#15 自分は自分
人は人
実際に知らないものは想像のしようがない。
ならば、今ここにある全てが自分の視ている夢の世界なのだろうか。
「どうかしたのキンセイ?」
急に黙り込んだ菫青を、テーブルの向かい側に座った菊花が訝る。
「うん、こうしているのはアタシが視ている夢なのかも知れないって思っただけ。もしアタシの知らないパラレルワールドなら、アタシが見たことのない物とか出てきてもいいようにも思える」
現実なのか、虚構なのか、判断するのが難しい。
「キンセイはどちらがいいの?どこにいとうと何を見ようとあなたはあなた。キンセイ以外の誰かになれる訳ではないわ」
菊花の言葉に「ハッ」となる。
「どこにいてもアタシはアタシ」
例え、別次元に飛ばされたとしても今ここに存在するのは現在の自分でしかないのだ。
「そうよ。今を楽しみましょうよ。私はあなたに出逢えた現在を楽しみたいと思っているわ。もしかしたら、突然消えてしまうかも知れない。いずれ、キンセイが本来いるはずの世界に帰ってしまうかも知れないけれど、それまでの間にあなたのこと知りたいわ。こんなにユニークなことは滅多に起きないから」
たまには日々の生活に刺激的なエッセンスがあってもいい。
「今をたのしむ」
菊花の言葉を反芻する。
この言葉こそ、常々、菫青がモットーにしているキーワードだ。
「そうよ。今は戸惑うことでいっぱいかも知れないけれど、それすらも楽しめればこの世界でも退屈はしないわ」
そう云う菊花自身も、菫青と出逢えたこの状況を楽しんでいるようだ。
「それもそうね。悩んでいたって仕方ないわね。戸惑うことばかりだけど、それをたのしむことに決めたわ」
どこか吹っ切れたらしく、菫青の表情に明るさが益した。
「ひと段落ついたところで、お茶のおかわりは如何?」
「いただきます」
応えた菫青のカップに菊花が注いだアールグレイの香りが再び立ち込めた。
「それじゃあ、キンセイ、あなたのことを訊いてもよいかしら?」
「ええ、どうぞ、なんでも訊いてくれて構わないわ」
これからどんな質問攻めにあうのか、予想はつかないがその分自分も菊花に同じように訊ねようと心に誓う。
「ありがとう。さっき兄弟が多いと云ってたけど、全員がキンセイより年上なのね」
「そうなのよ。長男から始まって六男のアタシまでみんな男ばかりなの。五男の兄と六男のアタシは双子なの。そのせいか、末っ子のアタシが幼少期から女の子みたいに育てられたわ。これはママの趣味とも云えるわね」
昔を懐かしむように遠い目をする。
next soon →♯16
自分は自分




