4.とある記録の惑星 (3)
3.GT-R
船が大気圏への突入準備に入るとの通知が表示されるくらいに目を覚ます。
まどろんでいたのは、多分小一時間くらいだろう。
トリプルDの技術により、ユメノカケラの地理、都市や街、気候、発展度など、ストラテジーゲームのような情報をある程度仕入れた。
手のひらを翻すとステージが俺の足元に移動してくる。
無重力状態でふわふわ浮いてるのだ足場は必要だろう?
俺は無難にステージから伸びてるスロープバーを掴み、指輪の側面をタッチして荷重システムを入れると、ようやく地に足をつける。
まあ、普通にベッドとかで寝れば良いんだが無重力睡眠の心地よさにハマってな。
最初はよく尻から落ちたもんだが、慣れたもんさ。
操舵装置やら計器類が白いアームの下からせり上がってきて、4人ほど座れるコックピットのようなものが形成される。
その1つの座席につき、通信回線をオープン、管制塔に連絡を行う。
「Hi.JACK!」俺は景気よく話しかける。
これは管制塔への常套句みたいなものだ。
管制塔から「Hi、Summer.Girl」と返答される。「夏のお嬢さん」この船の通称だ。
この行為そのものは、まぁ昔ながらのお約束のようなものだが……。
「今から大気圏に突入するけど撃ち落とさないでね。」というのを確認するためだ。
これをやっとかんとデブリ破壊用の無人ドローンに追いかけ回され、あげくのはてに高出力レーザーで攻撃される。
もちろん問答無用だ。
逆に無人ドローンを撃ち落とそうものなら多額の賠償金を請求される。
平和的かつ破壊意図の持たないものを破壊しようとするなんて何事だと。
ある意味無敵のドローンなのだ。
さらに、管制塔へのお願いは、責任の所在の取り決めを行うためパスワードが必要でそれをAIに任せようもんならバレたらどこの国も受け入れてくれなくなる。
個人的にはあまりどうでもいいのだが、仕事に差し支えるため、こればかりは無理しないことにしている。
遺伝子情報を軸に、音声パスワード諸々の五次元暗号コードが組み合わさって契約書が表示されるのは数秒。
量子暗号通信と、限定的プロトコル回線は
傍受自体は容易だが中身が常に変化しているため、他人が見れば異なる表示に見えるという特性がある。
まあ要するに俺以外が見たところでそれが何かわからない場合にはその時本人が見たいと物が表示されるという割と面白い仕組みだ。
なので、それが契約書であり内容の正しさを理解するのも俺が見た時だけなのだから、この方式の堅牢性は計り知れない。
これがAIに任せることができない理由でもある。AIが持ち得ないパラメータと予測アルゴリズムの成せる技である。
感情パラメータの変数の名前自体が個人によって違う上に、それがどういったものかを本人自体もわからない。ただただ、当人たちがアクセスした時だけ正しい内容が表示されるのだ。
俺は無事にこの惑星で最大の宇宙港に降りる準備が整うのを確認して、大気圏に突入させた。
しばらくして全天スクリーンの周りが赤光する。
空気中のチリが船体との摩擦で燃える光だ。
それが収まり始めるとスクリーンの赤光がうすれ、濃紺の空と水蒸気の塊、所謂雲の隙間を突き抜けていくと水色から今度は朱色にそまっていく、俺の行き先の現在時刻は午前5時。
朝を追いかけて闇の宇宙から帰還する。
俺の乗る船は垂直離着陸も可能だが、その技術は未だ発見されていないため宇宙港の汎用ハンガーに突入した。
あとはAIどもが自動で格納庫に納め始めるため生身の人間の用はなくなる。
重力に体を慣らす間も取らず、ステージ付け根にあるエレベータで格納庫へ向かった。
地上で移動するため、俺は数ある地上車のなかから先月ロールアウトした一台を選んで乗り込む。
STARTと書かれたボタンを押した。
イグニッションキーは刺さったまんまだ。
キュルルルルッグォンとエンジンがかかる音が格納庫内に響く。
こいつはもはやどこかで販売しているものでもない。
自前の工場で組み上げたユニーク品だ。
その元となったのは田舎惑星の片隅で海に沈んでいた残骸を元に再構成したものだ。
現在では珍しい、燃料は第三世代の化石燃料で走る車だ。
こいつを見つけたときのワクワク感と来たらいまでも忘れられないほどだ。
メテオフレークブラックパールのボディ、ごついフェイスにGTRの意匠。
直列6気筒のエンジンの振動は力強く車内にいる俺の全身にまで響き俺自身がエンジンと一体になったかのような錯覚を覚える。
アグレッシブなエグゾースト音は心の底から湧き上がる魂の叫びのような印象を与え、
外見は今となってはレトロカーだが中身は最新の技術の粋をかき集めて再構成させた。
そう最高の設備と最高の素材で組み上げた最高のマシンだ。
ちまたで流行りのAI自走型ののっぺりした車とは一線を画すそのスタイルは走りに対するこだわりと、走ることをただの移動という手段だけにとどめない何かを感じる。
設計者と製造者の思いが込められ、まさに走ることを目的に設計された車といっても過言ではないだろう。
もちろん燃料は化石燃料のままだ。
燃焼される時に出る匂いが堪らない。
ただ、ほとんど生産されておらず高価かつ入手自体困難だがこれも現代科学のおかげで錬金術のような機械を使えば、ちょちょいのちょいだ。
ま、そんな機械がゴロゴロしてるわけではないので普通にはなかなか手に入れることができないが。
オメガが少し大きめのランチボックスやら何やらを後部座席運び込んで
「いつ頃おかえりでしょうか?」 と問うオメガ。
「気が向いたらな」と答えた。
深々と頭を下げ俺を見送るオメガをバックミラーに見届けながら、宇宙船の格納庫エレベータから宇宙港の搬送用エレベータにゆったりと車をすべらせた。
搬送用エレベータの上昇、自動的にゆっくりと開く扉の隙間から滑り込んでくる朝の光は俺の高揚をいや増してくれる。
その先は宇宙港から構内道路をへて沿岸部へと続く道路に出た。
海岸線の朝焼けに照らされ、新鮮な外気を取り入れようとウィンドウを開ける。
さわかかな潮風にさらされながらのドライブを俺は思う存分楽しむことにした。
<続>




