竜人
命を助けられてしまったことへの絶望。
私のことを番だという竜人の出現。
キャパオーバーで脳がショートした後、目が覚めたら見慣れた天蓋だった。
「エヴァ!!おはようございます」
「きゃああああ!」
なぜ未婚の令嬢の部屋に男性が入っているのか。
そしてなぜか握られていた手を離してくれない。
いくら前世の記憶があるとは言っても、10年以上はこっちで生きているのでこっちの世界の習慣くらいは身についてしまうというもので。
婚約者でもなければ、なんなら名前すら知らない人が部屋の中にいれば叫んでもおかしくない。
「お嬢様、大丈夫です。」
部屋の隅から何やら女性騎士が走って私を落ち着かせてくれる。
話を聞くに、この男がわがままを言って私の部屋に居座り、それに父が難色を示すので部屋の中に騎士をつけるように言ったらしい。
いや、お前が諦めろよ。
そう思わずにはいられないが、あることに気づいて納得した。
それは、目の前にいる男の耳だった。
黒く長い髪を少し緩めに一本にまとめているので、竜人特有の数枚鱗のついた尖った耳は隠されることなく晒されている。
それに、深く吸い込まれそうな青い瞳の瞳孔は、縦にきれている。
この男は間違いなく竜人だ。
それに、私を助けた時のスピードと魔法。
ずば抜けた運動能力と高い魔法スキルを持つ竜人族なら納得だ。
「それで、なぜここに?」
「あなたと離れたくなかったので。ついでにあなたのお父様にあなたとの婚姻の許可をもらいに。」
何がついでだ。
ついでで勝手に当事者なしで話をしないでくれ。
私がショートする前に、この男は私のことを番と言っていた。
「本当に私が番だと?」
「ええ、もちろんです」
率直に質問しても当たり前だと言うように間髪入れずに返答が返ってくる。
「お断りします。」
私がはっきりそう告げれば、目の前の男は笑顔のままフリーズした。
彼は竜人で、自分の番を感じられているだろうが、こちらは人間だ。
人間に番などという感覚は分からない。
だから私がこの話を受ける義理は無いはずだ。
何より、誰が名前も知らない人と婚姻を結ぶというのか。
「何故でしょうか……」
「なぜも何も、私は名前も知らない男性と婚姻関係を結ぶような女ではございません。」
それに、私を番だと言う男に捕まったら最後、生を手放すということは許してくれなくなるだろう。
私にない生きる意味・目的をこの男が簡単にくれるとは思わない。
「では、互いに互いのことを知りましょう。私はジルバ・ドラグヴァルト。帝国騎士団で、魔物討伐を主に行う第4騎士団の団長の任を受けています」
聞いてもいない自己紹介を始められてしまった。
「婚姻の申し込みに対するお返事は今じゃなくていいです。私に、少しでもチャンスをいただけませんか?」
「ぅっ・・・。わかりましたから、その顔やめてください」
私も非道な人間にはなりきれなかったらしい。
ここまで明らかにしょげられると対応に困ってしまう。




