4.とある記録の惑星 (1)
記録編 :SF
記憶編:現代
という感じで進めております
1.青い惑星
無重力の中に僅かに浮力を感じる、それは大きな質量に近づいたときにおこる僅かな重力の揺らぎ。
それが、右手にかすかに残る温もりを持った小さく柔らかい感触を呼び覚ます。
誰かの手を引いているような既視感は一瞬。
そんな僅かな一瞬など心にもとどまらないが確かに感じたはず。
視覚に意識が集中してその美しい光景にそんなことは忘れてしまう。
美しいなんておこがましい。
眼下に見える青い球体は宇宙空間に安定して存在するための形。
正確には自転回転軸を中心に若干膨らんでるらしい、らしいってのは肉眼でそれを確認できないし膨らんでいたとてそのように見えなくても何も問題はない。
そう、スケールが根本的に違う。それはもう想像の埒外に。
天文学的数字とはよく言ったものだ。
ヒトがいまだ1つの恒星圏内で右往左往しているのは、その数字を制御しきれないからでもある。
ヒトなんてそのスケールの計算上でいけば、切って捨てる、いや存在そのものの価値すらもない。
地上から500Kmくらいはなれてようやくその全貌をみることができるそれは青と白のマーブル模様の丸いガラスの板のようだが端っこのほうが若干ぼやけて見えるのは空気があるから、そして輝いて見えるのは、光を反射してるから。自ら光を放っているわけではない。
要するにいろんな物質が重力に押し固められて構成されているのが惑星で、押し固められている物質で固体や液体として存在し、それがヒトによって都合がいいかどうかで生きていけるかどうかが決まるというわけだ。
夢やロマンがない?夢ってのは空気か?ロマン?それは水かなにかか?
夢やロマンなんかなくたってそこに空気と水があればヒトは生物としてはやっていけるだろう?
まぁここで見る光景も実は映像であるといわれても違和感がない。
全天型球体フルスクリーンに写っているのがカメラ映像ではなく電気信号に変えられてここで表示されているのだ。
外に出て確認してもいいがちょっとめんどくさい。
画面には外の映像だけでなく物体の名前が振られており、各種人工衛星やデブリとそのデブリを破壊するためのドローンの編隊も表示されている。そして足元には先ほどの青い惑星がほぼ埋めている。
肌で実感できないものを存在するといったところで誰も信じないだろうが、現在俺は人類発祥の地から2万光年くらいはなれているとある有人惑星の衛星軌道よりやや遠くを航行中だ。
ただし、実は今ここにいるところが映像の中だったところで俺には判断できない。
まぁ気にするな。これはそういうものだ。
全天型球体スクリーンという約30メートルの直径を持つドームの中心に浮かぶように白いフレームが伸びていてその先端にステージのような場所がある。
ステージは12メートル四方の広さがあり柵やら椅子などの家具なんかはない。
もちろん端っこから落っこちれば20m下に真っ逆さまなのは地上と変わらない。
俺は擬似砂浜から出た後、軽くシャワーで汗を流し、ドレスルームでいくつかの装備を身につけたのちここに立っている。
ま、いつものルーチンだ。
立っているはまさにその言葉そのもので、この宇宙船には加重システムがあり下が定義されているため普通の活動にほぼ支障がない。
無重力のなかにブーツが床にくっついてるわけではなく質量のあるものが引力にひかれている。
まぁ、地上となんら変わらないという理解でなんの問題もない。
諸元や装備?長くなるからそのうちな。
件の娘が消えたと言われる場所に向かうため、恒星間を移動したばかりだがすでに静止衛星軌道を周回中。
たまに発生する誤差は自動で補正されている。
そしてその周回軌道中心、眼前に広がるでかくて丸いガラス板。
人類が3つ目に見つけたといわれる居住可能な惑星 ユメノカケラ。
まぁさっきもいったが人類にそんな物を見つける力はない。
人類発祥の地より少し大きく、加速度はほんの少し重い。
そして右上と左上に大きな月と少し小さい月がある。
ここがかつて地球と呼ばれた惑星ではないことを実感させる。
この二つの月はユメノカケラの衛星で、人類発祥の地でいうところの月だ。
便利だから月と称することにする。ちなみに大きいほうがアマテラス、小さいほうがスサノオ。
この星系の中心となる恒星はちょうど大きな月の裏側だ。
星系の名はHK-JP01 はくちょう座銀河団の上のだったか下の方か右の方の左側、ってまぁ細かい座標は言ったところでわからんだろう。
数十桁近い数字を、4次元 縦横高さ+時間で伝えられたところでパッと理解することが人に可能なのかはわからん。
宇宙を基準に考えると、そこにある宇宙船は、とある定点座標に基づき相対的に同じ位置にいることで座標上は停止しているように振る舞う。
それがこの広がり続ける宇宙で絶対的な座標は定点座標を維持するのに移動しているのだ。
なので基本星系内における宇宙船の座標は、中央恒星の引力圏の中心座標で算出することになっている。
恒星系内の標準時刻と位置座標を伝えることで現在位置を知らせることができる。
何が言いたいかって言うと……だ。
宇宙基準の座標指定であそこに敵がいるからやっつけてこいの難しさがわかるだろうか。
現代レーダーの補足範囲で実用レベルで言うと10万Kmもあればいいところでそれ以降はいろんなゆがみの影響で実は正確に捕捉することはできない。
宇宙空間で1Kmも離れてしまえば 物理攻撃で移動する物体になにか当てるのっていうのは、かなり難しいのだ。
それこそ相対速度をピッタリ合わせて100Mくらい近接すれば当てることは可能だが。
結局、宇宙戦争とは局所発生する小競り合いにも発展せず、資源戦争も争った所有権を主張したところでその無限とも言える空間を管理しきれなかった。
そもそも人的資源も足りていないのだ。
人類が宇宙空間に生活の場を移せるくらいのことができるようになって200年くらいってところだが実際には、進出といっても恒星圏、太陽系軌道をやっと有人でやっとなんとかしようかと言うレベルだ。それも何十年もかけて。
ではどうやって、何万光年も離れたところに人類が蔓延っているか。
分かりやすく言うと人は空間転移を利用可能になっていた。開発したわけではない。
まぁその辺のめんどくさい話は割愛する。
で、故郷の星はどうなってるか?
その話もそのうちな。
俺は、惑星ユメノカケラ最大の宇宙港、極東国際宇宙港への着陸準備をAIに任せて荷重システムを切る。
軽く床を蹴ってふわりと体を浮かせて、少し微睡むことにする。
そういえば焼きそばの作り主やら何やらの話をしてなかったか。
同居人というと人のようだが、この船にはAl制御の自立アンドロイドが3機いる。
アルファ、ベータ、オメガがそいつらの名前だ。
船の制御や俺に飯を作るなどの生活面は主にアルファが担当。
別に頼んじゃいない。
オメガは調査用インターフェースでお出かけ用。
身体性能、演算速度が他の姉妹と違い格段に高い。
実はAI同士で喧嘩すると最初に折れる。
AIのくせに喧嘩までするのか?と思うかもしれないが、不完全性という揺らぎ、ストレス、好み等が奴らには存在する。
彼らの自己学習の結果なのだそうだ。
まぁ、もともと——は、生臭い話だが義体、機械の体で性別すらなかったらしい。
ま、これも話せば長くなる。
あとベータは現在メンテナンスで不在。
ちなみにベータの主たる理論は予測推論。
ま、それぞれ特性はあるのだが、そこあたりはおいおいわかるだろう。
奴らは自分たちを三姉妹と称しこの船と共に転がり込んできたのが去年。
ちなみに、まるで押しかけ女房のように甲斐甲斐しいわけでもなく、じゃぁ俺のために存在してるかと言うと
そんなことはない。
全く持って、全然、さっぱりな。
そして何よりも————だ。
九重家の三姉妹はある界隈では有名。
脱法AI。
自らをAIだと自分たちで名乗りはするが、現状の技術上の解析ではAIであることを証明することができない。
持続可能細胞、永続再生可変遺伝子を組み込んだ体細胞を持つ。
味覚はがあって飯は食うわ、好きな色まである。
人と何が違うか、一番わかり易いのは生身で宇宙空間に放り出しても活動可能という点だろう。
なんとも都合の良すぎる生命体?!
かどうかは、いろんなところから文句が出そうだが…… 。
ま、結局このご時世でも、生命とはなにかという基準はない。というより決めてしまえない。
ちなみに、人造人間でもない。
むむ、説明が説明を要求し始めるな。
ついでに九重家の話をしよう。
九重家とは鎌倉時代以前から続く老舗の異物管理を生業とした家系だ。
異物っていうのは、そうだな。
例えばコスタリカの石珠、本物は浮くんだ。あそこに残っていたのは残骸でな、この船の亜重力制御機構の根幹となる基礎設計の基となってる。
他にはソロモンの書、ホノリウスの制約の書というのもあってな、その中でも一部本物の呪文があるんだよ。まぁその中のカオス理論と合わせて、AI三姉妹の基礎カオス理論に組み込まれてるって噂だ。
他にも水晶の間のオリジナル、金剛石のレンズとかもあるにはあるが、あれは観賞用。
あと、某将軍家、徳◯の埋蔵金は存在しない。
実際、徳◯の埋蔵金といわれているが、実はあれは寝小便の裏長屋の隠し金だ。
当時、南本庄っていうから江戸なんだが裏長屋のお琴っていう女が一人で住んでいた。
そのお琴が生んだ男の子がいてな、これがまた寝小便ばかりする、ちょっと頭のあれな子で。
だが、その寝小便の染みが、あろうことか隠し金の地図になっていたんだ。
それを探し当てたお琴がどんどん羽振りを良くしていくのを長屋の連中に見つかってな。
お琴はそれをみんなで山分けすることで隠したんだ。
そうはいっても噂ってのはどこからともなく広まるもんで、当時の役人がそれに目をつけて探りを入れてきた。
その時に「子供のおねしょの地図だ」という話を聞いた役人どもはそれを与太話と切って捨てた。
……まぁ実は本当だったって話だ。
使いきれない金の隠し場所にはな、お琴の息子の寝小便布団の写しとともに千両箱が隠されてたって話さ。
何で知ってるかって?
それは内緒さ。
おれは無重力に体を任せ少し微睡んだ。
ただし九重家の微睡は睡眠とは違う。
精神リンク、物理現象プロトコル、記憶データベースによる学習時間だ、わかりやすくいうと夢で勉強する。
通称、トリプルD ダイナミック・ドリーム・ディープラーニング。
全くもってありがたいシステムだ。
今回の依頼に対する情報が主な内容である。
<続>




