#10 「天藍堂」と「天藍舎」
「天藍舎」と
「そう、その魚も水槽の位置までもアタシが立ち寄った「天藍堂」とそっくりよ。一体、どうなっているのかしら」
「テンランドウ?」
「ええ、アタシは「天藍堂」と云うギャラリー兼カフェからどうした訳か知らないけど、こっちの世界に飛ばされたみたいなの。ただ夢を視ているだけなのか。ファンタジーなのか。リアルなのか分からないわ」
内装も似ていると思う。
だけど、菊花はヒーリングサロンとギャラリーだと云っていた。
「アタシが立ち寄った「天藍堂」の店主の名前は「京極天藍」だったかしら?それと「紅玉と青玉」と名乗る二人の少女スタッフがいたわ」
まさか、そこまで一緒である訳はないだろうと踏んで菊花の顔を見ると、両目を見開き心底驚いたと云った表情で菫青を見ていた。
何か可笑しなことを云ったのだろうか。
「驚いたわ。キンセイが今、口にした京極天藍はここの店主よ。女性スタッフも二人いるわ。一人は「ルビィ」もう一人は「サファイア」キンセイが云ってた紅玉と青玉はまさにルビィとサファイアのことよね」
今度は菫青が再び驚く番だった。
「えっうそ。まさか同姓同名?同一人物なんてこと本当に有り得るものなのかしら。その三人に逢うことは出来るの?」
ここまでシンクロが続くなら本人達か確かめてみたいものだ。
「ええ、逢えるわよ。今日はいるはずよ。ちょっと待っててね。今、呼んでくるわね」
菊花が店舗の奥へと姿を消すのを見送ると、菫青は目の前の水中に揺らぐ古代魚に視線を移し、ぼんやりと思考を巡らしていた。
どうやら彼等と対面出来るようだ。
『やあ、お嬢さん。ごきげんよう。こちらの世界はどうだい?』
シーラカンスの声が耳ではなく菫青の脳内に直接響いて来る。
「えっどーゆーこと?アタシはやはり夢を視せられているのかしら」
『夢と思うなら夢。現と思うなら現。感じ方はあなた次第だよ』
「それは随分と無責任な云い方ね。率直に云ってここにいるアナタはあの「天藍堂」のシーラカンスなのかしら?」
『率直に云ってそうだとも云えるし、そうでないとも云える。なぜなら、私はひとつではない。あらゆる世界あらゆる次元に存在している。だが、どれも私自身に変わりない。あくまでも、私は私である』
「云ってる意味が分からないわ。とても難しい哲学すぎる。アタシはアタシがどこにいるのか分からない。夢にしてはリアルすぎるし、ここはアタシが生きている世界から見れば全てがファンタジーでしかないわ」
魚が空を飛び、木々が水晶で出来ていたり、何よりも自分の母親と顔がそっくりの菊花は名前まで同名だ。
『世界はいくつも重なり合っている。どの次元にいるかは自分次第なのだよ。そこにいる選択肢はあなた自身で決めていいことなのだ』
「どの次元にいるかはアタシ次第。どこにいてもアタシはアタシ。そうね。それならこの世界と向き合うことにするわ」
『そうか、その選択が今のあなたの最善なのだろう』
「ええ、そのようね。応えてくれてありがとう」
『思う存分、楽しむといい』
「それはどうかしら、たのしめればいいけどね」
古の魚との会話を終える。
「とりあえず、他に行くとこないから、ここにお世話になろう」
気を取り直すと菫青は改めて室内を見渡す。
部屋の中央にはシーラカンスの水槽が設置されている。
それを取り囲むように半個室のセッションエリアらしき場所が五つ配置されていた。
半円形のソファーに少し大きめの丸テーブルが設置されていた。
リーディング用のカードを広げても充分余裕のある広さである。
シフォンレースのカーテンで仕切られたセッションスペースにはテーマカラーがあるようだ。
ホワイト、ピンク、ミントグリーン、ブルー、イエローの五色に色分けされていた。
そして、壁には額装された絵が飾られている。
「この絵はゼンタングルね。この世界にも存在しているなんて、まさに次元を超えたシンクロだわ」
驚きよりも感動的な感情の方が先に立つ。
「お待たせ、キンセイ。その絵がどうかした?何か気になることでもあった?」
絵を見ていた菫青の背後に声を掛けた菊花が不思議そうな顔をしていた。
「キッカ。「天藍堂」のギャラリーにもこの絵と同じ手法で描かれたゼンタングル作品がたくさん展示されていたの。なぜかちょっと懐かしい気持ちになってしまったわ」
「そうなの?キンセイの世界にも同じものがあるのね。ここのオーナーを紹介するわね。「京極天藍」彼がこのサロンの経営者よ」
その名を聞いて驚いた菫青の動きが停止した。
next soon →#11
「天藍堂」はちょっと違う




