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3.とある記憶と始まり(5)

5.17歳(下) 

 day 2


 私は、ハッとして目が覚める。

 見慣れない天井とその天窓から差し込む薄い光に目を細めキョロキョロと周囲を見渡す。

 ぼんやりとした頭が、徐々に覚醒していく。


 隣のベッドでは母がまだ気持ちよさそうに眠っていた。

 ロフトのフェンスから下の様子を覗き込むと、ケイさんがノートパソコンの画面を静かに眺めていた。

 時計を確認すると、午前5時少し前。

 この人は、一体いつ寝ているんだろう。

 そんな疑問がふと頭をよぎる。


 けれど、目が覚めた時に誰かがそばにいてくれる光景が、なんだか新鮮でそしてどこか嬉しかった。

 

 ハッとして、慌てて鏡を取りだすと少し身だしなみを整える。

 ロングTシャツに短パンは少し刺激が強いだろうか。

 まぁいっか、水着みたいなもんだしという謎理論を思いついて納得した。

 

 「ケイさん、おはよう。」

 「うむ」

 あれこっちを見ない……

 

 「着替えてきたまえ、コーヒーを淹れよう」

 「っ!」

 私は急に恥ずかしくなって慌ててロフトに駆け上がった。

 そうだ。私は家族でも娘でもない、ただの『寝起きの無防備な私』だ。

 いくらケイさん相手とはいえ、見せていい格好ではなかった。


 バッグを開け服を選ぶ……

 (選ぶ……?なんで私、こんなに服を持ってきてるんだろう)

 と、今さらながらに自分の荷物の多さに驚いてしまった。


 大きく首元がカットされたTシャツ、昨日のジーンズを履いて降りた。

 淹れたてのコーヒーのいい香りがドジで馬鹿な私を癒してくれる。

 

 「お、おはよう」

 過ぎたことは消えないのに、リセットしようという悪あがき。

「あぁ、おはよう」

 そういうとコーヒーポットからコーヒーを注ぎながら。

 「朝飯にはまだはやい」

 「お母さんもまだ、寝ているだろう」

 (そういえば、この人は母のことをお母さんというなんでだろう。)

 

 今日の彼の装いは濃紺の作務衣。あれはお母さんが選んだ服だ。

 年相応にも見えるけれど、どこか職人のようにも見える。

 ……人とは勝手なものだ。

 その印象すら、私のひどく独りよがりで勝手なイメージに過ぎないということに、私は今更ながら気がついたのだった。

 

 じっとケイさんの横顔を眺めていると――彼は静かにノートパソコンを閉じた。


「少し走るか……」


 ケイさんはそうぼそっと呟くと、部屋の奥へ消えた。

 私はその背中を、バレないようにそっと見つめてしまう。


 やがて、ケイさんがコテージの玄関の戸をくぐるのを見送る。

 コーヒーに口をつけると、ほのかな苦味と酸味で少しだけ気分が落ち着いた。


 そして、ハッとする。


「あ、待って、私も行きたい……!」


 その声がケイさんに届いたかどうか……。

 ‘行きたい’と言っても、ただ助手席に座っているだけだけど。


(それにしたって、誘ってくれてもいいじゃない……)


 と言いかけて、口に出すのをやめた。


 昨日の、母の言葉が気になるのだ。


(私たちは勝手に都合よくケイさんを見ているけれど、もしかして、本当はひとりになりたいのかもしれない)


 そう思うと追いかけられなくなり、玄関を出ていくケイさんの背中を見送ることしかできなかった。


「なに? いかないの」


 不意に、頭上から声が降りてきた。


 びくっとして見上げると、ロフトのフェンスから顔を覗かせた、まだ眠そうな母の姿があった。


「あなた、人に言われたからって気にする子だったかしら」

「はぁ……そんな子に育てた覚えはないんだけどねぇ」

「でも、ほんとにそう(行くのをやめる)なら、行くのはおよしなさいな」

「ふぁぁ……私はもう少し寝る」


 一気にそこまで言うと、眠そうな母の顔は奥へ引っ込んで見えなくなった。


 ◇


 私は急いで玄関を開けた。


 外には、車にもたれかかりながら煙草をふかしているケイさんがいた。


(何よこの人……もしかして、私が出てくるのを待ってたの……?)


 勝手な想像が膨らむ。


 そして、私は気づいてしまった。


 ………………。


 たぶんそれは――その感覚は、生まれて初めて抱く感情だった。


 何も言わず、何も聞かれず、助手席に乗り込んだ。

 ケイさんはゆっくり車をスタートさせる。

 今日はあの人の歌もない。

 エンジン音とその振動が静かに体を支配していく。

 ——————

 海岸沿いの道を進んでいくと、大きな山の連なりが見える。

 暁が空を薄く赤く染めていく。

 世界が変わっていくような感覚。

 山の影が吸い込まれるように光に侵食されていくのがわかる。

 言葉なんかいらない音もいらない。

 その感動的で美しい光景に私は息を飲んだ。


 「悪いが、たばこを吸う」

 彼はお腹に響くような声音でそう言った。


 私は黙ってうなずく。

 その横顔は悲しげで寂しげ。だけど、まっすぐに真正面だけを見つめている。

 世界は暁に染まろうとしているのに、その目だけは黄昏を見続けている。

 そんな気がした。

 

 何がこの人をそうさせてしまったのか。

 なぜこの人はそうなのか。

 その思いは強烈な好奇心となって私の心を支配したのだった。


 道は舗装された山道にさしかかり、山の影を追いかけるように登っていく。

 少し荒い運転に、視界の端で世界が目まぐるしくぐるぐると回る。

 私はそれが怖くてシートベルトを握りしめたまま全身が強張っていく。


 いよいよ息を詰まりそうになった頃、車は街を一望できる展望台へと滑り込んで、私はホッとした。

 ケイさんは車を降りると迷いのない足取りで自動販売機に向かい、缶ジュースをカコンカコンと買っている。

 そのまま展望デッキへと移動しながら振り返る。

 私は震える身体を奮い立たせ車から這い出るように降りた。

 「大丈夫か?」

 と気遣うような、ちょっと申し訳なさそうな声。

 

 私は頷いて恐る恐るケイさんの近くに行くとアップルジュースを手渡された。

 

 俺は早朝のドライブが好きだと珍しく自分のことを語りはじめる。

 誰も聞いてないかのように独り言のようにケイさんは話し続けた。

 「一人で、エンジン音だけ聞く、他人が居ない世界は生も死もない」

 その後に続く言葉を聞いてしまっていいのか不安になる。

 「他人がいないと生きていけないのはわかる、その外側に立ちたかった。」

 「親に捨てられ、友人に裏切られ、この世界に自分以外の他人の存在を切り捨てることで自分を補完してきた」

 

 「俺は俺のためにしか行動していない」

 「だから、俺に気を使うのはお勧めしない」

 「そういう思いは、勘違いだと思う」

 「俺の行動は究極的にシステム化された、他者とのつながりの責任を他者に依存しないための仕組みなんだ」

 その残酷な言葉。

 そして母から聞いた『泣いてる女が嫌い』。

 その言葉が私の心を押しつぶそうとしながら、 それが逆に私を踏みとどまらせる。

 

 私は太陽の光に目を細め、でもそれを見つめる。

 太陽が昇る、眼の前の影が光に侵食されているのがわかる。

 光で周囲の気温が上昇していく。

 そして…… 

 『はぁ、そんな子に育てた覚えはないんだけど……』

 母の言葉と、天空に登りゆく太陽の輝きが、私の心を再生し再起動させる。

 知らなかった自分、無知な自分から、知っている自分に変わる。

 私は私がようやく始まるのだという確信。

 時折、私の心を揺さぶるケイさんへの思い。

 ただの音としてしか聞こえないそれは、言葉としての意味を持ち始めようとしていた。

 

 「そろそろ戻るか、あれが目を覚ます」

 ケイさんは母をまるで怪物のように言った。

 「うん!!」

 と大きく頷いたのだった。

 

 ——————————

 コテージに戻るとケイさんはテキパキと朝食を用意する。

 メニューはフレンチトーストにバニラアイスを添えてシナモンパウダーの香りが漂う。

 ボールには、フルーツヨーグルト、桃、バナナ、キウイ。

 そしてベーコンエッグ焦げ目を最小に抑えた半熟たまごの黄色がきれいにまんまるで食欲をそそる。

 白米の炊ける匂い、そして味噌汁があった。

 誰がこんなに食べるんだろうくらいな量が用意されている。


 母を起こしにいけと無言の圧力。

 あの人の寝相の悪さを知ってるのかこの人は。

 いや、そうではなくったって起こしに行くのは私の役目だ。

 

 「起きて、そして着替えて!」

 私は母のベッドのそばに仁王立ちでそう言った。

 母の格好ときたら文章にするにも憚られる。

 「ちぇっ」 

 舌打ちを打つともそもそと起き上りながら私をちらりと見て渋々着替え始める。

 見張ってないとそのままロフトから降りてきそうで危険だ。

 

 ロフトを降りてくると 「おはよ、ヒラヤ君、私コーヒーね」とサラッと言いのけて座った。

 「相変わらず豪勢ねぇ」

 と感想を言う母の眼の前に私は、ゴトン!と、コーヒーポットとコーヒーカップを少し手粗めに置いた。

 

 それを見たケイさんの口の端があがるのが見える。

 あれは笑っている、それを浮かばせたのは私だと思うと、私は何か辛いことがあってもあの笑みを思い出しして頑張ろうと思うのだった。

 

————————

 今日はスキューバダイビングだ。

 なんとケイさんはライセンス持ちらしい。

 

 車でスキューバダイビングのクラブハウスに向かう、といっても十分もかからないのだけど。

 そこで初心者の私はレクチャーを受けることになったが、インストラクターライセンス持ちのケイさんがいるということで説明は簡単だった。

 

 ライフジャケットに酸素ボンベを背負う。

 結構重くてケイさんが手伝ってくれる。

 かなり近い距離感で接していることで私の気持ちは舞い上がってしまう。


 母は待ちきれず、海に入っていた。


 ケイさんは、何があっても慌てるな。

 この人無茶言うわ、と思いながら頷いた。

 必ず呼吸をすることそうしないと水圧で肺が潰れそうになる。と怖いことを言われる。

 そして耳抜きの方法。

 など気をつけなければならないことは多い。

 一通りのレクチャーに30分くらいかかる。

 

 浅い深度で十分ほど練習につきあってくれる。

 まさしく手取り足取りだ。

 緊張感とケイさんの距離感に少し戸惑いながら、筋がいいと褒められて私は落ち着きを取り戻す。


 そして本格的に潜り始めるとなかなか沈まない体に戸惑っていた。

 そしたら、ケイさんが手を引いてくれた。

 手の温もりと大きさに緊張してしまう。

 

 子供の頃図鑑でしかみたことないような魚、小さくてキラキラ光る群れ。

 全てが青い世界は神秘的だっけど、ずっと手を引いてくれるケイさんに気を取られてしまう。

 

 そして気がついたら自分で海中を漂っていた。

 いつのまにか海に魅入られたように自由に。

 ……少し向こうに母が見えてこちらに手を振っているのがわかる。

 ケイさんの姿は見えないが母の近くまで進むと母に手を引かれもう少し深いところに連れて行かれた。

 水深12メートル。

 上下感覚が無くなりそうで不安になった。

 太陽の光が海の揺らぎに合わせてカーテンのように降り注いで見える。

 かろうじてそちらが上だと思い安心する。

 その光の影からケイさんが現れて思わず手を伸ばしてしまう。

 上へ上がるジェスチャーをしながら私の手を引いてゆっくり浮上していく。

 彼に引っ張られてると言う感じが私を満たしていく。

 天にも昇る思いとはこう言う感覚を言うのではないだろうか。

 水面が近づくと私はもう少しこのままがいいと思ってしまった。

 だが浮力は現実に引き戻してしまう。

 

 青い世界から光の世界に戻った感覚。

 浮力と重力の逆転する感覚に目が回りそうになる。

 手を握ってくれているケイさんの手の温もり。

 それだけが私の混乱する身体を安定させ、その全てが新鮮でまたやりたいと思った。


 小型ヨットに引っ張り上げられると思わずよろめいてしまう。

 水中の浮力で体が本当の重さを忘れてしまったのだろう。

 私は船内に案内されてへたり込んでしまった。

 

 そしてそのまま釣りに向かうらしい、怒涛のスケジュール。

 船内で軽く休憩してるとウィンドブレーカーを羽織った母がやってきて、大丈夫?と声をかけてくれる。

 お昼ご飯そろそろ釣れそうよと言って笑う。

 そういえばすごく空腹なことに気がついた。

 あんなに朝ごはん食べたのに。


 船外に出ると、潮風が気持ちいい。

 船は波に揺られているが体幹は割と鍛えられてるせいか気にはならなかった。

 そして目の前に並ぶ料理の数々。

 鯵の塩焼き、サザエの壷焼き、岩牡蠣は生。

 なめろう、イカは刺身と丸焼き。

 船上バーベキューだ。

 

 ケイさんは料理をしながらなワナワナと震えている。疲れてるのかと思っていたら、その後ろから声がする。

「これで飲めないのは辛いだろうなあヒラヤ」と知らないおじさんがケイさんに絡んできた。

 小柄なのによく焼けた逞しい体。

 ランニングシャツにジーパン。

 裏表のなさそうかな人だった。

 

 それに同調する母。

 「まあ気にせず飲め!」とお酒を勧めにかかる。

 どうやら海の幸を前にお酒を我慢して震えていたらしい。

 ケイさんは車の心配をしたが、帰りは近くまで送ってくれるらしいとのことでビールのプルトップを弾くのだった。


 船長はケイさんの高校時代の担任で森さんというらしい。

 お前の子と嫁?なんてねーな、お前に限って。

 こんなべっぴん二人どこで拾った?

 お前また面倒ごとに巻き込まれてねーか?

 ハハハと笑いながらケイさんの背中をバンバンと叩く。

 『面倒ごとって失敬だわ』と私は思った。

 

 「え?」「あぁ……」「まぁ……」「そうですね」 ばかり言うケイさんに対して森さんは饒舌だった。

 「そう言えば信幸は元気か?」

 「ん?」

 「なんだ?信幸の嫁と娘?」

 「お前、まだあいつにふりまわされてるのか?」

 「うーんどうなってるんか、まぁ詳しくは聞かんが」

 「お前のことだから心配はせん、損だからな」

 「しかし困ったやつだな」

 「だが、それがお前らしいといえばお前らしいな」

 森さんはこちらに向き直り、私たちを見ながら言った。

「こいつはな面倒ごとになぜか巻き飲まれるというか、なんというか」

「それも望もうと望まなかろうとな。」

「その時の最善がわかるんだろうな。」

「じゃあそれを誰が担うのか。が問題でな。」

「こいつは全部、自分でこなしちまう」

「こいつ、器用だろ?」

「で、絶対貧乏クジを引く、貧乏くじだとわかってても引く」

「それも一つや二つじゃない、全部引く」

「おかしなやつだと思ったが」

「多分、子供の頃にいろいろあったみたいでな」

「自分の力不足を、どうしようもない形で思い知らされたんだと思う」

「何があって、こんなやつが出来上がったのか」


「その片鱗を見た時は、正直恐ろしく思ったもんだ」

「ま、悪いやつではないよ、いいやつかと思えばそうでもないがな」

 あの展望台の自分語り、わたしたちに付き合う理由、それは過去の彼の経験からくる本能の奥底に秘められた疵。

「先生、勘弁してください。」

 私はケイさんのその言葉にハッとした。

 可哀想、そう感じて涙が流れそうになった。

 私は慌てて顔を背けそれを我慢する。


 泣けない女は悲惨———

 母の言葉の意味を実感する。

 涙を我慢するのがこんなにつらいとは。

 

 泣くという行為はなにかから逃げるため、何かを忘れるため、何かを許すための行為だ。

 泣けないというのは、逃げない、忘れない、許さないのだと。


 鼻の奥がツンと痛くなる。

 砕けそうな想いに歯を食いしばる。

 その姿をケイさんに見られてはいけない。


 震えそうになる声を我慢しながら「トイレ」と言って船内に逃げ込む。

 深呼吸をするたび涙腺が決壊しそうになる。

 何かの拷問かと思い始めると少し楽になった。

 深く息を吸い、深く吐き出す。

 ——落ち着きを取り戻し始める。

 せっかくの楽しい旅行なのだ。

 ——涙腺の防波堤を補強する。

 何も泣くようなことはないのだ。

 ——そう、過去があるから今の彼がある。それは否定できない変えられない事実だ。

 私が惹かれてるのは過去ではない、今なのだ。

 そうして私の心は復活した。

 

 デッキに戻ると、酔っ払ったケイさんと母が話している。

 「泣くなよめんどくさい」

 ひどい言い草だけどケイさんの気持ちがわかる。

 「のぶゆきのやつ…………」

 どうやら父の愚痴らしい。

 私はあまり思い出がないから、その気持ちはわからなかった。

 「いいな、お酒、私もすこし……」

 なんて冗談めかして会話に滑り込む。

 「自分の金で飲む分には止めはせんよ」ケイさんらしい言葉。

 「じゃぁバイトしようかな」と私。

 「お酒飲むために?バイトするの?まるでアル中じゃない」

 母が呆れて笑った。

 サザエと牡蠣が美味しいって食べていたら、

 「将来有望な酒飲みになれるな」とケイさんが笑って言うのだった。

 あぁこの人もお酒飲むと饒舌になるんだなぁ。

 と思うのだった。


 森さんはそろそろ帰んべぇと言って、スキューバクラブのハウスまで戻ってから軽トラでコテージまで送ってくれる。


 「見つかるとヤバいが」と言いながら、私とケイさんはその荷台に乗っていた。

 あれはすごく気持ちよかった。

 オープンカーに乗る人の気持ちがわかる気がした。


 あっというまにコテージに到着する。

 お酒の入ったケイさんは面白く、「少し寝るといって」、歯をむいて母を威嚇すると、1Fに陣取った自分の部屋に滑り込んだ。

 

 私はケイさんが撮ったバナナボートの写真を見ながらソファでくつろいだ。

 ヤバい写真がたくさんある。

 ちらりと母を見ると、ケイさんの部屋に忍び込もうとしてドアをがちゃがちゃするのが見えた。

 ガコンとなにかがぶつかる音。

 何事か、と母のところへ見にいったら。

 内開きの扉の向こうに家具をおいてバリケードが設えてあってえらく驚いた。

 

 この二人は一体何なんだろう。

 その二人の奇行にひとしきり笑った。


 ソファに戻ってうつらうつらしていると西日が顔を照らして目が覚める。

 そして、この旅行も明日で終わると思うと少し憂鬱になる。

 一人になりたくて、コテージの外へ出る。

 フェンスに肘を預け、夕日を眺めながら、涼しい海風に身を任せた。

 

 怖かったり、びっくりしたり、綺麗だったり、楽しかったり、恥ずかしかったり、悲しかったり。

 全部含めて自分だ。

 彼と同じ時間を過ごせたことが……なにより嬉しかった。

 

 それは忘れられない、魔法のような夏の思い出になった。


 <了>

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