と理由のわからないことを言った。
俺はどんどん気が落ち込むのを感じながら、頭悪そうに言った。
「あんころもちクリームソーダミックスパフェをおねがいちまちゅ」
もちろんそんなメニューはない。
やけくそになるのをわかってくれとは言わない。
そしてそのウェイトレスにあっさり無視される。
じゃあ、僕もそれで。
と追従して慈愛が少女に告げた。
「かかかか、かしこまりました!!!」と少女は天にも昇るような勢いで奥に引っ込んでしまう。
俺は何がでてくるのかと期待をしてしまった。
アキラといると面白い。
そんなやりとりをしていると周りよりも剣呑な雰囲気を漂わせ、周理に居座ってる老若男女の絶望感が漂い始める。
「私も混ぜていただけるかしら」
俺は宙を仰いだ。
アキラはどうぞと言わんばかりに席に手を差し伸べようとするのを制止して「悪いが遠慮してもらえるかな?今取り込み中なんだ」と俺は紳士的に応答した。
周囲の空気が興奮と失望に染まっていく。
男の嫉妬の視線、女の嫉妬の視線、そして俺を睨みつける視線に殺意が混じる。
本能的ななにかが空気を埋め尽くそうとしていた。
それは集団パニックの兆候に似ていた。
それに気がついたアルテイシアは周囲を視線だけで見まわし舌打ちしながら左耳のピアスに手を添えようとした。
仲間に連絡しようとしてるのか?、半分はお前のせいなんだがな。
そして、何かに気を取られている人間ってのは自分の目線の高さしか気にしないもんだ。
座っている俺はわかっていたが、腰の曲がった爺様が老人とは思えない動きでアルテイシアに飛びかかろうとしてこう叫んだ
「後生じゃー、メイドの土産にそのおおけな乳にー」
それはタイミングが悪い、叫ぶなら飛びかかった後だよ爺様
そして、わかるぜその気持ち、減るもんじゃなし触らせてやれば良かろうと思った。
爺様の叫びと同時に俺は静かに立ち上がる。
アルテイシアの盛り上がったブラウスのぼたんを人差し指でピシッと弾いた。
そうするとボタンが外れ中に押し込められていたブツがブラウスを押し広げメロンのようなそれがあらわになる。
叫び声を上げなかったものの顔を真っ赤にして胸元を抱きしめ押し隠す。
それは逆効果だとわからんらしい。
そこに周囲の意識が集中した時、俺とアキラは身を屈めながら店から脱出を試みた。
あまりのことに驚いて硬直すること数秒。
すでに出口付近まで移動した俺達を睨みつけるアルテイシア。
お前は敵だという意思も伝わってくる。
おーこわ と心のなかでおどけてみた。
周りの男も女も店員も柔らかいメロンに釘付けになっていた。
例の爺様は泡吹いてひっくり返っている。
なに、死にはせんだろうて。
センシティブとか、ハラスメントとして抑圧されはや数百年。
する側とされる側を考慮すると考え方も見方も変わる。
癖というのは本能に近いから時折こういうことが起こる。
あまり責めないでやってほしい。
ちなみにどうやってでていこうかと考えてたのでラッキーだった。
店中が軽くパニック状態になってる隙に路肩に止めてある車にたどり着くとアキラを助手席に押し込むために、その扉を開けた。
車を見た時のアキラの反応ときたら子供のそれである。
わあ、すごい、いいなこれ、僕も欲しい。だ
「感心するのは後にしてくれ」と言いながらアキラを助手席に押し込んだ。
しばらく内装を触りまくるにまかせようと思ったが
まあ、そうもしてられない。
「次の行き先は?」
「×××地区の寺院だけど……迎えが来るはずだったんだよね、困ったな」
ちっとも困っている風には聞こえない。
「さっきの騒ぎで落としちゃったらしい、スマホ」
この『スマホ』という呼び方が定着しすぎて今でも使われている。
近頃のやつは個人情報が暗号化された状態でメインフレームに登録されており、鍵は個人の遺伝情報だ。
まあ簡潔に言うと、手の脂で個人を特定して端末に情報展開されるため、無くしてもそれほど困らない。
「送ろう」
と俺がアキラに伝えると、嬉しそうに
「やった、ドライブなんかなかなかできないからね」
と素直に喜んだ。
<続>




