#14 身バレ
紅茶ならやっぱり
熱いシャワーのお湯が全身を潤してゆく。
「はぁ、生き返る。アタシはこれからどうなるのかしら。まるで夢を視ているようだわ。それにしては現実的すぎるし、そう云えば、スマホ持ってたはず、電波届いているのかしら?うーん」
シャワーから流れ落ちるお湯と共にひとり言が流されてゆく。
あれこれ思考を巡らせても状況が変化する訳ではない。
シャワーを終えて脱衣所に出たところで「ハタッ」と気が付いた。
「あっ着替えどうしよう」
とりあえず、用意されてあるバスタオルを使用する。
身体の水滴を拭ぐおうとした瞬間に扉が開いた。
「キンセイ、着替えを持って来た、わ。?ええ!キンセイ、あなた!」
脱衣所に佇む菫青の姿を目にした菊花が言葉を失った。
「あーあ、バレちゃった?でも別に隠してた訳ではないのよ」
菫青の腰に巻いたバスタオルから上半身へ視線を移すと、そこには女性なら本来あるべきものがなかった。
「キンセイ、あなた、オトコの子だったの?」
両目を見開いて驚愕する菊花が叫びにも似た声をあげる。
「そうなの。アタシは生まれた性別は男児なの。でも生活スタイルは女児として育てられたのよ」
洗いたての濡れた黒髪を掻き上げる菫青は十代とは思えぬ艶やかさを醸し出していた。
「女の子として育てられたってこと?」
驚きから落ち着きを取り戻すと、菊花は今度は好奇心で一杯となる己の感情を抑えることが出来ずにいた。
「んーまぁ、中身まではそうとは云えないのだけどね。アタシには兄が五人いるの。五人目と六人目が双子でね。その六人目がアタシなの。今度こそ女の子をと思ったら、またもや男児だったの。それも二人同時にね」
菫青は何事もないように話すが、考えてみればちょっといたたまれない内容だと思わずにはいられない。
「キンセイはそれに対して抵抗はなかったの?」
男児が女児として振る舞うなら、本来のジェンダーが邪魔になるのではなかろうか。
「別になかったわ。アタシのママの趣味がアタシに投影されたのは間違いないけれど、可愛いお洋服や小物に囲まれるのは嫌じゃなかったから全然抵抗はなかったの。それにアタシはママが大好きなの。ショッピングに連れ出されてママと二人で遊びに行ったりしたのはママを独り占め出来るチャンスだから、逆に嬉しかったわ」
聞くにキンセイは相当なマザコンのようである。
「キンセイのママ大好きすぎるのがよく分かったわ。でも、いつまでもその姿でいると風邪をひくわ。とりあえず、これ着てもらえるかしら、サイズは合うと思うのだけど」
菊花が手渡したのはピンクのTシャツとピンクのジャージだった。
トップスの前ファスナーと袖口とボトムの裾には別布のフリルが施されている。
なんともラブリーなジャージである。
「ありがとう。キッカ。借りるわね」
「それじゃあ、着替えたらリビングに来てね。お茶の時間にしましょう」
脱衣所を出た菊花は突然のお客様を持てなすためにお茶の準備に取り掛かった。
『出逢った時から違和感を感じたけど、それは性別を超越していたからなのかしら?それだけではないとも思える不思議な魅力のある子だわ』
男女の垣根を超えた何かを菫青に感じる。
その正体、正確には生体を探りたいと思うのは、好奇心だけではない。
「お待たせ。着替えをありがとう」
リビングに姿を現した菫青が着用したジャージのサイズはドンピシャに合っていた。
それもピンクカラーがとてもよく似合っている。
「なんだか、私より似合ってて悔しいわね」
苦笑を隠せない菊花は菫青の身のこなしが一朝一夕ではないことを目の当たりにする。
「そお?まぁ、普段も家では似たようなルームウェアも着ているせいかしら」
菫青はあくまでも自然体だ。
「お茶の用意が出来たから、そこに座ってちょうだいね」
菊花がテーブル向かいの椅子へと促す。
「ありがとう」
礼を述べつつ菫青が座席に着いた。
紅茶の茶葉をポットに容れ、沸かしたばかりの熱いお湯を注ぐ。
二~三分蒸らしてからカップへ注ぐと、紅茶特有の芳しい香りが立ちあがり鼻腔をくすぐる。
「アールグレイね。いい香り。アタシも大好きな香りのお茶だわ。ありがとう」
注がれたカップを持ちあげて香りを楽しむ。
次元や時代が違っても、同じ物質や習慣は受け継がれているのだろうか。
それとも、自分の思考の及ぶ範囲での想像でしかないのだろうか。
next soon →#15
アールグレイが一番




