#5 此処はオーリカ
二億五千万年前の地球と
「ねぇ、キンセイ。あなたはこの土地、と云うか、この国の人間ではないわね。どこから来たの?風の国?日の国?地の国?」
どこからとは出身地のことだろうか。
それにしても、風だの火だのなんのことだろうかと菫青の中に芽生えた疑問を口にする。
「ここはどこの国でなんて云う町なんですか?風とか火とか地の国?聞いたこともないわ」
まるで物語の中に迷い込んでしまったような気分になる。
「ここは「オーリカ王国」の水の国の水月町と云う街よ」
「オーリカ王国?水の国?水月町?地球じゃないの?」
単なる疑問を口にしただけなのに、菊花は問われた内容を把握出来ずにポカンとした顔をしていた。
「え?ここは地球よ?一つの大陸と一つの大洋で成り立っているわ。オーリカは大陸で四つの王国に分割されているのだけど、大本は一つの王国なのよ。この地球に生存するものなら誰でも周知の事実なのだけど?キンセイ、あなた、もしかして別次元からやって来た宇宙人とか?」
菫青の現在の棲息地はもちろん地球である。
だがしかし!大陸はユーラシアやアフリカやアメリカと云ったいくつかに分かれていて、海も太平洋だったり大西洋だったりと大陸を隔てて、やはりいくつかの海洋に分割されている。
「オーリカなんて来たこともないわ。それにアタシの出身地は日本と云う国だもの。何百と云う国に分かれているわ。ここでは四つだけなの?どれだけ広大な領土なのかしら。想像し難いわ」
かなり、リアルさに欠けているのはシーラカンスの幻想意識に取り込まれてしまったからなのだろうと推測される。
「キンセイ、あなたの話を聞きたいわ。同じ地球上であって同じ時代ではない世界で私達は生きているのかも知れない。実に興味深いわ」
やや興奮気味に菊花は菫青をこのまま放そうとはしなかった。
「それなら、アタシもキッカに訊きたいことがあるわ」
双方の意見が一致したところで、菫青は菊花に連れられてどこかへ向かった。
この見知らぬ土地で一人でうろつく訳にもゆかず、菊花の誘いはむしろ有り難かった。
リアルなのか、ファンタジーなのか。
判断の出来ない空間に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥ってゆく。
『アタシは夢を視ているのかしら。確か「天藍堂」に立ち寄って、謎の古代魚の目の前でアタシはどうしたっけ
?そうだ、シーラカンスとチャネリングしたのだわ。それが未だに続いているってことかしら?』
菊花の後を着いて歩きながら周りを見渡してみる。
水の国と云うだけあって水路の多さに圧倒される。
対岸に渡るための大小様々な橋が掛けられている。
まるで、イタリアの水上都市ヴェネツィアの旧市街のようだ。
「ここはどこまでも水路と橋でつながっている土地なのかしら」
見たままを口にする。
「そうよ。水の国と云うだけあって、水は豊富にあるわ。水中庭園も多いわよ。あと水晶庭園なんかもあるわ。私のお気に入りの庭園もあるの。キンセイも絶対に気に入ると思うわ」
特に質問した訳ではなかったが、菫青の言葉を耳に捉えた菊花が反応を示した。
「へぇ、そうなの。アタシの住んでいる世界にイタリアと云う国があるのだけど、その国には都市が海の上に造られた水上の街がここと似てるなと思ったの」
海上都市と云えばヴェネチアが代表として思い浮かぶ。
しかし、四つの国しかない上に大陸が一つしかない地球では想像し難いであろう。
「イタリア?この国では聞いたことのない言葉の響きだわ。オーリカは一つの超大陸だけど。約三億年前には大地がいくつかに分断されている時代があった痕跡が見付かっているから、キンセイはもしかしたら時限を飛び越えて来たのかも知れないわね」
本当にそうなのであろうか。
これはあの怪しげな店にいた古代魚に視せられている夢ではなかろうか。
現実味が余りにもなさすぎる。
「もし、アタシのいる三億年前の時代をもう三億年前に遡るとしたら地形や海洋もまた違った形をしていたのかしら」
大陸は長い年月を掛けて少しずつ移動していると聞いたことがある。
「プレートテクトニクスね。」地殻変動よね。プレートがぶつかったり放れたり沈み込んだり、地球も大概に忙しい惑星よね。その上に人間やら動物やらがわらわら棲息しているんだものね。そりゃ、騒々しいでしょうね」
「あっははっ」と笑う菊花の例え話が豪快すぎる。
なんだか性格まで自分の母親に似ている気がする。
「キッカは本当にうちのママに性格までソックリだわ。うちのママもとっても漢前で、スッキリサッパリとした性格をしてるのよ」
段々と他人とは思えない既視感を覚える。
「へぇ、キンセイのママに似ているなんて光栄ね。実際にお目に掛かりたいわ」
菊花も菫青に対して、どこか他人とは思えぬ感情を持ち始めていることに気付く。
「ええ、是非、紹介したいわ」
「約束よ」
「もちろん」
本当にその日が来ればいいと思う。
不確かな約束事ではあるが、菊花と同じ名を持つ母親の菊花に逢わせたいと思うのは本心であることは確かだった。
「それよりも、アタシの目がおかしくなったのかしら。木々や花や岩?それらがところどころ半透明に視えるの」
顕かに自分がいた次元とは違う景色に違和感を感じていた。
「あなたの目はどこもおかしくはないわ。水の国の樹木や自然界の動植物は半水晶化しているものもあるわ。水の国は水が豊富な国でもあるけど、鉱物の水晶の国と云っても過言ではないわ」
自分の目がおかしくなったのかと疑ってはみたものの、それは誤解だったことが分かった。
視たところ樹木が化石化している訳ではなさそうだ。
「こんな世界が存在するなんて信じられないし、初めて視る世界だわ。アタシの生きている世界にも水晶は存在しているけど、鉱物としての水晶だわ。工業製品の材料として使われることも多いけど、生きている動植物が水晶化しているなんて、まるでファンタジーだわ」
場所によっては樹木が化石化した水晶も存在はしている。
見るもの全てが新鮮で、菫青は驚きつつもテーマパークに迷い込んでしまったような高揚感に襲われた。
しかし、もっと信じられない光景を目の当たりにすることになる。
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二億五千万年後の地球




