#21 夜天兄弟
仕事と支事と志事
「いつまでもつなげておく訳にはいかないから一旦切るしかないわね。それはそうと、セイ、この通話、普通に操作したの?」
あっちの世界とこっちの世界。
不思議なことにちゃんと電波はつながっている。
「そうだよ。普通に操作したよ。ちっとも帰って来ないからさ。金兄がすごく心配してる」
金兄とは夜天家の長男で双子にとっての実兄である。「夜天金剛。ヤテンコンゴウ」のことだ。
年齢差十五才放れている分、特に末の双子に対して過保護すぎるところが玉にキズなのである。
「それは申し訳ないけど、今すぐには戻れそうにないわね。だって、まだ色々なこと体験したいもの。この水の国のキッカ以外の人達とも逢ってみたいわ」
行き先が別時代だとは説明しにくい。だけど、好奇心は止められない。
「分かったよ。なんとか都合のよい言い訳を探しておくよ」
星葉の言葉に安堵する。
ここは星葉に全て任せようと思う。
「それじゃあ、後はよろしくね。こっちも充電ヤバくなりそ、あれ?電池残量が百パーセントのままよ?なんでかしら、すごくない?」
菫青もだが画面の向こうでも星葉が驚いていた。
「えー!なんじゃそりゃ。イイナァ。ボクもそっち行きたい」
好奇心に勝るものなしの星葉が羨ましがる。
「来たところでアタシと逢えるかは分からないわよ。もしかしたら、風の国とか火の国に飛ばされるかも知れないでしょ。そうしたら容易には逢えないわ。お願いだから家で大人しくしててちょうだい」
「分かったよ。その代わりお土産忘れないでよね」
「買えたらね」
例え、買えたとしても持って帰れるものだろうか。
とりあえず、この世界では充電切れの心配はなさそうなのでホッと胸を撫で下ろす。
「あなた達すごいわね。なんか飛んでも兄弟だわ。弟さんだっけ?お兄さんだっけ?彼はキンセイが元いた世界にいるのでしょう。お互い違う世界にいてその小さな魔法の箱を観ながら話してる会話が普通すぎるわ。どちらも危機感なさすぎてすごいわ」
通話を終了させたところで菊花が興奮気味に捲くし立てる。
「えっ、そうかしら?いつも通りにしてるだけよ。だって何をどう騒いだところで状況は変わらないもの」
至って冷静な菫青に呆れつつも、益々関心度合がアップする。
「キンセイのその冷静さはどこからくるの」
「さっきので分かると思うけど、この状況を説明しても最後はお土産をねだる人間よ。こちらが焦ったところで向こうのペースに持ち込まれるだけなのよ」
星葉に常識も良識も求めてはならない。
それが菫青の双子の兄である星葉との関わり方である。
「ホント、面白い兄弟ね。あなたのご両親の教育方針が知りたいわ。とても寛大で包容力のある方々なのね」
自分の母親とそっくりな(特に若かりし頃の)菊花は特に母親がたまに見せる切なげでいて優しい表情をした時の姿にそっくりすぎて戸惑っている。
『まさか、結婚前のママだったなんてことはないわよね?』
生まれた年代も生きている時代も違うはずなのに、余りにも共通点が多すぎる。
ただでさえ、納得も理解もし難い状況下にいるのだ。
次から次へと現れる理解の度を超えた現象に思考が追い着かない。
「うちのパパもママも宇宙規模なくらい寛大な心の持ち主よ。何かをするにしても求めるものはいつも自分だってこと。全ての責任は自分に返って来る。そんな風に育てられたわ。あっ、でも年の半分は自宅にいない両親なのよ」
両親自体が自由奔放なせいか余り家にいたことがない。
仕事大好き人間なのだ。
仕事は支事と称するに値するくらいに、哀しいかな多分、家族よりも何よりも人々のためになりたいと思っている人達だ。
「それは淋しい思いをして来たのね。年端もいかない年齢の子供には親が恋しいでしょうに」
菊花は自分だったらどうだろうかと考える。
しかし、そこには疑問を感じる。
菊花も仕事は大好きである。もしかしたら、菫青の両親のように子供より仕事を選んでしまうかも知れないとも思う。
心境は複雑である。
「ええ、そうね。やはり両親、特にママを恋しいと思ってずっと泣いている時もあったわ。でも、その代わりに兄弟達がいてすごくよかったと思えたわ。兄達にはとても感謝しているの」
菫青の幼少時代は淋しさ半分、心強さ半分と云った状況なのは兄弟の存在が大きい。
「キンセイはとても頼もしいよい家族を持っているのね。それはすごくステキなことだわ」
「そうね。アタシもそう思う」
菊花の賞賛に照れ臭そうに微笑んだ。
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生き甲斐になるのはどれ?




