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4.とある記録の惑星 (4)

4.Rock'n Rouge

 

 俺はオメガの持ち込んだタブレットに、アラートの警告がでているのが見えた。

 入国審査?だと?んなもん俺には関係なかった。

 指先一つで、その警告をあっさりクローズしてなかったことにした。

 

 その道路は道幅20メートル、そのまま巨大な橋につながってそこから湾岸道に進入する

 おれは何も考えず、アクセルを踏み込む。

 タコメーターの表示もちろん完全再現されたバネと磁石で動くやつだ。

 その針の先が時速240Kmをさすのに5秒、ハンドルに手が馴染むのもそれくらいで済んだ。


 俺は同居人が暇になったらあけてよいといわれたサイドボードに手を伸ばし、がちゃっとあける。

 中から銀色の円盤が収められたプラスチックの薄っぺらい四角いケースを見つける。

 そのケースをさらに開けると中から手書きのメモがでてきて、その円盤をセンターパネルのスリットに入れろというのが絵付きで書いてあった。

  

 銀色の円盤を手に取り裏表とかあるんだろうかと考えながら俺は車のハンドルを右手で操作する。

 余った手でメモにある通り、その銀の円盤をスリットに差し込んだ。

 銀色の円盤は勝手にスリットの奥に吸い込まれていく。

 

 しばらくすると車内のサウンドシステムから音楽が流れてきた。

 メモをちらりと見ると "Matsuda Seiko ベスト"とかいてあり、意匠的な文字で"1.チェリーブラッサム"と手書き。

 

 前のめりで、かなり攻撃的なアップテンポ曲調にちょっと鼻につく歌声。

 だがそれがいい。

 

 歌詞は新鮮でフレッシュな女心を歌い上げる。

 それは元祖萌なのかもしれないと考えながらも、その歌声は車のエンジン音の中でもよく聞こえた。

 助手席のランチボックスには同居人がこしらえた卵のサンドイッチが並んでいてそれを手に取り齧りつく。

 そして右手はハンドルを握りながらその人差し指で聖子ちゃんの歌に合わせてリズムをとる。

 要はご機嫌なのである。


 松田聖子のベストが5曲目、天国のキッスが流れ始めた。

 なかなかに、良い感じだ。

 三車線道路に行儀よく並んで走る量産型の自走型自動車をバンバン追い抜き景気良く走っていると、バックミラーに都市警のドローンがちらりと見えた。

 ちなみに、このドローンを俺はよく知ってる。


 通称、ドローンビー。

 まんま名前の通り、蜂を思わせる体躯の全長は2.5m、長さ1M弱の翼を超超高速で羽ばたかせみるみる追いついてくる。

 この羽は通称 幻の羽、超強化弾力軽量素材の骨組みと、形状記憶素子による透明膜をその骨組みにまとわせる。

 形状記憶素子による透明膜は通常液状で保管されているが、必要に応じて散布、骨組みに絡みつきながら空気と光に当たると固着化するそこにさらにナノ素材である光る粉状の触媒をその透明膜にまとわせることで浮力を、羽ばたきで質量に反発するだけの揚力を得る、羽が薄く光って見えるのはそのナノ素材の反応光のせいだ。

 さらにこのナノ素材の薄い膜に電流を流すことでその組成を変え推力や旋回力まで得てしまうスグレモノ。

 その素材の販売元は俺の所有する会社で、このドローンビーも俺の息のかかった会社で受注生産している。

 俺が壊すと俺の会社が儲かる。

 素晴らしいマッチポンプだ。

 作って壊す人とは度し難い。

 だが、それがいい。

 

 頭部に当たる部分はセンサー類がびっしり。

 胸部にはレールガンを2門装備している。このレールガンの砲身は約100センチメートル。

 耐熱鋼の細い紐上のものをこれまたナノ素材でコーティングすることで、耐久耐熱を確保する。

 その砲身から放たれる弾丸は時速1800キロメートルを超え、その射程は1000キロメートル。

 秒間3発、一分で180発をたたきだすが、実際にはその半分が限度だ。

 撃てなくはないが、それ以上撃つと砲身を交換する必要がある。

 だがこいつの本領はそこではない。

 その弾こそがこいつの目玉で、口径や形状をある程度許容可能なスマートさが売りだ。

 対人制圧用麻痺弾、ロボット制圧用の粘着弾、消化活動のための消化弾などなど用途に合わせて弾丸をアタッチメントで変更できるその機構を70センチ卵型の箱に詰め込んである。

 スマートレールガン、通称スマイル。

 名前の割にえげつないけどな。

 

 さらに腹部は取り外し可能なカーゴ状のものがくっついている、中から何がでてくるかはお楽しみだ。

 捕捉される。まぁ当然だろう現在この星のまわりに配備されている人工衛星の数は約1000万機、この惑星の全域をカバーする超高精度カメラでこの車の動きはバッチリだ。

 ただし、監視の人の眼はザルなのでなかなか咎められることはないが、小一時間で補足してくるのは監視センターが優秀なのだろう。


 ドローンは俺の車と相対速度を合わせて、距離を取っているのがわかる。

 なにせこのあたりで時速200Km平均で移動しているのは俺くらいなもんだ。


 この辺は都市からも結構離れており、いわば監視はできても防犯機能はない。

 私設警備会社が金と装備をもらって治安維持活動に励んでいる。

 という具合だ。


 通常なら自走自動車のAIに強制介入して無理やり停車させるのだがこの車にそんなチンケなものは付いてない。

 当然のごとくこいつには外部からのネットワークにつながるような設備なんかもついてないから、AI的には正体不明の爆走する鉄の塊としか理解できんだろう。だが頭部センサーは優秀でその中に生体反応があることだけは理解する。

 

 だから俺の車を止めるためには実力行使しかないわけだ。ただしAIに人を攻撃することはできない。

 やおら、指向スピーカーの大音量でこう告げられる。

 「こちらは東第321区画治安維持所属 No23140 交通機動隊です。そこを走る車、ただちに止まりなさい。」

 安定したセリフはAIの自動応答音声だ。

 敬語使えよAIの癖に、と思うか?

 奴らに人格なんかないから敬意も何もあったもんじゃないんだぜ?

 つまりどんなことでも聞く側の気持ち次第ってことだ。

 俺は敬意より可愛げがある方がいいと思うが。

 とどうでもいいことを考えた。


 1度目は運転者の意思で止めることが目的だ。

 2度目の警告が響く。

 こいつはどちらかというと車内ディスプレイに警告文を表示して

 自動運転制御AIが自走車のコントロールを所有者から取り上げ車を指定の停車ポイントに寄せていく。

 これには、4重くらいのプロテクトがかかっている、まぁAI機能の停止やら何やらだ。

 あまり詳しく説明してもしょうがないがそれくらいのプロテクトがあろうと交通システムにかかれば、ほぼ大体止まる。

 

 まぁ通常AIで制御された車は逆らえない。

 くどいようだが俺の車にそんなチンケなものは積んでない。

 もちろん言うことを聞く義務はあっても義理はないので何事もなかったように走り続けていた。

 義務があるんだったら止まれよって?

 義務ってなぁ自分にとって必要だから発生するんだ。

 押し付けられた義務に従う必要を感じない。

 後で困る?誰が?いつ?モラル?マナー?いったいなんの話をしているんだ。

 

 「そこの黒い車、今すぐ停車なさい、最終通告です!!!、」今度はあきらかに女の声で人が喋っていた。

 これには心理効果も含まれてる。冷静な人間なら女の声で少しは躊躇ったりするからだ。

 

 俺は美人だったらお友達になりたいな、もっと強くいっくれないかなぁ、などと考えながらもちろん無視をした。

 

 「そこの盗難車、早く止まれ」

 美人さんならこれはご褒美だ。でゅふふ

 柳眉を顰めて、怒りに高揚した女性警官の姿を想像してみてくれ。

 世の中そんな捨てたもんじゃないだろ?

 

 むろん、俺はさらに無視をした。

 イレギュラーなこの車が公道を走ると自走AIにかなりの高負荷が発生してるんだろう。

 安全マージン制御にエラーが多発して自動車統合安全システムのAIサーバが悲鳴を上げてる。

 わかってはいるが、それがどうしたなのである。


 人が車を運転するより事故率が低いとかなんかで採用されたAIシステムだ。誰でも手軽に利用できるという点では優れているし、高齢のジジイやババアがアクセルとブレーキを踏み間違えて子供を轢き殺すよりはましかもしれんが結局100パーじゃない。100パーを達成できないAIは意味がない。

 

 すっかり形骸化した道交法(人が運転する車は都市人口の0.2%以下になったため)と人身事故もすっかり減った世の中で俺の車の違反については危険走行くらいだろうか。

 だが盗難者とはどういうことだろう、誰かが盗難届でも出してる?

 まぁありえないな。

 最低限公道を走るための届け出みたいなものを本来はするのだが、俺の場合は同居人がちょちょっとデータを弄るだけだし。

 たかだか危険走行くらいで高価なドローンを出動させる必要もないから盗難かつ俺を指名手配犯くらいな嘘のようなホントの情報が流れたに違いない、犯罪者なんか出るのか?、そりゃ出るさ

 人間幸せってのはある程度満たされると欲がでるからな、その欲を抑圧するためにある程度不幸である方がいいんだ。

 その欲ってなにか?心情的に抑圧された欲はいろいろだ、文字にして書いたら人権団体やら被害者団体から抗議とかいろいろやってくるから詳しくは語らないことにする、察して黙るよ。

 ただこんな犯罪がありましたっていう情報を元に模倣する奴らが多いから、能動的に調べないとわからんがな。

 まったく、つまらん世の中さ。

 俺は無視して走り続けることにした。


 しばらくして「「おどなしぐいうことを聞いた方がええゾ わがぞう!!」」

 「「おめーのごつば、調べついとっけん、捕まえて身ぐるみ剥がしちゃるばい」」

 のあとキィーンとハウリング音がした後にぶつん 途切れるようなと音が聞こえた。

 最後の方はどっちが悪いのかわからなくなるようなセリフに俺は思わず苦笑した。

 ああいうやつは嫌いじゃない、正直で大変よろしい。

 

 ドローンはいままで昆虫のような態勢から、頭部、胸部、腹部を水平にすると追跡・戦闘モードに移行するのがわかる。体を水平にまっすぐに伸ばし、超高速で動かしている羽もピンと伸ばす。

戦闘機の形態へと変化してその速度をぐんぐん上げてくる。

 

 そして松田聖子のベストは12曲目、Rock'n Rougeが流れ始めた。

 通常、人が意識して行動に移せる速度の限界は194k毎時。

 あとは勘と経験による予測になる。

 それを超えると肉体の方が限界を迎えるのだ。

 どれだけ鍛えていても肉体の物理限界は超えられないとされている。

 条件反射を超える速度で制御することは困難なのと意識はしても肉体がついていかない。

 だが俺は生身だがその1.5倍までいける。

 そこまで行くともう未来予知に近いらしいが0.003で起こることを認識。

 肉体的に対処するのは拳銃の弾丸を避けるのに等しいとか。

 ドローンがレーザーを積んでないのが幸いした。

 あれは気候状態で威力がかなり制御されるのでかなりの出力が必要で大気圏内では運用が難しいとされている。

 そして捕捉されたら人では対処できない。

 照射されたら回避するとか不可能、何せキラっと光ったら穴が開く。

 光るって言っても、周囲のチリを超高温で燃やしてるだけで、実質目には見えないが。

 ドローンに積めないとは言ってないが今回はその危険はなさそうだ。

 

 ドローンの下腹部のカーゴが開いて、アンテナみたいなものがニョッキリ伸びてくる。

 電子機器破壊電波照射装置、指向型の電子レンジ、マイクロ波を指定の範囲に撒き散らすEMP兵器だ。

 波というのは物質を貫通して広がる。 

 この車にはEMC装置もバッチリ完備しているが中の人間はそうはいかない。

 人工臓器やなにやらで盛られてたりするとイチコロだ。


 というわけでドローンがロックオンして電子機器破壊電波が照射されようとする間は0.3秒

 そのの間に範囲外に逃れるようにハンドルを切る。

 そのまま急速にブレーキを踏みながらハンドルを左手に持ちかえ、右手にこれまたレトロなグロッグ45口径のグリップを握りハードトップドアの窓から腕を出す。風圧が?気にするな問題ない。

 どちらかというとこの車に傷がついたら僕ちゃんないちゃうと心のなかで思った。


 急ブレーキによって車の横にまろび出てくる上空のドローンに狙いをつけそれでも呑気に流れる車内BGM似合わせて。

 鼻歌交じりに「♪ぴゅあぴゅあリップス」、ろくに狙いも定めず「気持ちは~」「yes」/Bang!! 同時にトリガーを引く。

 何事もリズムは大切なのさ。

 急ブレーキで後続の車両が追突しそうになるのを左手のハンドル捌きながら、たて続けにあともう1機のドローンにも同じ目に合わせる。

 射程ギリギリだったがなんとか当てることには成功して遠くに弾かれていくのがわかる。

 ドローン基本三機編隊で1組の運用が理想だ。攻撃役、監視役、連絡役兼記録係だ。

 あと一機の記録係はもっと上空にいるか後方だろう。


 俺の放った弾丸はその力を命中した瞬間にパワーを拡散するタイプでいうなればちょっと硬い金属バットで殴られたような衝撃が発生する。

 そのパワーは約12トン、空飛ぶドローンなど紙屑だ。人にあたれば跡形もなく爆散するがな。

 金属バットで殴られたドローンは装甲のおかげか弾丸のせいか、空中で分解されることなく姿勢を崩しながらぐるぐると回転し対向車線の向こうまで弾かれて海ヘ落ちていった。

 なまじ破壊されなかったせいでその間も電子機器破壊電波を撒き散らしていたため、対向を走る自走車両がまともにその電波を浴びて無秩序にスピンしながら、それでも車両同士の衝突を回避しようと、遊園地のコーヒーカップのようにぐるぐるワルツを踊っているのが見えた。なんでコーヒーカップなのかって?あいつらは回るカップを回る土台の上に乗せ更に土台を回してぶつかることがないからさ、身を乗り出さないようにな。

「しーらないっと。」と俺は心のなかで呟いてそのまま走り続けるのだった。

 そして、13曲目の聖子ちゃんの赤いスイトビーに耳を傾けることにした。

<続>


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