#9 あり得ないことはここにはない
人生は
「ここは「天藍舎」テンランシャが店名のヒーリングサロンとギャラリーを併設しているところなの」
「・・・・・」
驚愕は度を越えると声も出せない状態に陥る。
一字違いとは云え、菫青を別世界へと導いたあの怪しげなギャラリー。
その名も「天藍堂」と相まみえる場所がここにあるのも胡散臭い話である。
自分は本当は夢を視ているのだろうか?疑問は疑惑へと変容を遂げる。
「キンセイ、どうかした?」
見上げた看板を凝視したまま微動だにしない姿を訝る。
「キッカ。まさか、この店にシーラカンスなんていないわよね?」
半信半疑、恐る恐る訊ねてみる。
「シーラカンス?ああ、太古に棲息していた古代魚のことね。生きた化石とも云われているやつね。それならこの店にも一匹いるわよ」
「え!マジで?」
信じ難い話に驚きを隠せない。
「別にこの国では珍しいものでもないわよ。どこにでもいる魚よ。池にも川にも森にも空にもいるわ。彼等は水の国のシンボルでもある魚なの。飼ってる家も多いのよ」
菊花の話す内容に益々驚かされる。
海の魚だと思っていたシーラカンスが淡水でも水のない空でも生きているなんて菫青にとっては本当に御伽噺である。
「クレイジー。信じられないことばかりだわ」
やはり自分は夢を視ているのかも知れない。
そう思わずにはいられない。
「そお?キンセイの住んでいる世界にはいないの?」
不思議そうに訊ねる菊花であったが、菫青が別次元からやって来た存在であると感覚的に気付いていた。
「キッカが云ってた通り、アタシのいる世界のシーラカンスは海水でしか生きられないし、棲息地域も限られているわ」
ここは異国の地に来たのだと思う方が色々と納得出来るのかも知れない。
「ええ?そうなの?やはりあなたはこの世界以外からやって来た人なのね。とりあえず、中に入りましょう。ちょっと変わった店主がいるけど、気にすることはないからスルーしていいわ」
『ちょっと変わった店主』それで思い浮かぶのは菫青が立ち寄った「天藍堂」の主人の顔だ。思い出すだけでナゼかムカついてくる。
そして、「天藍堂」のスタッフでもある紅玉と青玉のメイド風の制服を着た二人の少女達も店主と同様に充分怪しいと思える。
「キンセイ?どうかした?」
突如黙り込んでしまった菫青を心配気な睛が見詰めている。
「いえ、ちょっと考え事してただけ。色々と訊きたいこともあるから、後で質問に答えてもらえるとありがたいわ」
「ええ、もちろん。私もあなたに訊きたいことがあるからお互い様ね。さぁ、どうぞ」
手動の扉の把手を手前に引いて開くと、菊花は菫青を店内へと誘った。
「あっ」
店内へ足を踏み入れて、驚きを隠せず思わず声音をあげてしまう。
目の前にあったのは、かの「天藍堂」にも設置されていた古代魚の水槽であった。
水の中で多数の尾ヒレを優雅にくゆらせている姿は「天藍堂」のシーラカンスそのものだった。
「キンセイが云ってたシーラカンスって、この魚のこと?」
薄暗い店内のスポットライトに照らされた水槽が中央に設置されているところまで酷似していた。
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驚きの連続である




