結託
それからと言うもの、彼は毎朝私に会いに来て、仕事終わりにも私に会いに来るようになった。
そのほかにも花やドレス、アクセサリーなどの贈り物も止まることを知らない。
空間に余裕のあったはずの衣装クロークにはこれでもかと言うほどのドレスが詰め込まれている。
そして、彼の仕事が休みの日にはお茶をしたり街に連れられたりの日々を過ごしていた。
彼の行動には父も感心を示しており、父曰く、
「番を見つけた竜人が、番と離れて暮らして尚且つ紳士的な行動を取り続けているのは本当に目を疑うよ。」
とのことだった。
番だと言われ、少しだけではあるが、書物を調べてみた。
竜人の番は、番を見つければ、一時さえも離れることを嫌がるくらいの執着を示し、相手のことはそれはもう大切にするらしい。
「この世に存在する種族の中で最も愛情深い種族・・・ね。」
前世を含めたとしても、恋愛をしたことは一度もない。
どうせいつかは死ぬのに、わざわざ誰かと一緒になる必要性を感じなかったから。
「エヴァ、何を読んでいるのですか?」
「うわっ。びっくりした。」
「すみません。何度か声はかけたのですが・・・。竜人に関する書物ですか。エヴァが私に関心を持ってくれて嬉しいです。」
当たり前のように後ろから抱きしめられ、膝の上に乗せられる。
初めこそ嫌がって暴れていたが、ここ最近はもう慣れてしまった。
日中近くにいないので、充電をさせてくださいとのこと。
「ジルバは、なんでそんなに我慢できるの?」
「え?」
「本に書いてあった。番を見つけた竜人は、長時間番と離れると、不安定になって最悪の場合、魔力暴走を起こすこともあるって。」
「ああ、そのことですか。」
本に書いてあったことを率直に聞いてみた。
「確かに、エヴァと離れている時間は、体が引きちぎられるような思いですが、朝と夜に会うことで、なんとか自我を保てていますね。あとは、あなたのお兄様からいただいたお守りもございますので。」
「お兄様からもらったお守り?」
一体何を兄から受け取っているのか。正直、嫌な予感しかしない。
そうして見せられたのは一枚の写真。
「なんでジルバがそれを持っているんですか!今すぐ捨ててくだい!!」
「ダメです!こんなに可愛いあなたの写真を捨てるわけにはいきません!」
仕舞いには、「私に魔力暴走を起こせと言うんですか?」と言い始め、それを言われると何も言えなくなってしまい、黙る。
「エヴァは目を離すとすぐに生を手放そうとする。そんなエヴァを小さい頃から守ってくださっていたアベルには感謝しても仕切れないのです。アベルがいなければ、こうしてあなたと出会うこともできなかったので。」
そうして今ではジルバもガードに加わってしまった。
先日、兄からも「ジルバはいいやつだな。あいつなら安心してお前を任せられる」と言われてしまった。
兄とジルバの結託は、私の中では死活問題。
これでは、全方位抜け目が限りなくなくなってしまっている。
「そこで結託されると困るんですけど。」
「私も、エヴァに死なれては困るので、アベルと結託するのは自然の摂理かと。」
私のお腹に回している腕に少しばかり力が入る。
「そろそろ、諦めてはくれませんか?」
懇願するようにいわれ、返す言葉が見つからない。
前世の頃から染み付いてしまった私の自殺癖。
生きる意味の見出せない生活に、嫌気がさしているのだろうか。
前世なんてものを持ちながら、何かを成し遂げられるような人間じゃない自分が、何者にも慣れない自分が大嫌いだ。
今だって。自分のことを心から心配し、守ろうとしてくれている人がいるが、それを素直に受け取れない自分が嫌いだ。
いつからこんなに捻くれたんだろうか。
「エヴァはいつも、前向きな未来を見ないようにしている気がします。」
そうなのかもしれない。
未来に希望を持ったところで、成し遂げられない自分に嫌気がさすだけだから。
「何も、壮大な夢を見ようって言ってるわけじゃないんです。少しづつでいいんです。一年後、二年後みたいな、年単位じゃなく、明日、これをしてみようとかないですか?」
「明日・・・」
今までは、明日も明後日もどうやって死のうか、そればっかり考えていた。
でも、今聞かれているのはそういうくらいものじゃない。
私にもできそうな、何か。
「私はいつも、どうやってエヴァを笑わせようかを考えています。」
笑わせる・・・。
確かに、ジルバに向かって笑ったことはなかったかもしれない。
そもそも、この世界で笑ったことが全くない。
多分、初めて笑みを浮かべたのは大蛇を前にしたあの時だけ。
「決めました。」
「本当ですか?何をします?」
私の回答をキラキラの目で見つめてくるが、教えてはあげない。
「明日までのお楽しみです。」
明日、あなたのびっくりした顔を見ることができるのだろうか。
次の日にちょっとした楽しみがあるだけで、少し浮き足だった気持ちになることを、私はこの時初めて知った。




